19 / 27
伝説の男 ルドルフ
キャプテン アルベルト
しおりを挟む
静まり返った外。
気付けば、星空が広がっていた。
去っていくルドルフとハインリヒの背中を見届けることしか出来なかったアルベルト達。
皆、混乱していた。
「アルベルト。」
「……分かってる。」
「……」
ハインリヒのメンバー申請をしなかったと、ルドルフは言うが。
「…でも、まだルドルフさんに一方的に言われているだけじゃないですか。アルベルトさん、事実じゃなければ、ちゃんと嘘だと言ってください!」
レオポルトが言った。しかし、アルベルトは黙ったままだった。
「……。」
「…申請が何だ。ハインリヒが仲間なのは、変わりないだろ。」
「…それは、そうですけど…!」
ゲルトがらしくない言葉をかけるが、レオポルトは納得出来ない様子だ。
「……。」
すると、ずっと無言のままのフィラットは宿へ戻ってしまった。それを追いかけるように、痺れを切らしたレオポルトも宿へ戻った。
「…アルベルト。」
ゲルトとバスティアンは、立ち尽くすだけのキャプテンをどこか哀れむように見つめた。
「……」
まだ黙っているアルベルト。
「…まぁ…話す気になったら、ちゃんと説明しろよ。俺も先に行ってるよ。早く戻って休め。」
ゲルトも宿へ入った。
アルベルトの背中を見つめていたバスティアンは、千里眼で本当のこと、アルベルトの考えることを引き出そうとした。
(♪ 千里眼を利用します)
「……アルベルト…」
バスティアンが話そうとすると、アルベルトは口を開いた。
「バスティアン。お前に見透かされる前に話すよ。」
「え?」
「だから、見透かさないでくれ。」
「……」
バスティアンは、聞いてはならなかった気がした。
「……嫉妬だよ。どうしても抗えないんだ。」
「ぁ…?ん?…どういうこと…?」
2つの言葉が同時に聴こえた。
アルベルトがバスティアンに振り返り、微笑んだ。そして、アルベルトは続けた。
「誤解されたままじゃ嫌だからな。せめて…お前だけには、言っておくよ。」
_______ キャプテン アルベルト
「パーティーの新規登録を。」
『かしこまりました。キャプテンはどなたに?』
「あー…誰にする?」
「アルベルトじゃないの?」
「えっ、俺?ルドルフ、君は?」
「えー、俺もアルベルトのつもりしてたけど」
「ほら。アルベルトでいいんだよ。」
「…いいのか?…分かったよ。じゃあ…俺で。」
『かしこまりました』
当時のギルドに、期待の新人プレイヤーが3人も現れた。ビジュアルも最高、スキルや技も最強の3人。誰もが注目していた。
そして、その3人は新しくパーティーを組み、冒険を楽しんでいた。キャプテンはアルベルト。メンバーはフィラットとルドルフ。〝キャプテン〟というのは、ただの名義に過ぎない。アルベルトは、そう考えていた。
3人は仲が良かった。
しかし、そんな彼らに溝を生んだのはある一言から始まった。某日、夜。宿にてフィラットと2人で話していた時だった。
「…アルベルト。何で…、ルドルフだけのレベルが突出してんだ?」
「……え?」
フィラットがそのことに気付き、アルベルトに話した。
____何故か、ルドルフだけが強くなっている。
それは、アルベルトも気付いていた。
仲間であることに免じて、目を瞑っていた。でも、おかしい。
「…まぁ…スキルもあるからな。」
「スキルのお陰ね。はいはい。…都合の良いスキルだな、ホント。今まで、お前は何とも思わなかった訳?」
「フィラット。」
「何とも思わないのかって聞いてんだよ」
「それは…!」
確かに思ってた。
ルドルフの変なスキル。
【つよいパパの背中】
戦闘終了時生き残っていれば、自身のEXPが5倍。
「俺らLv28しかないのに、ルドルフだけもうLv42だよ?何でこんなに差ついてんの??おかしいだろ??」
「…あぁ。」
フィラットは首筋に血管を浮かせながら、アルベルトに訴えた。
「…敵と闘った時、あいつだけダメージの数字が違う。桁も違う。」
「何が言いたい?」
「…俺は、あいつと一緒にいたくない。きっと、お前もそうだろ。」
「だから何だよって」
フィラットは血眼になり、そして言った。
「…… だよ。」
「は?まさか。そんな訳。」
「…アルベルト?フィラット?」
タイミング悪く、ルドルフがやって来た。
「喧嘩?」
すると、フィラットがルドルフの胸ぐらに掴みかかった。
「……テメェのせいで俺らがどうなるか!」
「は?何のこと?」
「とぼけんなよ!?テメェが1番分かってんだろうがよ!?」
「…落ち着けって」
「落ち着いてるよ!!」
「フィラット。」
そして、キャプテンは判断した。
_______ ルドルフ、俺らのパーティーから脱退しろ。
それから数日経ったある日。もう会わないはずのルドルフがキャプテンの元を訪れた。
「…何しに来た?」
「…脱退、できない。」
「は?」
「…キャプテンの同行とサインが必要だ。」
「……。」
「…後で俺がやっておく。」
「どういうこと?」
「だからさっさと帰れ。」
「……分かったよ。」
そして、パーティーは2つに割れた。
フィラットは後悔も何もしていないようだ。 こちらも見ていて清々しいほど。
俺もこうなれたら、良いんだけど。
ルドルフの背中を見つめた。
〝キャプテン〟の名義はアルベルトを悩ませた。……これで、正しかったのか?いや…やりすぎたのか?
