ガチケモナーは猫耳男子を許せない

某千尋

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26 思いつきで動くと後悔する

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 ユージーンは自分の提案を後悔していた。あまりに後先を考えない発言だったと。答えを出すことを優先するあまり、間違えた選択をしてしまったと。

「あのっ……昨日より強い気がするのですが?」

 ユージーンの提案を聞いて目を丸くしたヴァイツは、その透明感のある琥珀色の目を輝かせてぶんぶんと大きく頷いた。
 その行動は、猫というより犬……と思ったが、獣人にそんなことを言うのはタブーであり、ユージーンは口を噤んだ。
 
 しかし問題はそれからだった。
 ヴァイツは自身の座っている椅子を後ろに引いてスペースを作ったところで大きく腕を広げた。

 まさか、私自らそこへ腰掛けろと?

 期待に満ちたその目を向けられ、ユージーンは怯んだ。けれど言い出しっぺが拒否することなどできようか。
 昨日はまごつくユージーンをヴァイツが抱え上げて膝に乗せたから、今日もそうしてくれると思っていたのに。

 ユージーンは、人の膝の上に自ら座るという羞恥に耐えながらなんとかヴァイツの膝の上におさまった。貴族として生きてきたユージーンにとって、人の膝の上に座るなど無作法の極みだったが、研究者としての探究心が羞恥心を上回った。逞しく固い太ももにお尻を乗せ、なんとなくやり遂げた気持ちになっていたら、ぐっと後ろから腕が回ってきてユージーンを抱きしめた。その力は昨日よりも強く。
 痛いわけではないが、昨日よりさらにヴァイツと接する部分が大きく、全身余すところなく温かく包まれるような感覚に動揺する。やはり嫌悪はなかった。けれど昨日と違って心臓が耳にあるのかと思うくらい鼓動の音がうるさかった。
 これは違う。ユージーンは、昨日と同じ状況にしたいのだ。

「きっ……昨日と!」

 昨日と違うんじゃないかともう一度訴えようとするユージーンの言葉をヴァイツが遮る。

「昨日はあれでも我慢していた。……嫌がっているとわかっているのに、好き放題できるわけないだろう。ユージーンにこれ以上嫌われたくないのに」

 ユージーンの肩に顔を埋めてきたヴァイツが、もごもごとその肩口でしゃべる。ヴァイツの吐息が首元に当たり、ぞくぞくと背筋を上るものがあった。嫌悪とは違う新しい感覚にユージーンはさらに動揺する。

「でも、今日はあなたから望んだんだ。つまり、私の膝に抱かれることが嫌じゃなかったということだろう?……期待してもいいのか?」

 柔らかいものが首筋にあたる。それがなにかわからないが、ユージーンの意志に反して身体がピクリと反応する。
 恥ずかしさが限界に達したユージーンは、思わず喚く。

「ちがっ……だから!それがおかしいから確認しようとしたんであって!昨日と違うことをされたら困るんだ!」

「つまり、嫌じゃなかったんだな?」

「ああそうだ!それがおかしいんだ!私は昔から人に触られるのなんて嫌いなはずなのに、昨日は嫌じゃなかったんだ!それどころか嫌悪ではない別の感覚がして……それを確認したくて頼んだんだ!だから昨日と同じようにしてくれないか!」

 嫌じゃなかったんだ……と聞こえるか聞こえないかわからないくらいの小さい声でヴァイツがぽつりとつぶやく。

「……その嫌悪ではない感覚とは?」

「じんわりと胸にくすぐったいような、温かいようなものが広がっていく感覚だ」

 そう言うと、ヴァイツはガバリと勢いよく後ろに退いて、ユージーンの背中との間に隙間が生まれる。ユージーンは一瞬バランスを崩しかけたが、ヴァイツの左腕は彼の腰に回ったままだったためしっかりと支えられた。
 ユージーンがそろそろと首だけで後ろを振り向くと、ヴァイツは右手で口を覆っていた。心なしか目元がほんのりと赤い。

「それは…………告白だろうか?」

「は!?」

 ユージーンは自分がなにを言っているかわかっていない。ヘンリックがこの様子を見れば頭を抱えることだろう。
 なにもわかっていない様子のユージーンを見て、ヴァイツの顔色は元に戻っていく。そしてまじまじとユージーン見てから眉間に皺を寄せる。そして首を少し傾げて。

「なるほど……ユージーン、鈍いと言われないか?」

「なっ……!また私を侮辱するのか!」

 馬鹿にされたと思ったユージーンは、またも怒りを膨らませる。ただでさえ少しパニックになっていたユージーンの沸点はいつも以上に低かった。
 頭に血を上らせた勢いのままヴァイツの膝から降りてキッと睨みつける。

「もういい!こんな恥ずかしいこと二度としない!」

 その顔は怒りと羞恥で真っ赤になっており、深い藍色の瞳は潤んでいてひどく煽情的だった。ヴァイツはその表情にぞくぞくとその身を滾らせていたが、そんなことに露とも気づかないユージーンは、ぷりぷりと怒りながらその場を足速に去っていく。
 ユージーンのその後ろ姿を見ながら、ヴァイツは口元をにやけさせた。そしてその瞳孔を獣のように縦に開いて。

『ああ、もう絶対捕まえる。絶対に逃がしはしない。俺の獲物だ』

 近くにいた使用人や護衛たちは、ぶるりとその身を震わせた。
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