ガチケモナーは猫耳男子を許せない

某千尋

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23 胸の中のなにか

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 ヘンリックとヴァイツの様子を不思議に思いながらもあまり気にせず部屋へ戻ったユージーンは、寝室に直行して不作法にもそのままベッドに倒れ込んだ。今のユージーンには二人の様子よりもっと重大な関心ごとがあった。

「頭がパンクしそうだ」

 ユージーンの頭は昼間のことを思い出していた。
 膝の上に座らされて菓子を食べさせられ、茶を飲まされて。罰を望んだのはユージーンであるとはいえ、屈辱的で嫌悪すべき出来事のはずだった。

 しかしなぜか、その逞しい身体に包まれることが嫌ではなかった。恥ずかしさはあったし、この出来事をマリウスにでも知られたらしばらくユージーンは研究室に引きこもるだろうけれど。
 
「人とは、温かいのだな」

 ユージーンは人に抱きしめられたことがなかった。もしかしたら幼い頃に亡くした母に抱きしめられたことならあるかもしれないが、母との記憶はほとんど朧げだ。
 学生時代ユージーンの許可なく腕を絡めて胸を押し付けてくる女や馴れ馴れしく肩を組んでくる男はいたが、煩わしくてすぐ追い払っていた。その時の接触には、明確に嫌悪があった。

 だからユージーンは自身が人との接触を嫌っていると思っていたのに、ヴァイツの大きな腕に包まれて今まで感じたことのないなにかが胸に広がったのだ。それは嫌悪ではなかった。
 手ずから菓子を食べさせられるなど憤死してもおかしくない恥辱だが、ユージーンのペースに合わせて口に運ばれる菓子はいつもより甘かった。
 時折遠慮がちに髪を撫でる手は優しく、それが止まるとなにか物足りなく感じた。

 ふわふわとくすぐったいような温かいような感情を持て余し、そんな状態であることに気付かれたくなくて必死に無感情を装った。
 
 この感情はなんなんだ。
 問うてもユージーンの中に答えはなかった。
 自分のことなのにわからないことが気持ち悪くて、だんだん苛立ってくる。

 先ほどの晩餐会だって、なぜだかヴァイツの方を見られなかった。胸の辺りがそわついて、いつもより鼓動が大きくて。顔を見ると背中に感じた温かい体温や、腹に回された腕の逞しさを思い出してしまう。思い出すと顔が熱を帯びてしまい、そんな自分に気づかれたくなくてまた目を逸らす。

 なんだこれは。なんなんだこの状態は。

 手を伸ばされたとき、もしかしてまた撫でられるかもと期待した。そんな自分に驚いて思わず体を揺らした。まさかこの男に撫でられたいと思っているのかと。
 そして手が戻されたとき、一瞬胸が引き絞られるような痛みを感じた。
 ずっと昔に経験したことがあるような、初めてのことのような。それがなんなのか、ユージーンには分からなかった。
 ヴァイツがいなくなったことでいつもの状態に戻って落ち着いて食事をすることができたが、この意味不明な発作はこれからも続くのだろうか。

 こんなとき、誰かに相談でもできればいいのだろうが、ユージーンはこれまで人に相談などしたことがない。
 するとすれば……と思い浮かべたのはヘンリックの顔だった。
 付き合いは長いといえど、ユージーンにとってヘンリックは煩わしい知人でしかなかった。学院を卒業した後はほとんど会うことすらなく、今回の出来事がなければ一生関わることはなかったかもしれない。そんな関係だったため、以前はなにか悩むことがあったとしてもヘンリックを思い浮かべることはなかった。
 それがたった数日で、ユージーンの中でのヘンリックの印象は大きく変わっていた。その変化に、ユージーン自身は無自覚だったが。

「だが、あいつなんか変だったな」

 改めて晩餐会でのヘンリックの様子を思い出す。よくわからないが異様な雰囲気を纏っていたし、最後はひどく疲れているようにみえた。
 胸に生じたその感覚がなんかのかすぐにでも解決したいが、あんな状態のヘンリックのもとを訪ねるのはさすがに非常識が過ぎるだろう、と今すぐヘンリックのもとを訪れることは諦める。

 もう寝てしまおう。

 寝てしまえば気にならないはずだ、と考えることを放棄したユージーン。柔らかいシーツに沈むに任せて目を閉じ、微睡の世界へ引き寄せられ始めたころ。
 突然ガチャリと寝室のドアが開く音が聞こえ、すわ襲撃かと身を固くして音の出所に視線を向けると。

『まあまあギュスターブ様、そんな格好のまま寝てはお身体に悪うございます。それに寝られる前にきちんとお手入れをしなくては』

『湯浴みの準備は整ってございます。身体を温めることで血の巡りが良くなって睡眠の質も上がりますわ。お手伝いしますから、起き上がってくださいまし』

 入ってきたのは昼間ユージーンをこれでもかと飾り立てた使用人たちだった。お髪が乱れていますよとユージーンの身体を軽々起こして髪を整え、そのまま風呂へ連行する。
 もはや抱えられているような体勢だった。彼女たちとの体格差を考えると、彼女たちにとってユージーンを抱えることなど子供をそうするのと変わらないのかもしれない。
 ユージーンは想定外の事態に目を白黒させながら、これは言っておかなければと訴える。

『ちんちつだじょ!しぇめてノックはちてくれ!』
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