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65 このトラブルは想定外
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ヘンリックに獣人言語を教えたり、婚姻式の最終確認をしたり、慌ただしくしていたらあっという間に当日だった。
ウィルフレッドのことはヘンリックの助言もあってヴァイツにも伝えている。ユージーンとしてはあまり気にしなくてよいのではと考えているが、ヴァイツは殊の外深刻に受け止めていた。
王子の配偶者の弟、となるとおもねる奴らもいるだろうとのこと。
弟と言っても、ユージーンとウィルフレッドの間には確執がある。ちょっと調べればウィルフレッドが侯爵家を除籍されていることなどすぐわかる。ユージーンへの足掛かりとしては全く役に立ちそうにないのに心配の必要があるのかと、ユージーンはいまいちピンとこなかった。
首を傾げるユージーンに、ヴァイツはいくらでも接触の手段はあるとこんこんと説明した。
それこそ、母の画策によって離れ離れにされた兄弟の再会の機会を、みたいな展開もあるそうな。
ユージーンもウィルフレッドもいい年齢なのに、いまさら再会劇など寒いだけだろう、とユージーンは思うが、そこは感性の違いらしい。
いずれにせよ、現時点ではないもないので念のため気をつける、ということで話は終わった。
『美しいな、ユージーン』
婚姻式の衣装を身につけ、化粧も施され、あとは出番を待つばかりという中で、ヴァイツが我慢できずにユージーンの待機室へやってきた。
飾り立てられたユージーンを見てうっとりとため息をつくヴァイツだが、彼からすればヴァイツの方がよっぽど攻撃力が高い。
筋肉質な身体にぴったりと沿う衣装は、なんかもう、エロい。色気がすごい。
思わず語彙力を失うほど魅力的なヴァイツに、ユージーンは咄嗟に反応できない。
ただただ顔を赤くするユージーンに、ヴァイツは微笑む。
『君の隣に立つにふさわしい姿かな?』
『っ!やりすぎだ。こんなに派手な衣装を身につけさせられたのに、私が霞む』
『それは謙遜がすぎる。ユージーンは世界一の美姫にも劣らぬ美しさだよ』
『そんなわけがない。まぁ、ヴァイツが輝いていてくれれば、私も目立たなくて済むだろう』
『うーん、まぁそう思ってユージーンの心が軽くなるならそれでいいか』
そうこうしているうちに時間が来て、婚姻式会場へ進む。
これまで感じたことのないほどの高い緊張感の中挑んだが、事前にしっかり準備していただけあって、婚姻式はスムーズに終わった。割れんばかりの拍手と祝福の中、あっさりと二人の婚姻は認められた。
大事なのは、この後の披露宴。
会場を動きやすい衣装に着替え、再びヴァイツの腕を取る。
『ヘンリック殿下のそばには通訳がいるだろうが、会場にいる人間の参加者は彼だけだから、気を配っておこう』
一応、クライスも来ようとしたらしいが、結界を通れなかったとのこと。かなり悔しがっていたようだが、植え付けられた獣人への忌避感はそうすぐにはなくならないのだろう。
結果、人間側の参加者はヘンリックとその護衛たち。披露宴会場に護衛は入ることができないので、まさにヘンリックは孤立無援となる。もちろん、アドルフがパートナーとして参加しているのだが。
『わかっている。私と違ってヘンリックは社交的からそこまで心配はしていないが、どんな奴がいるかわからないからな』
念のため、スタルミナのことは事前に話して見覚えのない食べ物や飲み物は摂らないようにと伝えている。通訳もアドルフもいるので滅多なことはないと思うが、ユージーンに起こったようなことがヘンリックに起こる可能性もある。
ここでトラブルがあれば両国の和平がどうなるかわからない。
『それじゃ、行こうか』
ヴァイツとユージーンの入場を伝える声が響き、二人はゆっくりと会場内に足をすすめた。
会場から向けられる多数の目にたじろぎながらも、ユージーンはくいっと顎を引いて余裕を感じさせるような笑みを浮かべる。
婚約披露の時より、ずいぶん多い。
あの時も大規模な夜会だったが、今回はその上をいっている。それもそのはず、前回はその領地が遠すぎるなどの理由で参加が見送られた者たちも今回ばかりは駆けつけていた。
陛下の挨拶が終わり、歓談の時間になると、わあっと多くの獣人がユージーンたちに詰め寄ってきた。
みんな大きいから、普通に怖い。
内心そう思いながら、そうとは悟られぬよう努めて穏やかに応じる。だいたいはヴァイツが対応してくれるので、ユージーンはたまに相槌を打ち、微笑むくらいだが。
