ガチケモナーは猫耳男子を許せない

某千尋

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27 再会

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 それからユージーンは徹底的にヴァイツを避けた。食事の時間も理由をつけて別途準備してもらって同席しないようにして。ここまですればさすがに文句を言われるかもしれないと思ったが、ヴァイツからはなにもなかった。
 ヘンリックは一度だけどうしたのかと訪ねてきたが、ユージーンが口を引き結んでなにも言わないと、諦めて戻っていった。ヘンリックは国とのやり取りで慌ただしくしており、それ以上ユージーンにかまけている時間もなかったのだろう。

 そうこうしているうちに準備が整い、ついに帰国の日を迎えた。
 結界の前に集まったユージーンたちグラディア王国の人間たちは、見送りにきたヴァイツたちと対峙していた。ここまで送ってくれた獣人の護衛たちも、ヴァイツの後ろに整列している。

「ヴァイツ殿下、色々世話になったね。私のわがままで迷惑をかけてすまない。詫びになるかわからないが、そちらの国には我が国で採掘された最高峰の宝石を贈ろう」

「愛のためにこの国に留まった王子については、関係者全員好意的に捉えている。なにせ我が国では愛に生きることがなによりも尊いこととされているからな。ただ、アドルフを蔑ろにすることは許さない。浮気もな」

「まさか!私の愛はアドルフだけのものだ。できるだけ早く迎えにくるさ」

 ヴァイツのすぐ後ろに控えるアドルフは、ただじっとヘンリックを見つめている。
 この短い時間の中で彼にどんな感情が起こってヘンリックの愛を受け入れたのか、ユージーンにはわからない。ただ、その目にはユージーンから見ても強い熱量があるように感じた。

「それにしても、こんなにあっさりユージーンを帰してしまうとはちょっと意外だな」

 ヘンリックの後ろで可能な限り気配を消していたユージーンは、自分の話題になりビクリと肩を揺らす。
 余計なことを……と後ろからヘンリックに抗議の視線を向ける。

「ああ。どうやら私も安心して送り出せるようだということがわかったからな」

「ほう?余裕だねぇ。でもどうだろう?ユージーンには一切自覚がないようだし、今回のことが公になれば彼の顔は売れるだろうから……候補者がたくさん立候補するかもしれないよ?」

「心配してくれるのか。しかしヘンリック殿下こそ心配した方がいい。アドルフもずいぶんモテるんだよ。恋人が遠距離だから寂しがっていると思えば、略奪を狙う者もいるだろうな。なんせ、我が国は愛に寛容だ」

 なにやら二人の会話の雲行きが怪しい。
 剣呑な雰囲気に両者を見比べてからアドルフに視線を向けると、彼もピリピリした雰囲気だけは感じ取っているのか、困惑した様子だった。

「ふふふ、彼は真面目だからそんなものに惑わされないさ」

「魔が差す、という言葉があるだろう?」

 二人とも表情だけは笑顔だが、背筋が凍るような不穏な空気を纏っている。ユージーンは寒さを感じ、ぶるりと身体を震わせる。
 その空気を霧散させたのはヴァイツの一言だった。

「ヘンリック殿下が悪い虫を追い払ってくれるなら、私も協力しよう」

「……いたしかたないな。これまでの悪い虫に比べれば、いくらかマシだろうし」

 悪い虫とはなんのことだろうとユージーンは首をかしげる。自分やアドルフの話をしているようだったが、どうも中身が見えない。
 わからないが、なにやら二人の間では解決をみせたようで、握手まで交わしている。

「さて、じゃあ戻ろうか、ユージーン」

 いつもの爽やかな笑顔で振り返ったヘンリックに頷き、ちらりとヴァイツを見る。すると、ヴァイツとばっちり目が合う。
 できるならばこのままなにも言葉を交わさずに帰りたいところだが、さすがに立場上問題だろう。ユージーンはこくりと喉を鳴らしてからヴァイツに礼をとる。

『ヴァイツ殿下、この度はおしぇわになりまちた。ぶしゃほうばかりでもうちわけありましぇんでちた。たいじゃいちゅうの寛大なご対応に深くかんちゃいたちましゅ』

『ああ、ユージーン。必ずあなたを迎えにいくからね』

 顔を上げると優しく微笑まれ、ユージーンはなぜだか頬が熱くなるのを感じた。

「さぁ、皆が待っている。いくぞユージーン」

 ぐいっとヘンリックに肩をもたれて結界を振り返る。思わずその手を払うと、ヘンリックが眉を下げる。

「まさか私に触れられるのも嫌なのかい?」

「いや、悪い。つい癖で」

 別に嫌悪感があったわけではないが、やはり触れられるのは得意ではなかった。

「まぁいい。これから忙しくなるぞ」

 忙しくなるのはヘンリックだけだろう、と言いかけて止まる。もしかして自分も忙しくなるのだろうかと。よく考えたら、これから両国の行き来が増えれば通訳に駆り出されるのではないか。

 そんな面倒なことしたくない。トムソンに丸投げしよう。あいつなら喜んで引き受けるだろう。

 そう心に決めてヘンリックたちと結界へ向けて歩き出す。塀にしか見えないところに向かって歩くのは二度目といえど慣れない。きたときと同じように、ぶつかる直前に目を瞑って歩を進める。

 わっ、と控えめに湧く声が聞こえ、目を開ける。最初に目に入ったのは王太子のリチャードだった。リチャードは騎士と言われても疑問を覚えないほど体格がよいが、その相貌は少し眼光を鋭くしたヘンリックで、二人はよく似ている。

「ああヘンリック。よくぞ無事に帰ってきた。待ち侘びていたぞ」

「兄上……。わざわざ迎えにきてくれたのですか」

「当然だろう。陛下も心配している」

「……この度は迷惑をかけ申し訳ありません。王族として相応しくない行動をしたことは重々承知しております」

「それはそうだ。戻ってこないと聞いた時は肝が冷えたぞ。だが今はそれはいい。さあ、戻るぞ」

 ヘンリックとリチャードが挨拶を交わしている間、ユージーンは全く違うことに意識が持っていかれていた。
 リチャードの後ろに控えているマリウス……の横にいる人物。

 なぜ、ここに。

 二人の挨拶が済んだとみて、その人物が一歩前に出る。

「ユージーン、帰るぞ」

 銀髪に薄い紫色の目の不機嫌な顔をした男は、ユージーンそっくりの顔で端的に告げる。
 隣にいるマリウスはなんともいえない顔をしているが、その男の行動を止めはしない。

「マリウスから聞いた。お前を獣人になどやるものか。王宮の駒になどさせない」

 視線を動かすと懐かしい家紋の入った馬車が目に入る。きっと、拒否することはできない。

「聞こえなかったか、こい」

 そう言って背を向けて歩く姿は、ユージーンがついてこないとは一切思っていないように見えた。
 ギリッと奥歯を噛んでマリウスを睨んでからユージーンはそれに続く。

 なぜ、父上がここに!
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