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24 急展開
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ツルピカにされて疲れ果てて就寝した翌日。事態は急展開を迎える。
「は?想いが通じ合った?」
ヘンリックのもとを訪れようと準備していたら、それより早くヘンリックから先触れがあった。首を傾げながらも迎える準備を整えたところに満面の笑みで訪れたヘンリック。その報告は予想外のものだった。
「昨日の今日で一体なにが……」
「いやぁ、まさか君が私たちのスパイスになってくれるとはね。ふふふ、誤解されて焦ったけれど、結果こんなに早く実を結ぶなんて。感謝してるよユージーン」
心なしかいつもより肌艶が良いヘンリックは、かつてないほど上機嫌だった。
「なにを言っているのかよくわからないが、つまりこれで帰れるのか?」
「そうだね、心は通じ合ったし必ず迎えに行く約束もした。私がこちらに来てもいいのだけど、さすがに兄を見捨てることはできないからね」
「そうか……帰れるのか」
帰れる。つまり、面倒な任務から解放されるということだ。それは望んでいたことで喜ばしいことのはずなのに、胸にポカリと穴が空いたように空虚な気持ちになる。
「そうと決まったらさっさとヴァイツ殿下に挨拶して帰る準備をしないとね。ね?」
「あ、ああ……」
「どうしたの?珍しく歯切れが悪いね。あんなに帰りたがっていたじゃないか」
「そうだが……想定外の事態に驚いているんだ」
ユージーン自身、なぜ自分がこんな気持ちになるのかわからなかった。これでもとの安寧の日々に戻れるはずなのに。
「……そういえば、ユージーンもなにか私に話があったのだろう?なにかあったのかい?」
どうやら誰かからユージーンの予定も聞いていたらしい。しかし、今自分の話をするべきか、と悩む。
グラディア王国ではヘンリックの帰りが今か今かと待ち望まれている。帰国の準備は急務だ。ユージーンの個人的な相談事がそれに優先するはずもない。
「いや、いい。それより準備を始めなければ。まずは国に書簡を……」
「まて、ユージーン。そんな暗い顔をしてどこがいいんだ。私は嬉しいんだよ。個人的な話だろう?そんなこと今までしてくれたことがなかったじゃないか。ユージーンの話を聞く時間くらい捻出できる」
そう言うヘンリックは本当に嬉しそうで、それならばあのわけのわからない状態について早く解決してしまおう、と話すことに決めた。そうすればなんの憂いもなく清々しい気持ちで国へ帰れると。
昨日感じたよくわからないものを説明すると、ヘンリックは難しい顔をした。ひどく苦悩しているようだった。
「ああ……まさかそんな。ユージーン、君はそんなにちょろい人間ではなかったはずだろう?」
「なんだと!?いきなり私を侮辱するとはどういうことだ」
「侮辱じゃない!ひどいよユージーン!初めて君が相談してくれるなんて嬉しかったのに、そんな話だなんて思わなかった!」
悲愴な顔で訴えるヘンリックの勢いに負け、ユージーンの膨らみかけていた怒りは萎んでしまう。
「……私はなにか変なことを言ったのだろうか?」
「変なこと……いや、すまない。その変化は喜ばしいことなんだが……ユージーン、君は人に触れられるのを嫌悪していたのではなかったか?」
「ああ。私もそう思っていて……実際学生時代に無闇矢鱈と触ってくる輩はすべて例外なく不愉快だった」
「だよねぇ。はぁ……でもねユージーン。これは意地悪でもなんでもなく、その答えを私が言ってしまうのはダメだと思う。君自身が気付かないと意味がない」
「は?わからないから聞いているんじゃないか」
「いや、今私が答えを言っても君には理解できないと思う。それどころか、生まれたばかりのその芽を潰してしまうことになるかも……潰したほうがいいのか?」
途中まで神妙な顔をしていたヘンリックが、突然なにかを思いついたように目を輝かせる。そしてじっとユージーンの顔を見つめる。
「…………やめておこう。さすがにヴァイツ殿下が気の毒だ……。ねぇユージーン、私からはヒントだけあげよう」
「ヒント?」
「たとえば、そうだね、トムソンがユージーンを抱きしめてきたらどうする?」
「全力で振り払わせてもらう」
「では、誰だったら振り払わない?」
「そんな相手……」
考えて、ふとヴァイツのことが思い浮かぶ。しかし、昨日ヴァイツを振り払わなかったのは罰だったからだ。そういう事情がなく抱きしめられたら……想像すると昨日のくすぐったいものが胸に広がる。
「ああ、そんな顔して。一体なにが君の琴線に触れたのかわからないよ……。そりゃあ彼は学生時代に邪な下心を持って君に近づいてきた奴らとは違うだろうけど……もしかして本能的にそういうのを振り分けているのか?君は」
「は?なんの話だ。結局ヒントとはなんなんだ」
「今言ったことがヒントだよ。はぁ……素晴らしい朝のはずだったのに私は微妙な気分になってしまったよ。いずれにせよ準備が整うまで数日はかかるだろうから、その間ゆっくり考えたらいいよ」
ため息をついてヘンリックは立ち上がり、国への書簡は自分が用意するからと言ってそのまま部屋を出て行った。
「考えろと言ったって……」
考えてもわからないから相談したというのに。やはり人に相談したところで物事は解決しないのだな、とユージーンは大きく息を吐く。
とはいえ、わからないことを放置するのは気持ちが悪い。ヴァイツに会えばなにかわかるのだろうか。