『いやはや、グラディア王国からも来賓がいたでしょう?彼もまた美しく、驚きました。こんなに可憐な方々だとは、生きているうちに知れてよかった』
好々爺然としたその貴族は、以前ユージーンに贈り物を届けてくれたうちの一人だった。
人間にかなり友好的らしく、周に集まっていた貴族らにもそうでしょう?などと同意を求めている。
『二人と彼らの婚姻がきっかけになって、獣人と人間が良い関係を築けることを祈っています』
『ええ、本当に』
ヴァイツと共に微笑み、ふと話題になったヘンリックはどこにいるかとさりげなく会場を見回す。
すると、もう一つ人の波ができている場所があり、その先にヘンリックがいるのを見つけた。
隣には通訳もいて、見る限り問題なく対応しているように見えた。
「あ、まずい」
見えたが、ヘンリックに近づく人物が目に入る。
あの特徴的な青と緑の髪の毛は。背に畳まれた羽、一見して種族がわかる尾羽。
見ると、アドルフはちょうど逆側にいる貴族に対応していて彼の接近に気づいていない。
『失礼。緊張のしすぎか少し体調がすぐれないので……』
慌てたユージーンは挨拶もおざなりにヘンリックの元へ向かう。しかし、ユージーンの周りには人が密集していたため、思うように動けない。なにせユージーンからすると巨人の中を縫って歩いているようなものだ。
なんなら、視界が悪くてヘンリックの姿も見失ってしまう。
『どうした、ユージーン。バルコニーに出るか?』
ユージーンを追いかけてきたヴァイツに振り向き、ヘンリックが……と言い募るとヴァイツはユージーンの進行方向へ目を向けた。
ユージーンも再び前を向くと、人の波の隙間から、まさにサイファーがヘンリックに羽を差し出しているところが見えた。
「あいつ!人間だったら誰でもいいのか!」
思わず悪態をつくが、それどころではない。
あれをヘンリックが受け取ってしまったら、面倒なことになる。ヘンリックとて獣人の文化はある程度学んでいるだろうが、まさか種族ごとの求愛行動の違いまでは把握していないだろう。
口に入れる物には気をつけろと言ったが、手渡された羽を受け取ることが求婚の了承になることなど、わからないに違いない。
状況を理解したヴァイツも動こうとしてくれたが。
遅かった。
興味深そうに羽を眺めていたヘンリックは、その羽を受け取ってしまった。
ウィルフレッドのことはヘンリックの助言もあってヴァイツにも伝えている。ユージーンとしてはあまり気にしなくてよいのではと考えているが、ヴァイツは殊の外深刻に受け止めていた。
王子の配偶者の弟、となるとおもねる奴らもいるだろうとのこと。
弟と言っても、ユージーンとウィルフレッドの間には確執がある。ちょっと調べればウィルフレッドが侯爵家を除籍されていることなどすぐわかる。ユージーンへの足掛かりとしては全く役に立ちそうにないのに心配の必要があるのかと、ユージーンはいまいちピンとこなかった。
首を傾げるユージーンに、ヴァイツはいくらでも接触の手段はあるとこんこんと説明した。
それこそ、母の画策によって離れ離れにされた兄弟の再会の機会を、みたいな展開もあるそうな。
ユージーンもウィルフレッドもいい年齢なのに、いまさら再会劇など寒いだけだろう、とユージーンは思うが、そこは感性の違いらしい。
いずれにせよ、現時点ではないもないので念のため気をつける、ということで話は終わった。
『美しいな、ユージーン』
婚姻式の衣装を身につけ、化粧も施され、あとは出番を待つばかりという中で、ヴァイツが我慢できずにユージーンの待機室へやってきた。
飾り立てられたユージーンを見てうっとりとため息をつくヴァイツだが、彼からすればヴァイツの方がよっぽど攻撃力が高い。
筋肉質な身体にぴったりと沿う衣装は、なんかもう、エロい。色気がすごい。
思わず語彙力を失うほど魅力的なヴァイツに、ユージーンは咄嗟に反応できない。
ただただ顔を赤くするユージーンに、ヴァイツは微笑む。
『君の隣に立つにふさわしい姿かな?』
『っ!やりすぎだ。こんなに派手な衣装を身につけさせられたのに、私が霞む』
『それは謙遜がすぎる。ユージーンは世界一の美姫にも劣らぬ美しさだよ』
『そんなわけがない。まぁ、ヴァイツが輝いていてくれれば、私も目立たなくて済むだろう』
『うーん、まぁそう思ってユージーンの心が軽くなるならそれでいいか』
そうこうしているうちに時間が来て、婚姻式会場へ進む。
