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13. 青き国、赤き日

レステンクールの白百合と王の徽章

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 フレデリックの葬儀を行うと決まり、明るく賑やかな国のレステンクールは、混乱と静寂、悲しみ、怒りが入り交じる雰囲気が漂っていた。


『国王陛下…どうか安らかに』

『貴方の想いは生き続ける!』

『必ず犯人は償わせる!国王に正義を!』

 城下からも多くの国民たちが詰めかけ、城の前に置かれたフレデリックの肖像画に、美しい白百合が献花された。




 城内では、フレデリックが眠る棺と、その上には王冠と剣が置かれていた。


『あぁ…陛下…、早すぎます』

『王に安らぎを、王に栄光を…!』

『神よ…、我らが国王に、永遠の安息を…!』


 レステンクールの貴族や重臣、聖職者たちも集まり、フレデリックの死を悼んだ。




「王妃!」


 そこにエルビラもやって来て、皆と共に涙を流した。


「…皆さん、お集まりいただき感謝します。」

「王妃もお気の毒に。」

「こんなに、突然だとは思っていませんでしたから……!」

「王妃、陛下のためにも、罪人に裁きを!」

「…はい。後日に評議を開き、決めましょう。」





 そこには、アンドレたちの姿は無かった。







 アンドレたちはウジェーヌに話をしに、シャンパーニへ訪れていた。


「フレデリック国王のことは、とても残念ですね…」

「エルビラ王妃から話が?」
「はい。エルビラ王妃から、手紙を。あの……本当に…、リシャール妃が…??」

「絶対に、それはない。大雀蜂の仕業で間違いない。その証拠もあった。」

「やっぱり…そうですか。知らせを受けた時から、少し疑念は抱いておりました。リシャール妃のことは、大臣のロベールから聞いています。とても心優しいお方で、フレデリック国王を殺せるような方ではないと。」

「しかし、エルビラ王妃はリシャール妃が犯人だとして動いている。」
「それは……、そうせざるを得ない状況なのですか…?それとも、故意に?」

「…俺らは故意だと思っている。」

「何故…そんな。リシャール妃に恨みが?」
「分からない。」

「………」
 ウジェーヌは暫く何かを考えた。

「では…後継者は、どなたで?」
「後継…」
「フレデリック国王は、遺言状を書かれたのでしょうか?」


「リア、カミーユ。その話はあったのか?」
 アンドレは共に来ていたリアとカミーユに聞いた。

「いえ……」
「突然でしたから…」

 当然、二人も知らなかった。


「もし、フレデリック国王が選ばれた後継者が…エルビラ王妃にとって、不都合な方でしたら?」

「……セドリック。」

 ウジェーヌの話が有り得るならば、エルビラとしては自分の息子であるアルバンに継がせたいと考えるはず。そうとなれば、セドリックもリシャール諸共、全て潰そうとしているのでは。


「あかん!セドリック王子が危ない!!」

 リアとカミーユも血の気が引いた。
 リシャールはセドリックに国王を継いで欲しいとは思っておらず、フレデリックもまた後継者の話をしていなかった。

「てっきり、アルバン王子一択やと。」
「私もそう思っていました。」

 二人は口を揃えてアルバンの名前を出した。これを当たり前に思っていたので、疑えなかったことに少し後悔した。


「…アルバン王子は、エルビラ王妃との息子か。」
「はい。長子にあたりますから……」

「もし、フレデリックが遺言状を書いていて、そこにセドリックの名前が書かれていたら?」

「……どないしよ……」
 二人は頭を抱えた。


「しかし、遺言状は見つかっていない。そもそも書いたのかも分からない。まずは、そこを調べるしかない」
「はい…。」


「ウジェーヌ、また何かあったらすぐに伝えてほしい。」
「はい、勿論です。また後で、私もフレデリック国王に会いに行きますから、そのときに。」
「分かった。」

 アンドレ達はリシャール側にまたひとり、味方を増やすことが出来た。





 その頃、レステンクール城にて。



「…兄上、もう嫌や…」
「大丈夫やで、兄上がついてるからな!」
「……」

 セドリックと共に、部屋にいたのはアルバン。

 セドリックにはフレデリックが死んだことは伝えられたが、リシャールが捕まったことは知らないままだった。

 しかし、アルバンは事件の詳細を全て知らされていた。セドリックが気の毒で、どうしても伝えられなかった。


「…母上、何処に行ってしまわれたんやろか」
「また、シャンパーニに行ってるんとちゃうか?」
「……寝てる間に、行かんでも…」

 セドリックの中では、あの夜、一緒に居たはずのリシャールが突然居なくなったことになっている。

 アルバンは嘘をつくのが苦手だ。セドリックの辛そうな表情を見る度に、心を痛めていた。


「……兄上、父上が死んだら、次の王様は誰になるんやろか?」
「…それは…、分からん。」

「兄上になるんか?それとも、叔父上?」
「…うーん…」

「…僕は、兄上になってほしいんやけどな。」
「えっ?」
「兄上なら、父上も喜ぶやろ!」

「……セドリックは、国王になりたいか?」
「ううん。怖くてなられへん。僕、怖がりやし、弱いから。そんな王様、皆、見てられへんやろ?」
「…セドリックは優しいから大丈夫やで。」