ルドルフの背中は、どこか寂しそうであった。
_______ キャプテンは今でも、その背中を鮮明に覚えている。
__________
そして今、キャプテンはまた同じことを繰り返した。
仲間の寂しそうな背中を再び見るなんて。
……こんなはずじゃなかった。
バスティアンは、見透かすな と言われたものの、アルベルトの全てを悟っていた。
「…バスティアン。1人にしてくれるか?」
「……あぁ。夜は寒いから、早く戻りなよ。」
「ありがとう。」
そして1人立ち尽くして、呟いた。
「…俺…何してんだろう。」
アルベルトの凛々しい顔には似合わない涙が流れていた。
一方で、宿へ戻ったフィラットとゲルト、レオポルトにバスティアンが部屋に集まっていた。集合場所はフィラットの部屋だった。
「……なぁ…どうなってんだ?」
ゲルトが言った。
「それは、フィラットしか分からないよ」
3人の視線はフィラットに向けられた。しかし、ずっと無言のままで困った。
「……俺が代弁すべき?」
バスティアンが鼻で笑った。
「…いらないよ。」
「うわ喋った」
「……これで良かったんだと思うよ」
「…何がですか?」
「…ハインリヒがルドルフと一緒で。俺らは俺らで5人に戻った。1番、ハインリヒが入ることを拒否ってたゲルトには美味しい話だろ?なぁ?」
「……んぁ…。もう、あの時とは話が違うだろ。」
「ハインリヒさんの申請すらしてなかっただなんて。」
「…分からねぇだろ。嘘だったらどうする?!」
「…なら、確認しましょう!?」
レオポルトとゲルトが部屋を出ようとした。
「確認するまでもないだろ」
フィラットが口を開いた。
「アルベルトが黙ったままで、ハインリヒを引き止めもせず追いかけもしなかった。それが全てだろ」
「…アルベルトがそんな薄情な奴だとは思えねぇ。フィラットが1番分かってるだろ。」
「……1番分かってるから言えるんだよ。」
「アルベルトさんが引き止めないなら、僕がハインリヒさんを連れ戻しますよ」
レオポルトが立ち上がった。
「……やめとけ。無駄だ。」
「じゃあ…今までのことは無かったかの様に過ごせと?」
「……」
部屋に沈黙が広がった。
「…時が解決してくれるよ」
バスティアンが呟いて、部屋を出た。
「…アルベルトから何か動きがあるまで待つよ。」
「まぁ…そうですね。」
そして、ゲルトとレオポルトも部屋を出た。
「…はぁ…。」
フィラットは大きくため息をついた。
_________
ルドルフに連れられて星空の下を歩くハインリヒ。初めは肩を抱かれていたが、いつの間にか、腰に手を当てられていた。ルドルフの手が当たっている右腰だけ暖かい。
「あの……」
「ん?」
「…メンバー申請って言うのは…?」
「あ…本当に何も知らなかったの?」
「はい。」
ルドルフは歩みを止めて驚いた。
「あちゃー……。」
「それに、あの話は本当ですか」
「……えっとね、まず、メンバー申請っていうのは、パーティーに入るとか作る場合に、ギルドの受付で申請するんだよ。それには、キャプテンの同行とサインが必要でね。」
ルドルフは穏やかな声で教えてくれた。聴いていて心地よいと無意識に感じていたハインリヒ。
「……ハインリヒ。アルベルトの話は本当だよ。疑うなら、ギルドのプレイヤー名簿で確認できるよ。」
「……そうなんですね。」
「見に行こうか?」
「…はい。」
「構わないよ。まずギルドへ行こう。」
もし、ルドルフの言っていることが嘘だったら…?ハインリヒは不安と何かの希望を見出していた。