これまで感じたことのないほどの高い緊張感の中挑んだが、事前にしっかり準備していただけあって、婚姻式はスムーズに終わった。割れんばかりの拍手と祝福の中、あっさりと二人の婚姻は認められた。
大事なのは、この後の披露宴。
会場を動きやすい衣装に着替え、再びヴァイツの腕を取る。
『ヘンリック殿下のそばには通訳がいるだろうが、会場にいる人間の参加者は彼だけだから、気を配っておこう』
一応、クライスも来ようとしたらしいが、結界を通れなかったとのこと。かなり悔しがっていたようだが、植え付けられた獣人への忌避感はそうすぐにはなくならないのだろう。
結果、人間側の参加者はヘンリックとその護衛たち。披露宴会場に護衛は入ることができないので、まさにヘンリックは孤立無援となる。もちろん、アドルフがパートナーとして参加しているのだが。
『わかっている。私と違ってヘンリックは社交的からそこまで心配はしていないが、どんな奴がいるかわからないからな』
念のため、スタルミナのことは事前に話して見覚えのない食べ物や飲み物は摂らないようにと伝えている。通訳もアドルフもいるので滅多なことはないと思うが、ユージーンに起こったようなことがヘンリックに起こる可能性もある。
ここでトラブルがあれば両国の和平がどうなるかわからない。
『それじゃ、行こうか』
ヴァイツとユージーンの入場を伝える声が響き、二人はゆっくりと会場内に足をすすめた。
会場から向けられる多数の目にたじろぎながらも、ユージーンはくいっと顎を引いて余裕を感じさせるような笑みを浮かべる。
婚約披露の時より、ずいぶん多い。
あの時も大規模な夜会だったが、今回はその上をいっている。それもそのはず、前回はその領地が遠すぎるなどの理由で参加が見送られた者たちも今回ばかりは駆けつけていた。
陛下の挨拶が終わり、歓談の時間になると、わあっと多くの獣人がユージーンたちに詰め寄ってきた。
みんな大きいから、普通に怖い。
内心そう思いながら、そうとは悟られぬよう努めて穏やかに応じる。だいたいはヴァイツが対応してくれるので、ユージーンはたまに相槌を打ち、微笑むくらいだが。
『いやはや、グラディア王国からも来賓がいたでしょう?彼もまた美しく、驚きました。こんなに可憐な方々だとは、生きているうちに知れてよかった』
好々爺然としたその貴族は、以前ユージーンに贈り物を届けてくれたうちの一人だった。
人間にかなり友好的らしく、周に集まっていた貴族らにもそうでしょう?などと同意を求めている。
『二人と彼らの婚姻がきっかけになって、獣人と人間が良い関係を築けることを祈っています』
『ええ、本当に』
ヴァイツと共に微笑み、ふと話題になったヘンリックはどこにいるかとさりげなく会場を見回す。
すると、もう一つ人の波ができている場所があり、その先にヘンリックがいるのを見つけた。
隣には通訳もいて、見る限り問題なく対応しているように見えた。
「あ、まずい」
見えたが、ヘンリックに近づく人物が目に入る。
あの特徴的な青と緑の髪の毛は。背に畳まれた羽、一見して種族がわかる尾羽。
見ると、アドルフはちょうど逆側にいる貴族に対応していて彼の接近に気づいていない。
『失礼。緊張のしすぎか少し体調がすぐれないので……』
慌てたユージーンは挨拶もおざなりにヘンリックの元へ向かう。しかし、ユージーンの周りには人が密集していたため、思うように動けない。なにせユージーンからすると巨人の中を縫って歩いているようなものだ。
なんなら、視界が悪くてヘンリックの姿も見失ってしまう。
『どうした、ユージーン。バルコニーに出るか?』
ユージーンを追いかけてきたヴァイツに振り向き、ヘンリックが……と言い募るとヴァイツはユージーンの進行方向へ目を向けた。
ユージーンも再び前を向くと、人の波の隙間から、まさにサイファーがヘンリックに羽を差し出しているところが見えた。
「あいつ!人間だったら誰でもいいのか!」
思わず悪態をつくが、それどころではない。
あれをヘンリックが受け取ってしまったら、面倒なことになる。ヘンリックとて獣人の文化はある程度学んでいるだろうが、まさか種族ごとの求愛行動の違いまでは把握していないだろう。
口に入れる物には気をつけろと言ったが、手渡された羽を受け取ることが求婚の了承になることなど、わからないに違いない。
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遅かった。
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