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ようこそこの世界へ
13.もう一人の兄様は
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気持ちが悪い。
未知の食べ物を興味本位で口にしそれが生理的に無理だった味のものを食べた時のようだ。
こびり付いて離れないあの声が未だ身体に纏わりついている。
ラーナ兄様はあの後叫ぶように精霊に全ての音を遮断するように頼んだが、消して欲しいところは聴こえていて、その後欲しい話は全て聴こえなかった。
目の前が再び明るくなる頃には、壁にもたれかかって涙ぐむラーナ兄様がいた。
「らぁ、らぁなにいしゃ」
「ごめん、ごめん。あそこまで聴かせるつもりは無かったのにッ」
ラーナ兄様は、どうやら俺に自分の母親がどのような性格をしていてなぜこの家で迫害されているのかを知らせたかったようだ。
口で言うには信じられない話だろう、けれど見せるにはあまりにも胸糞が悪すぎる。
だから本当は見せるつもりは無かったのだそうだ。
あそこで俺の名を出したのはなぜか。
曰く、俺が父様に認められた話をするつもりだったらしい。
と、そんな話をされても全部受け止めきれるわけがない。
気持ち悪い。気持ち悪い。俺の両親が何もかも。
どうしても、今ここにある全てを拒否したくなった。
「一度水を飲もうか。このままでは身体も冷えてしまう。」
そう言って俺を抱き直したラーナ兄様は、その場から離れ本邸に戻るのかと思いきやまた別の廊下に歩き始めた。
階段に辿り着くと、このまま地面をめり込むのではないかと思うくらい下っていく。
「らーなにいしゃま?」
「ああもう怖いところには行かないから安心して。ごめんね。次に行くのは———君の、もう一人の兄様のところだよ」
そう言ってたどり着いた地下一階のフロアを迷い無く進んでいく。
俺のもう一人の兄様。それって、確かそう、ええと……ちょっと待て思い出せない。
そもそもラナイフマジンルートってどんなルートだったのか?
「リア。入るよ。」
「えっ、あ、ラーナにいさま!?」
相手側の返事を待つことなく素早く3回扉を叩くと直ぐに開けてしまった。
次の瞬間、サアッとラーナ兄様の髪が元の色に戻った。
それにびっくり仰天していると、軽い衝撃と共に俺の身体の下に誰かがいる気がして下を覗き込む。
するとそこには一人の子供がいた。
灰色の髪に真っ黒に澄んだ瞳。
単調な素材自体は良さそうなシャツ1枚にサスペンダーが着いた短パン。
首からはラーナ兄様の瞳のように鮮やかな柘榴色のペンダントが下げられている。
たしかそう、名前は。
「リア、三週間ぶり。突然押しかけてごめんね。」
「いいえラーナにいさま!ぼくはあえるだけでうれしいのです!」
リアルトラー・ブリオングロード。
何度かラーナ兄様の口から出てきていた人名だ。
リアルトラー、リアルトラー、リアルトラー……?
まだずっと幼いリアルトラーはちょいちょいとラーナ兄様の袖を引っ張って部屋の奥に招き入れた。
出てきた飲み物はとても美味しそうに見えて、ラーナ兄様に視線を送ると直ぐにカップに注いで俺に手渡してくれた。
……んまい。やっぱり俺喉乾いてたんだな。
その様子を訝しげに見るリアルトラーは、首を傾げて自分の兄に聞いた。
「ラーナにいさま。そのこは?」
「この子はリアの弟だよ」
ラーナ兄様の言葉を合図にずっと深くまで被っていたフードを下ろされた。
すると、蒸れていた頭の感覚が髪と髪の間を冷たい空気が通り抜けて、心地いいサッパリとした気分になった。
視線を感じて顔を上げ、カップを手にリアルトラーと目を合わせた。
まだぷくぷくと丸みのあるフォルムが可愛らしく、きょとりと瞳をまるまる見せてくれるその顔が愛らしい。
「ぼくのおとうと?」
「そう。ネイファーイーヒャ・ブリオングロード。イーヒャって呼んであげてね。イーヒャ、この子はリアルトラー、リア兄様だよ」
「りあにいたま?」
真っ黒な瞳がこちらをあまりにも強く見つめてくるから、無意識にラーナ兄様の胸元の服を強く握りしめた。
途端、リア兄様がみるみる下瞼のふちに涙を堪らせていく。
「えっ、ちょ、リア?」
「ひっ、うくっ、だめなの、イーヒャはおとうとじゃないもん!」
「へっ?えっと?なんで?」
「ぜったいぜったいラーナにいさまはぼくのなの!」
えええっ!?泣き出した!?なんでだ!?
ラーナ兄様も驚いてしまって、急いでリア兄様を抱き寄せて次々と溢れ出てくる涙を拭う。
必死に宥めるラーナ兄様は俺を膝に乗せて空いたもう片方の手でリア兄様の背中を撫でていた。
涙が止まる様子は全く無く、身体の中の水分が全て奪われてしまうのではないかと零れていて、ラーナ兄様の胸シャツはリア兄様の涙でぐっしょりだ。
「り、りあにいたま?」
「さわんないで!」
思ったよりも強い拒否に身体を揺らす。
ラーナ兄様はそれにリア兄様を諌めると、もっと激しく泣き出してしまった。
「ひっく、うぇ、ぜったいラーナにいさまはわたさないから!」
今生の全ての恨み!とでも言うかのように俺を刺すかの如く睨むその瞳でやっと思い出した。
こ、この子!ラナイフマジンルートの悪役令息~~~!!