そして、ルドルフと共にギルドの受付へ確認しに行った。
『いらっしゃいませ、ご要件は?』
「プレイヤー名簿を見せて欲しい。」
『かしこまりました。』
すると、とてつもなく分厚い本がカウンターに出された。それを手に取ったルドルフは素早くページを捲っていく。
「……あった。ほら。君のページだ。」
「…?」
見せて貰ったページには、ハインリヒのデータが載っていた。顔と全身の写真に、基本データ。そして。
〝所属パーティー 無し〟
「……本当だ。」
「貸して。……あぁ、ほら。例えば…これが、レオポルト君の。」
出されたのはレオポルトのページ。
〝所属パーティー 有り キャプテン:アルベルト〟
「……本当だったんですね」
「まぁ…疑うのも無理はないよね。唐突に現れた奴にこんな話されてさ。」
「……いえ。」
ルドルフが言っていたことは本当だったようだ。
「……どうする?…これでもアルベルトの所へ戻りたい?」
「……」
別に、期待してた訳じゃないけど。
思い返せば、皆ハインリヒをパーティーに入れるのは、ほとんど反対だったはず。
ふとルドルフを見た。
ふんわりと巻かれた銀髪は美しく、整った顔立ち。彼は微笑んだ。容姿端麗とはこのことか。
「戻る?」
「……」
ハインリヒは首を横に振った。
「…分かった。今夜は俺の宿においで。」
「……はい。」
その日はルドルフと共に別の宿へ向かった。
彼が翻す赤いマントは何故か眩しく感じた。
「…どうすればいいんだろう。」
「……ん?」
「いえ。なんでもないです」
「少しの間、俺と一緒に居ればいいよ。そうすれば、何かいい案が思い浮かぶかもしれないよ。」
「聞こえてるじゃないですか。」
「あははっ、ごめんね」
ハインリヒの葛藤と不安が少しだけ減らされた気がした。
気付けば、星空が広がっていた。
去っていくルドルフとハインリヒの背中を見届けることしか出来なかったアルベルト達。
皆、混乱していた。
「アルベルト。」
「……分かってる。」
「……」
ハインリヒのメンバー申請をしなかったと、ルドルフは言うが。
「…でも、まだルドルフさんに一方的に言われているだけじゃないですか。アルベルトさん、事実じゃなければ、ちゃんと嘘だと言ってください!」
レオポルトが言った。しかし、アルベルトは黙ったままだった。
「……。」
「…申請が何だ。ハインリヒが仲間なのは、変わりないだろ。」
「…それは、そうですけど…!」
ゲルトがらしくない言葉をかけるが、レオポルトは納得出来ない様子だ。
「……。」
すると、ずっと無言のままのフィラットは宿へ戻ってしまった。それを追いかけるように、痺れを切らしたレオポルトも宿へ戻った。
「…アルベルト。」
ゲルトとバスティアンは、立ち尽くすだけのキャプテンをどこか哀れむように見つめた。
「……」
まだ黙っているアルベルト。
「…まぁ…話す気になったら、ちゃんと説明しろよ。俺も先に行ってるよ。早く戻って休め。」
ゲルトも宿へ入った。
アルベルトの背中を見つめていたバスティアンは、千里眼で本当のこと、アルベルトの考えることを引き出そうとした。
(♪ 千里眼を利用します)
「……アルベルト…」
バスティアンが話そうとすると、アルベルトは口を開いた。
「バスティアン。お前に見透かされる前に話すよ。」
「え?」
「だから、見透かさないでくれ。」
「……」
バスティアンは、聞いてはならなかった気がした。
「……嫉妬だよ。どうしても抗えないんだ。」
「ぁ…?ん?…どういうこと…?」