いずれにせよ帰国の挨拶はしなければならない。ユージーンは、すっと立ち上がった。
「は?想いが通じ合った?」
ヘンリックのもとを訪れようと準備していたら、それより早くヘンリックから先触れがあった。首を傾げながらも迎える準備を整えたところに満面の笑みで訪れたヘンリック。その報告は予想外のものだった。
「昨日の今日で一体なにが……」
「いやぁ、まさか君が私たちのスパイスになってくれるとはね。ふふふ、誤解されて焦ったけれど、結果こんなに早く実を結ぶなんて。感謝してるよユージーン」
心なしかいつもより肌艶が良いヘンリックは、かつてないほど上機嫌だった。
「なにを言っているのかよくわからないが、つまりこれで帰れるのか?」
「そうだね、心は通じ合ったし必ず迎えに行く約束もした。私がこちらに来てもいいのだけど、さすがに兄を見捨てることはできないからね」
「そうか……帰れるのか」
帰れる。つまり、面倒な任務から解放されるということだ。それは望んでいたことで喜ばしいことのはずなのに、胸にポカリと穴が空いたように空虚な気持ちになる。
「そうと決まったらさっさとヴァイツ殿下に挨拶して帰る準備をしないとね。ね?」
「あ、ああ……」
「どうしたの?珍しく歯切れが悪いね。あんなに帰りたがっていたじゃないか」
「そうだが……想定外の事態に驚いているんだ」
ユージーン自身、なぜ自分がこんな気持ちになるのかわからなかった。これでもとの安寧の日々に戻れるはずなのに。
「……そういえば、ユージーンもなにか私に話があったのだろう?なにかあったのかい?」
どうやら誰かからユージーンの予定も聞いていたらしい。しかし、今自分の話をするべきか、と悩む。
グラディア王国ではヘンリックの帰りが今か今かと待ち望まれている。帰国の準備は急務だ。ユージーンの個人的な相談事がそれに優先するはずもない。
「いや、いい。それより準備を始めなければ。まずは国に書簡を……」
「まて、ユージーン。そんな暗い顔をしてどこがいいんだ。私は嬉しいんだよ。個人的な話だろう?そんなこと今までしてくれたことがなかったじゃないか。ユージーンの話を聞く時間くらい捻出できる」
そう言うヘンリックは本当に嬉しそうで、それならばあのわけのわからない状態について早く解決してしまおう、と話すことに決めた。そうすればなんの憂いもなく清々しい気持ちで国へ帰れると。
昨日感じたよくわからないものを説明すると、ヘンリックは難しい顔をした。ひどく苦悩しているようだった。
「ああ……まさかそんな。ユージーン、君はそんなにちょろい人間ではなかったはずだろう?」
「なんだと!?いきなり私を侮辱するとはどういうことだ」
「侮辱じゃない!ひどいよユージーン!初めて君が相談してくれるなんて嬉しかったのに、そんな話だなんて思わなかった!」
悲愴な顔で訴えるヘンリックの勢いに負け、ユージーンの膨らみかけていた怒りは萎んでしまう。
「……私はなにか変なことを言ったのだろうか?」
「変なこと……いや、すまない。その変化は喜ばしいことなんだが……ユージーン、君は人に触れられるのを嫌悪していたのではなかったか?」
「ああ。私もそう思っていて……実際学生時代に無闇矢鱈と触ってくる輩はすべて例外なく不愉快だった」
「だよねぇ。はぁ……でもねユージーン。これは意地悪でもなんでもなく、その答えを私が言ってしまうのはダメだと思う。君自身が気付かないと意味がない」
「は?わからないから聞いているんじゃないか」
「いや、今私が答えを言っても君には理解できないと思う。それどころか、生まれたばかりのその芽を潰してしまうことになるかも……潰したほうがいいのか?」
途中まで神妙な顔をしていたヘンリックが、突然なにかを思いついたように目を輝かせる。そしてじっとユージーンの顔を見つめる。
「…………やめておこう。さすがにヴァイツ殿下が気の毒だ……。ねぇユージーン、私からはヒントだけあげよう」
「ヒント?」
「たとえば、そうだね、トムソンがユージーンを抱きしめてきたらどうする?」
「全力で振り払わせてもらう」
「では、誰だったら振り払わない?」
「そんな相手……」
考えて、ふとヴァイツのことが思い浮かぶ。しかし、昨日ヴァイツを振り払わなかったのは罰だったからだ。そういう事情がなく抱きしめられたら……想像すると昨日のくすぐったいものが胸に広がる。
「ああ、そんな顔して。一体なにが君の琴線に触れたのかわからないよ……。そりゃあ彼は学生時代に邪な下心を持って君に近づいてきた奴らとは違うだろうけど……もしかして本能的にそういうのを振り分けているのか?君は」
「は?なんの話だ。結局ヒントとはなんなんだ」
「今言ったことがヒントだよ。はぁ……素晴らしい朝のはずだったのに私は微妙な気分になってしまったよ。いずれにせよ準備が整うまで数日はかかるだろうから、その間ゆっくり考えたらいいよ」
ため息をついてヘンリックは立ち上がり、国への書簡は自分が用意するからと言ってそのまま部屋を出て行った。
「考えろと言ったって……」
考えてもわからないから相談したというのに。やはり人に相談したところで物事は解決しないのだな、とユージーンは大きく息を吐く。
とはいえ、わからないことを放置するのは気持ちが悪い。ヴァイツに会えばなにかわかるのだろうか。
いずれにせよ帰国の挨拶はしなければならない。ユージーンは、すっと立ち上がった。
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