未知の食べ物を興味本位で口にしそれが生理的に無理だった味のものを食べた時のようだ。
こびり付いて離れないあの声が未だ身体に纏わりついている。
ラーナ兄様はあの後叫ぶように精霊に全ての音を遮断するように頼んだが、消して欲しいところは聴こえていて、その後欲しい話は全て聴こえなかった。
目の前が再び明るくなる頃には、壁にもたれかかって涙ぐむラーナ兄様がいた。
「らぁ、らぁなにいしゃ」
「ごめん、ごめん。あそこまで聴かせるつもりは無かったのにッ」
ラーナ兄様は、どうやら俺に自分の母親がどのような性格をしていてなぜこの家で迫害されているのかを知らせたかったようだ。
口で言うには信じられない話だろう、けれど見せるにはあまりにも胸糞が悪すぎる。
だから本当は見せるつもりは無かったのだそうだ。
あそこで俺の名を出したのはなぜか。
曰く、俺が父様に認められた話をするつもりだったらしい。
と、そんな話をされても全部受け止めきれるわけがない。
気持ち悪い。気持ち悪い。俺の両親が何もかも。
どうしても、今ここにある全てを拒否したくなった。
「一度水を飲もうか。このままでは身体も冷えてしまう。」
そう言って俺を抱き直したラーナ兄様は、その場から離れ本邸に戻るのかと思いきやまた別の廊下に歩き始めた。
階段に辿り着くと、このまま地面をめり込むのではないかと思うくらい下っていく。
「らーなにいしゃま?」
「ああもう怖いところには行かないから安心して。ごめんね。次に行くのは———君の、もう一人の兄様のところだよ」
そう言ってたどり着いた地下一階のフロアを迷い無く進んでいく。
俺のもう一人の兄様。それって、確かそう、ええと……ちょっと待て思い出せない。
そもそもラナイフマジンルートってどんなルートだったのか?
「リア。入るよ。」
「えっ、あ、ラーナにいさま!?」
相手側の返事を待つことなく素早く3回扉を叩くと直ぐに開けてしまった。
次の瞬間、サアッとラーナ兄様の髪が元の色に戻った。
それにびっくり仰天していると、軽い衝撃と共に俺の身体の下に誰かがいる気がして下を覗き込む。
するとそこには一人の子供がいた。
灰色の髪に真っ黒に澄んだ瞳。
単調な素材自体は良さそうなシャツ1枚にサスペンダーが着いた短パン。
首からはラーナ兄様の瞳のように鮮やかな柘榴色のペンダントが下げられている。
たしかそう、名前は。
「リア、三週間ぶり。突然押しかけてごめんね。」
「いいえラーナにいさま!ぼくはあえるだけでうれしいのです!」
リアルトラー・ブリオングロード。
何度かラーナ兄様の口から出てきていた人名だ。
リアルトラー、リアルトラー、リアルトラー……?
まだずっと幼いリアルトラーはちょいちょいとラーナ兄様の袖を引っ張って部屋の奥に招き入れた。
出てきた飲み物はとても美味しそうに見えて、ラーナ兄様に視線を送ると直ぐにカップに注いで俺に手渡してくれた。
……んまい。やっぱり俺喉乾いてたんだな。
その様子を訝しげに見るリアルトラーは、首を傾げて自分の兄に聞いた。
「ラーナにいさま。そのこは?」
「この子はリアの弟だよ」
ラーナ兄様の言葉を合図にずっと深くまで被っていたフードを下ろされた。
すると、蒸れていた頭の感覚が髪と髪の間を冷たい空気が通り抜けて、心地いいサッパリとした気分になった。
視線を感じて顔を上げ、カップを手にリアルトラーと目を合わせた。
まだぷくぷくと丸みのあるフォルムが可愛らしく、きょとりと瞳をまるまる見せてくれるその顔が愛らしい。
「ぼくのおとうと?」
「そう。ネイファーイーヒャ・ブリオングロード。イーヒャって呼んであげてね。イーヒャ、この子はリアルトラー、リア兄様だよ」
「りあにいたま?」
真っ黒な瞳がこちらをあまりにも強く見つめてくるから、無意識にラーナ兄様の胸元の服を強く握りしめた。
途端、リア兄様がみるみる下瞼のふちに涙を堪らせていく。
「えっ、ちょ、リア?」
「ひっ、うくっ、だめなの、イーヒャはおとうとじゃないもん!」
「へっ?えっと?なんで?」
「ぜったいぜったいラーナにいさまはぼくのなの!」
えええっ!?泣き出した!?なんでだ!?
ラーナ兄様も驚いてしまって、急いでリア兄様を抱き寄せて次々と溢れ出てくる涙を拭う。
必死に宥めるラーナ兄様は俺を膝に乗せて空いたもう片方の手でリア兄様の背中を撫でていた。
涙が止まる様子は全く無く、身体の中の水分が全て奪われてしまうのではないかと零れていて、ラーナ兄様の胸シャツはリア兄様の涙でぐっしょりだ。
「り、りあにいたま?」
「さわんないで!」
思ったよりも強い拒否に身体を揺らす。
ラーナ兄様はそれにリア兄様を諌めると、もっと激しく泣き出してしまった。
「ひっく、うぇ、ぜったいラーナにいさまはわたさないから!」
今生の全ての恨み!とでも言うかのように俺を刺すかの如く睨むその瞳でやっと思い出した。
こ、この子!ラナイフマジンルートの悪役令息~~~!!
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