2つの言葉が同時に聴こえた。
アルベルトがバスティアンに振り返り、微笑んだ。そして、アルベルトは続けた。
「誤解されたままじゃ嫌だからな。せめて…お前だけには、言っておくよ。」
_______ キャプテン アルベルト
「パーティーの新規登録を。」
『かしこまりました。キャプテンはどなたに?』
「あー…誰にする?」
「アルベルトじゃないの?」
「えっ、俺?ルドルフ、君は?」
「えー、俺もアルベルトのつもりしてたけど」
「ほら。アルベルトでいいんだよ。」
「…いいのか?…分かったよ。じゃあ…俺で。」
『かしこまりました』
当時のギルドに、期待の新人プレイヤーが3人も現れた。ビジュアルも最高、スキルや技も最強の3人。誰もが注目していた。
そして、その3人は新しくパーティーを組み、冒険を楽しんでいた。キャプテンはアルベルト。メンバーはフィラットとルドルフ。〝キャプテン〟というのは、ただの名義に過ぎない。アルベルトは、そう考えていた。
3人は仲が良かった。
しかし、そんな彼らに溝を生んだのはある一言から始まった。某日、夜。宿にてフィラットと2人で話していた時だった。
「…アルベルト。何で…、ルドルフだけのレベルが突出してんだ?」
「……え?」
フィラットがそのことに気付き、アルベルトに話した。
____何故か、ルドルフだけが強くなっている。
それは、アルベルトも気付いていた。
仲間であることに免じて、目を瞑っていた。でも、おかしい。
「…まぁ…スキルもあるからな。」
「スキルのお陰ね。はいはい。…都合の良いスキルだな、ホント。今まで、お前は何とも思わなかった訳?」
「フィラット。」
「何とも思わないのかって聞いてんだよ」
「それは…!」
確かに思ってた。
ルドルフの変なスキル。
【つよいパパの背中】
戦闘終了時生き残っていれば、自身のEXPが5倍。
「俺らLv28しかないのに、ルドルフだけもうLv42だよ?何でこんなに差ついてんの??おかしいだろ??」
「…あぁ。」
フィラットは首筋に血管を浮かせながら、アルベルトに訴えた。
「…敵と闘った時、あいつだけダメージの数字が違う。桁も違う。」
「何が言いたい?」
「…俺は、あいつと一緒にいたくない。きっと、お前もそうだろ。」
「だから何だよって」
フィラットは血眼になり、そして言った。
「…… だよ。」
「は?まさか。そんな訳。」
「…アルベルト?フィラット?」
タイミング悪く、ルドルフがやって来た。
「喧嘩?」
すると、フィラットがルドルフの胸ぐらに掴みかかった。
「……テメェのせいで俺らがどうなるか!」
「は?何のこと?」
「とぼけんなよ!?テメェが1番分かってんだろうがよ!?」
「…落ち着けって」
「落ち着いてるよ!!」
「フィラット。」
そして、キャプテンは判断した。
_______ ルドルフ、俺らのパーティーから脱退しろ。
それから数日経ったある日。もう会わないはずのルドルフがキャプテンの元を訪れた。
「…何しに来た?」
「…脱退、できない。」
「は?」
「…キャプテンの同行とサインが必要だ。」
「……。」
「…後で俺がやっておく。」
「どういうこと?」
「だからさっさと帰れ。」
「……分かったよ。」
そして、パーティーは2つに割れた。
フィラットは後悔も何もしていないようだ。 こちらも見ていて清々しいほど。
俺もこうなれたら、良いんだけど。
ルドルフの背中を見つめた。
〝キャプテン〟の名義はアルベルトを悩ませた。……これで、正しかったのか?いや…やりすぎたのか?