「そんな兄上は、なりたいんか?」
「父上みたいに、なりたい。」
「…そうなん?」

「父上がな、レステンクールの皆を笑顔にして、皆を守ってやんのが国王の役目や!って言っててな。それが、ほんまに…かっこよくてな」

「…せやなぁ」

 セドリックは、目を輝かせるアルバンを見てにっこりと笑った。

「なんや?何がおもろいん??!」

「…父上に似とるなぁって思った。」
「ほ、ほんまか??」


 父を突然失った二人の、どこか不安な気持ちは 一向に拭えなかった。


「…セドリック、ちょっと待っててくれるか?すぐ戻る。」
「うん、分かった。」


 アルバンがひとり、部屋を出た。


「…やっぱり、ヴァーノンやったんか。」

「アルバン王子。」

 慌てた様子で廊下を早歩きしていたヴァーノン。犯人はリシャールでないと考えていたアルバンもまた、ヴァーノンとやり取りをしていた。


「…何しとるん?」
「……いえ。」

「…いい加減、子供扱いやめてくれへん?俺も、父上の死の真相を知りたいんや。」
「…ここでは、話せません。後ほど、お伝えしますから」
「ふぅん。」

「失礼します。」
 ヴァーノンは早歩きで去っていった。


「今しかないんや、今しか……」

 そう ぶつぶつ と呟きながら、息を切らしていた。

 ヴァーノンの手に握られていたのは、リシャールから託された、鍵。




 リシャールのいる牢へ行ったとき。

『リシャール妃、何か口にされてください。ここ数日何も食べられていません。』

『……いいの。』

 リシャールは虚ろな表情で、壁に寄りかかって座っていた。髪も服も全て、あの夜のまま。

 ヴァーノンはリシャールに外の現状を伝えたり、食事を持ってきたりなどして、自分は味方だと示そうとしていた。リシャールも、ヴァーノンのことを信じていた。


『…今、外では何が起きてるの?』

『…陛下の葬儀を行っており、後日、評議も行うという話も。』

『そう。』


 リシャールは膝をついて、ヴァーノンの近くに寄った。

『ねぇ、ひとつお願いを聞いて欲しいの。』

『…なんでしょうか』

『…これを。』

『こ、これは?』

『陛下のクローゼットの鍵なの。寝室にある窓側のだと思う。陛下は生前、これを私に託してくださった。』

 フレデリックと話をした最後の日。
 預けられたクローゼットの鍵。

 〝俺に、もし何かあったら開けて欲しい〟


『ヴァーノン、私は貴方を信じてるわ。』

 ヴァーノンの手を握って、リシャールは伝えた。

『クローゼットを開けて、中身を見てほしい。貴方が開けていいから。…その中身が何なのか、教えて欲しい。それだけでいいの』

『……承知しました。』

 リシャールのエメラルドグリーンの瞳は、吸い込まれそうなほど美しかった。


『ヴァーノン、貴方を危険に曝すつもりはないの。だから、もし危険が迫ったら、すぐに逃げて構わないわ。』

『……そんなことは、いたしません。』

 ヴァーノンは鍵を握りしめて、走り出した。





 葬儀で監視が手薄になっている今しかない。




 ヴァーノンは、リシャールに言われた通りに、フレデリックの寝室にあるクローゼットを開けに来た。

 エルビラの周りの兵たちも、皆が葬儀が行われている会場に集まっており、現場には複数人いるだけだった。

 ヴァーノンが来たところで、彼も事件の捜査に関与しているひとりなので誰も疑いはしなかった。


「…ここか」

 鍵が掛けられ、誰も開けていないクローゼット。

 息を呑んで、鍵を開けた。

 扉を開くと、大きなクローゼットの中に小さくぽつんと一つだけあった箱。




「………」

 ヴァーノンは、恐怖か緊張かも分からない感覚に陥って、呼吸をするのを忘れていた。
 心拍数が上がって、汗も流れてきた。


「…陛下……」


 箱に入っていたのは、遺言状とレステンクール国王の徽章。そして、美しいブルーの宝石が装飾された、髪飾り。


 〝貴方が開けていいから、何があったのか…〟


髪飾りには、手紙が添えられていた。

〝リシャールへ〟

髪飾りは、リシャールへのものだとすぐに察した。ヴァーノンは髪飾りだけは必ず届けなければならないと思い、胸元へ隠し入れた。


そして、遺言状。



思い切って、封を開けた。



 ________________


 レステンクール国王として、ここに遺言を残す。

 私が亡き後、

 王位は、私の息子である セドリック・ロベッソン に継承させる。

 幼き彼の歩みを支え、王国を導くことは兄であるアルバンと、重臣たちの責務だ。

 正妃エルビラには、王妃としての務めを果たし、ルチアと共に国の支柱となってもらいたい。

 エルビラとルチアには国を託し、
 リシャールには子と私の心を託す。

 リシャールを罪なく辱めることは、我が意に背く行い。この国にとって祝福であり、セドリックの母として尊ばれねばならない。

 この国は剣ではなく、民の声と平穏をもって栄えるべきだ。三国同盟を結んだ、ペリシエやシャンパーニとの絆を忘れないと誓ってほしい。

 私の魂は光と、この海と共にあり、

 永劫に、我が国レステンクールを見守っている。



   フレデリック・オーガン・ロベッソン

 ________________






「…あかん」


 ヴァーノンは額の汗を拭った。






「…あんた、クローゼット開けられたんか!」

「…っ!?……え、エルビラ王妃…葬儀は」

「ようやったな!!!」

「……??」


「ようやってくれたわ!!!」


 エルビラの目は血走って、笑っているのに恐ろしくあった。

 そして、彼女はヴァーノンが手にしていた遺言状と徽章を取り上げた。


「おおきに、おおきに……!!!」

「……」

 ヴァーノンはごくりと唾を飲み込んだ。
 思いがけないエルビラの登場と、反応についていけなかった。



「…報酬は倍にしたる。……この事は、黙っとき?」


「……し、承知しました。」


 ヴァーノンは目を瞑り、小さく頷いた。






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