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12.愛の行方
レイリー・ルグラン
しおりを挟む春も半ばを過ぎ、気温も徐々に高くなってきた。
朝日が登る頃、リシャールの寝顔を見届けたアンドレは巣を出ようとした。
「…アンドレ国王。もうお帰りですか?」
「あぁ。」
丁度、王台を掃除していたリアと会った。
「あの…」
「なんだ?」
「…リシャール様から、アンドレ国王とのこと…全てお聞きしたんです。」
「そうか。まぁ…全部聞かないと、気持ち悪いよな」
「いえ……」
リアは二人に対して、可哀想だと思う気持ちや、切ない気持ちがあった。国王に向かって、同情したなど言える訳もなく、言葉を詰まらせた。
「…今となっては、幼稚だったと自分でも思うよ」
アンドレは笑った。
「えっ?」
「…もっと、いい方法があったんじゃないかとか、俺が諦めないでリシャールと共にいることを選んだら、こんな罪悪感も生まれずに済んだかな とか……色々思うよ。こうなった今、俺がリシャールと共にいると、傷付く誰かが必ずいるから…。」
「………」
「どうせ、短い命だ。リシャールと共にいれるこの時間を、大切にしたい。」
「そうですね……」
「…ここの働き蜂にも言っているが、リシャールに何かあったら、すぐに伝えてくれ。いつ産まれてもおかしくないからな。」
「かしこまりました。」
「じゃあ、リシャールをよろしく頼んだよ」
そう言って、ペリシエ城へと飛び立った。
羽を羽ばたかせて、空高く飛ぶと国を一望できる。
「……綺麗だ。」
ペリシエの向こう側に見える、小さな王国シャンパーニ。
朝日が登ってくると、より輝いて見えた。
「……」
ふと、シャンパーニで暮らすリビオとナタリアのことを思い出した。
「寄り道をしようか」
ペリシエとは反対方向のシャンパーニに向かった。
リシャールがロナルドと過ごしていた巣へ向かった。近くに下りると、巣はあの時のままだった。庭にあったブッドレアの低木もそのまま。
「……!」
すると、巣からリビオが出てきた。何か探し物をしていた。
「…えっと、あれ…どこやったっけな…。……えっ」
遠くから見ていたアンドレに気が付いた。
「……リビオ、」
朝方の時間に会えると期待していなかったので、アンドレも少し驚いた。
「…おじさん?!」
「すまない。こんな時間に。」
リビオは突然現れたアンドレに、目を丸くして驚いていた。
「…おじさん、どうしたの。久しぶりだね…」
「…あぁ。」
すっかり大人になったリビオに感動していた。
「リビオ、探してたのあったの?」
そう言って次に出てきたのは、ナタリアだった。ずっと会えていなくても、あの頃から変わらないままで、見てすぐに分かった。
「は?おじさん?!」
アンドレを見るや否や、大きな声を上げた。
「ナタリアか、」
「…おじさん、」
「…二人とも、元気そうで良かったよ」
「おじさんこそ。急に何よ、驚いた」
「いや…近くを通ったんだ。二人の顔を見たかった。」
リビオとナタリアはすっかり大人になった。
二人とも自分の家庭を持ち、シャンパーニで暮らしていた。
「……ねぇ、おじさん。」
ナタリアは眉間に皺を寄せて、アンドレに詰め寄った。
「なんだ…?」
「おじさんって、結局のところ…何者なの?」
アンドレの豪華で綺麗な服装と、溢れ出る雰囲気は、二人にとっては昔から感じていた違和感の要因だ。
「えっ?」
「ずっと思ってた。ママが元々貴族だったことはリビオから聞いたけど。おじさんが何者なのか、なーんにも分かってない!」
「……それは、」
はぐらかすのも、どうかと思った。
「もう!ママも同じ!いつまでもいつまでも!私たちにずっと隠し事してるの、何なの?!子供扱いしないでってば!!!」
「……」
「おじさん、何者なの?」
「…知りたい…のか?」
「知りたいから言ってんの!答えなさいよ!」
強気に答えるナタリアと、その後ろで戸惑っているリビオ。アンドレは二人を見て、もう子供じゃないんだと実感した。
「…ペリシエの国王…だ。」
「は…?」
「…元々、シャンパーニの貴族だったリシャールとは婚約していた。でも、周りに大反対されて、結婚出来ずに離れ離れになった。……俺の知らない間、リシャールはシャンパーニで市民として暮らしていた。それから何があったのか詳しいことは分からないが、今はレステンクールの王族の一人だ。」
「…どうなってんの、御伽噺じゃあるまいし。」
ナタリアは唖然とした。
「…」
「おじさん、まだ何かあるんじゃないの?」
リビオがそう言った。
「……何も無い。」
「全部、教えてよ!」
「…」
アンドレは大きく息を吸った。
「リビオ、ナタリア。君らは、リシャールと俺の子供だ。」
「はっ?」「そんな訳!?」
「…不思議に思わなかったか?ナタリアの紅の瞳は、俺の遺伝だ。リビオのくせっ毛も。ロナルドにあったか?」
「……」
リビオとナタリアは、明らかになった衝撃の事実に俯くことしか出来なかった。
「隠していたのは…これで、全部だ。」
「…おじさんが、ペリシエの国王で…私たちの本当のパパ?」
「そうだ。…言うまでもないが、君らのパパはロナルドだ。でも、君らが俺の血を継いでるのは事実だ。」
「……」
「嫌だろう」
アンドレは鼻で笑った。
「なんで?」
「…今まで、母親の浮気相手だと思っていた奴が、実は父親でしたなんて気味が悪いだろ」
「……」
「悪かった。」
「別にいいよ。知れてよかった。朝早くには刺激的過ぎたけどね!!」
「随分と飲み込みが早いな」
「…おじさん。」
「ん?」
「おじさん、王様なんでしょ?だったら、ママのこと奪えばいいじゃん」
「…そうしたいところだがな。相手も国王じゃ、簡単にはできないよ。…でも、何があっても守ると決めている。」
「誓って。」
「あぁ、誓うよ。」
アンドレは笑った。不思議なことに、二人はすぐに受け入れてくれたようだった。
リビオとナタリアは、自身の母親と実の父親のことを胸の内に閉まった。
リシャールが産んだ子供たち。リビオ、ナタリア、セドリック。そして、次に生まれるレイリー。
アンドレは皆の幸せを願った。たとえ父親だろうと、そうでなくても。
太陽が完全に昇った頃、アンドレはペリシエへ戻った。
「……」
マデリーンとキャロラインの悔しさと悲しさに溢れたあの表情が忘れられなかった。ふとした時に、思い出してしまう。
アンドレはペリシエに自分の帰りを待っていてくれる誰かは、もういないのでは無いかと悲観した。
「…陛下、おかえりなさいませ。」
部屋へ戻ると、エリソンドが待っていた。彼の笑顔を見て、ほっとした。
「エリソンド、休んでいろと言ったのに」
「もう大丈夫ですよ。」
アンドレよりも年上であるエリソンドは、老いを感じ始めていた。病気がちになっては、体のあちこちが上手く機能しなくなってしまった。それを見兼ねたアンドレは、エリソンドの仕事を減らし、新しい側近を置いた。
「エリソンド。そこの整理なら、ロッドに頼めば良いじゃないか。」
新しい側近のロッド。エリソンドの近親者の一人で、真面目で優秀な雄蜂。
「…ロッドにだけ、ずるいですよ。私にも忙しくなるほどの仕事をください。」
エリソンドは笑った。
「…あぁ。」
「そういえば、陛下」
「?」
すると、小声で話し始めた。
「リシャール様の体調はいかがですか?」
「あぁ、大丈夫そうだ。」
「そうですか!良かった。」
「……エリソンド。」
「はい、陛下。」
「子供が産まれたら、ここに連れてくる。」
「…はい。」
「跡継ぎにするつもりはない。…ただ、俺も父親になりたいんだ。俺の我儘に付き合ってほしい、というのが次の仕事だ、エリソンド。」
「はい、陛下の仰せのままに。」
「…すまない。それと、ありがとう…。感謝しきれないくらいだ」
「最期まで、陛下の側近ですから。」
エリソンドもアンドレの子供と会えるのを、楽しみにしていた。
子供が産まれたのは、翌日のことだった。
雲ひとつない、快晴の日。太陽の光が空の真上に上がった昼、木々や花はきらきらと輝いていた。
ペリシエ城で食事会を開いていたときだった。
「陛下、」
「……なんだ?」
突然、働き蜂がアンドレの元へ慌ててやって来て、耳打ちで知らせた。
「リシャール様のご出産が…」
「…う、生まれるのか?」
「陣痛が始まっておりまして…!」
「わ、わかった、すぐに行くよ」
待ちに待った、この瞬間に立ち会いたかった。
「リシャール!」
「リシャール様、アンドレ国王がいらっしゃいましたよ!!」
リシャールはちょうど、リアやカミーユに支えられながら、産卵が続いていた。
「…うぅぅ…!!」
アンドレは咄嗟にリシャールの傍へ駆け寄って、手を強く握った。
リシャールの華奢な手でアンドレの手を力一杯に握って、痛みに耐えていた。
「頑張れ、頑張れ…」
暫くして産まれた卵は、大切に大切に、新しい王台へ運ばれた。
卵が孵化したのは、予想より少し早かった二日後の朝。
まるで、ママとパパに会いたかった!と言うかのように、丁度二人が巣にいたとき。
「…アンドレ様、見て、レイリーが出てこようとしてるわ!」
「…本当だ…」
二人で卵が孵化するのを見守った。
「ふぇぇん!」
殻の中から見えた可愛らしい顔と、可愛らしい産声。
思わず二人は目を合わせて喜んだ。
「レイリー!」
「レイリー、会いたかったよ!」
そんなリシャールとアンドレだが、その横でもっと大喜びしていたリアとカミーユ。
「ほんま絵になるわぁ!!」
「リア泣いとんのか?」
「カミーユこそ泣いとるやんか!!」
「だって、しゃあなしやんか?!」
「…うぅ、こんなに感動するとは思わへんかったぁ…!!!」
「レイリー王子の誕生や……!!!」
眩しい朝日に照らされ、両親と素敵な働き蜂からの愛と喜びに囲まれて生まれた。
レイリー・ルグラン と名付けられた、雄蜂。
「レイリー、生まれてきてくれてありがとう」
母の暖かい腕の中で、すやすやと眠っていた。
リシャールと同じ、美しい金髪と柔らかな白い肌。ぱちりと目を開けると、そこには透き通るようなイエローの瞳。
レイリーは両親と働き蜂の顔を見て、にっこりと笑った。それは、眩しいくらいに可愛らしくて美しかった。
彼もきっと愛に生きるだろう。リシャールとアンドレのように。
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