ルドルフの背中は、どこか寂しそうであった。
_______ キャプテンは今でも、その背中を鮮明に覚えている。
__________
そして今、キャプテンはまた同じことを繰り返した。
仲間の寂しそうな背中を再び見るなんて。
……こんなはずじゃなかった。
バスティアンは、見透かすな と言われたものの、アルベルトの全てを悟っていた。
「…バスティアン。1人にしてくれるか?」
「……あぁ。夜は寒いから、早く戻りなよ。」
「ありがとう。」
そして1人立ち尽くして、呟いた。
「…俺…何してんだろう。」
アルベルトの凛々しい顔には似合わない涙が流れていた。
一方で、宿へ戻ったフィラットとゲルト、レオポルトにバスティアンが部屋に集まっていた。集合場所はフィラットの部屋だった。
「……なぁ…どうなってんだ?」
ゲルトが言った。
「それは、フィラットしか分からないよ」
3人の視線はフィラットに向けられた。しかし、ずっと無言のままで困った。
「……俺が代弁すべき?」
バスティアンが鼻で笑った。
「…いらないよ。」
「うわ喋った」
「……これで良かったんだと思うよ」
「…何がですか?」
「…ハインリヒがルドルフと一緒で。俺らは俺らで5人に戻った。1番、ハインリヒが入ることを拒否ってたゲルトには美味しい話だろ?なぁ?」
「……んぁ…。もう、あの時とは話が違うだろ。」
「ハインリヒさんの申請すらしてなかっただなんて。」
「…分からねぇだろ。嘘だったらどうする?!」
「…なら、確認しましょう!?」
レオポルトとゲルトが部屋を出ようとした。
「確認するまでもないだろ」
フィラットが口を開いた。
「アルベルトが黙ったままで、ハインリヒを引き止めもせず追いかけもしなかった。それが全てだろ」
「…アルベルトがそんな薄情な奴だとは思えねぇ。フィラットが1番分かってるだろ。」
「……1番分かってるから言えるんだよ。」
「アルベルトさんが引き止めないなら、僕がハインリヒさんを連れ戻しますよ」
レオポルトが立ち上がった。
「……やめとけ。無駄だ。」
「じゃあ…今までのことは無かったかの様に過ごせと?」
「……」
部屋に沈黙が広がった。
「…時が解決してくれるよ」
バスティアンが呟いて、部屋を出た。
「…アルベルトから何か動きがあるまで待つよ。」
「まぁ…そうですね。」
そして、ゲルトとレオポルトも部屋を出た。
「…はぁ…。」
フィラットは大きくため息をついた。
_________
ルドルフに連れられて星空の下を歩くハインリヒ。初めは肩を抱かれていたが、いつの間にか、腰に手を当てられていた。ルドルフの手が当たっている右腰だけ暖かい。
「あの……」
「ん?」
「…メンバー申請って言うのは…?」
「あ…本当に何も知らなかったの?」
「はい。」
ルドルフは歩みを止めて驚いた。
「あちゃー……。」
「それに、あの話は本当ですか」
「……えっとね、まず、メンバー申請っていうのは、パーティーに入るとか作る場合に、ギルドの受付で申請するんだよ。それには、キャプテンの同行とサインが必要でね。」
ルドルフは穏やかな声で教えてくれた。聴いていて心地よいと無意識に感じていたハインリヒ。
「……ハインリヒ。アルベルトの話は本当だよ。疑うなら、ギルドのプレイヤー名簿で確認できるよ。」
「……そうなんですね。」
「見に行こうか?」
「…はい。」
「構わないよ。まずギルドへ行こう。」
もし、ルドルフの言っていることが嘘だったら…?ハインリヒは不安と何かの希望を見出していた。
そして、ルドルフと共にギルドの受付へ確認しに行った。
『いらっしゃいませ、ご要件は?』
「プレイヤー名簿を見せて欲しい。」
『かしこまりました。』
すると、とてつもなく分厚い本がカウンターに出された。それを手に取ったルドルフは素早くページを捲っていく。
「……あった。ほら。君のページだ。」
「…?」
見せて貰ったページには、ハインリヒのデータが載っていた。顔と全身の写真に、基本データ。そして。
〝所属パーティー 無し〟
「……本当だ。」
「貸して。……あぁ、ほら。例えば…これが、レオポルト君の。」
出されたのはレオポルトのページ。
〝所属パーティー 有り キャプテン:アルベルト〟
「……本当だったんですね」
「まぁ…疑うのも無理はないよね。唐突に現れた奴にこんな話されてさ。」
「……いえ。」
ルドルフが言っていたことは本当だったようだ。
「……どうする?…これでもアルベルトの所へ戻りたい?」
「……」
別に、期待してた訳じゃないけど。
思い返せば、皆ハインリヒをパーティーに入れるのは、ほとんど反対だったはず。
ふとルドルフを見た。
ふんわりと巻かれた銀髪は美しく、整った顔立ち。彼は微笑んだ。容姿端麗とはこのことか。
「戻る?」
「……」
ハインリヒは首を横に振った。
「…分かった。今夜は俺の宿においで。」
「……はい。」
その日はルドルフと共に別の宿へ向かった。
彼が翻す赤いマントは何故か眩しく感じた。
「…どうすればいいんだろう。」
「……ん?」
「いえ。なんでもないです」
「少しの間、俺と一緒に居ればいいよ。そうすれば、何かいい案が思い浮かぶかもしれないよ。」
「聞こえてるじゃないですか。」
「あははっ、ごめんね」
ハインリヒの葛藤と不安が少しだけ減らされた気がした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
59
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる