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深まりいく秋
え? まさか、これが高校の体育祭?
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『マエダさん、この勝利を君に捧げるーー!!』
こっぱずかしいことを100メートル走で一位になった男子叫んでいる。その叫びにキャー! と黄色い声が上がり、一人の女子生徒を他の女子生徒が囃し立てた。
『おおーと、愛の告白が出たーーー!!! お相手もまんざらじゃなさそうだ、コンチクショー!!』
放送部のノリノリな実況まで入って、グラウンドは異様な熱気に包まれている。
え? まさか、これが高校の体育祭?
少女漫画か映画でしかありえない光景に目が点になった。小中と経験してきた運動会(体育祭)の常識が覆されたばかりか、次の組の勝者も公開愛の告白の叫びに自分の認識が間違っていた気までしてくる。
だけど、目が点になってしまったのは私だけじゃなくて、きららも同じで、それどころかクラスメイト全員が呆然としている。他所の小中の体育祭も私の認識と同じだったようだ。
「きらら。今のって・・・」
「うん、実花。あたしも聞いた」
「こんなこと普通しないよね・・・?」
「普通はこんなことしないよね」
ただ見ているだけの私たちの前で、次々と別の組の勝者が愛を叫び、また一人叫ぼうとしているところで、放送部の鋭い声が飛んだ。
『ちょっと待ったー!!! 告白は定期テストでアピールできなかった哀れな奴がするもんだ! 入って数か月の一年のくせに、告白しようとするんじゃない!!』
嘘?! 告白する条件があるなんて!!
三年の同意する声と共に『二年はどうなんだ』という声があちこちで上がる。告白を禁じられた一年はブーイングをしている。
『二年は許す! 一年に一度のこの機会を、思いっきり活用しやがれ!』
放送部の許可で二年から歓声が上がった。どうやら、実況担当の放送部員は三年らしい。
カオスだ。
高校の体育祭はカオスだった。
生徒の自主性や個性を尊重しているにしても、自由過ぎてカオスすぎる。
「あっ、夏川先輩だ」
きららの声に誘われてそっちを見たら、次の組の走者に夏川先輩がいた。
「実花も叫ばれたりして。そしたら、ヒューヒュー言ってあげる」
「いらないよ、恥ずかしい。私と夏川先輩はそんな関係じゃないし」
きららは私と夏川先輩とどういう付き合いをしていたのか知らない。私だって、親友のきららに言えないことがあるし、これなんかそうだ。いくら親友でも、外堀埋められて、脅されて彼女という名のセフレにされているなんて言えない。
二学期からは・・・よくわからない関係になってきているけど。勉強を教えてくれたり、なんかまともな学生って感じになってきているし。
「え~? 嘘でしょー? なんだかんだ言って、最近、仲いいじゃん」
「違うって」
今更、好感度アップをし始められても、マイナスからプラスになるのは大変だ。まだ0になったかどうかだろうし。
「そうなの? だってさ~。春原はいなくなったし、実花も夏川先輩にあたりが柔らかくなったし、そういうことじゃないの?」
「そういうことじゃないから!」
私たちが騒いでいる間に夏川先輩の組はとっくに終わっていて、気が付くと別の組の番になっていた。
「ほら。騒がれていなかったようだし、きららの気のせいだって」
「え~? おかし~な~?」
夏川先輩が出場する競技は100メートル走と800メートル走、それに3000メートル走だけだそうだ。運動部所属が出られる競技は他にもあるが、3つの競技に参加しているのでこれ以上は出なくていいらしい。
きららに夏川先輩とのことで変な妄想の余地を与えて欲しくない。私は残りの出場競技の時も今回みたいに知らない間に終わってることを祈った。
「あ」
今度の走る組にあいつがいた。よく見ると、100メートル走は陸上部をはじめとした運動部所属の生徒が多く出場している。当然、テニス部のあいつもこれの出場者に選ばれている。
その代わり、私やきららのような非運動部&帰宅部はイロモノ競技が割り振られていた。借り物競争とか、玉入れとか、棒引きとか、玉転がしとか、綱引きとか、ムカデ競争とか、障害物競走とか。二人三脚が入っていないのは、これも運動部同士が組んだほうが勝率が高くなるという理由からだ。
「複雑だな~。春原にも頑張ってもらわないと、うちのクラスは最下位争いに参加することになっちゃうんだよね」
「あいつに勝ってもらっても、負けてもらっても困るのはウチのクラスぐらいだもんね」
「三年、頑張りすぎ」
愛の告白がそんなにしたいのか、見ている限り三年がほぼ一位をとっている。二年もそれなりだが、許可されなかった一年は白けきってやる気がなさそうだった。
「高校最後の体育祭だからって、張り切りすぎだよね」
あいつは一位でゴールした。体育の授業の時も早い方だと思ったけど、他の学年相手でも勝てるくらい早かったらしい。
「よし! 3点get! これで最下位脱出するぞ!」
100メートル走では一位が3点、二位が2点、三位が1点もらえる。この点数がクラスの得点になって、クラスごとの順位になるのだ。
最下位になったペナルティーは何もないけど、それでも最下位は嫌なもんだ。
短距離走が終わって、放送部が次の競技や催しを告げると思ったら、とんでもないことを言い始めた。
『おおーっと! ここで三年のドーピングタイムだ! 化学部元部長特製栄養ドリンクで、パワー満タン! やっちまえ、コンチクショー!! まだ試合に出る奴はドーピングで捕まるから摂取すんなよ!』
『ドーピングって、体育祭で何やってんだよ?!』
私のツッコミは実況をしているもう一人の放送部員が代わりにやってくれた。
『三年は年寄りだから、一年に勝つためにはドーピングが必要なんだぜ、コンチクショー。二歳の差は大きいぞ、エトウ。若いっていいことだよな。俺の彼女も二歳歳下の奴を好きになったとかで、コンチクショー!』
『うわ・・・。この場で暴露しなくていいから! アダチの彼女のことなんか聞きたくないから!』
『聞いてくれよ、エトウ! 聞いてくれないと、やってられないぜ、コンチクショー!』
『うぜー』
『みんな、聞いてくれよ!』
『マイク使って、お前の大根足の彼女のことなんか全校生徒に言うじゃねーよ。アダチ!』
『まゆタンは大根足なんかじゃねー! そんなこと言うから、お前は彼女がいねーんだよ!』
実況の放送部員同士で喧嘩が始まった。どうやら、三年の友達同士らしいが、その仲も友達の彼女のことで意見が分かれているらしい。
これって、もう、喧嘩してるし、生徒の自主性どころの話じゃないよね。
なんで、先生は止めないんだろう?
放送部の喧嘩をよそに三年は栄養ドリンクをもらっている。先生が配っている男子生徒(化学部元部長)のところに飛んで行って、何か話した後、実況のいるテントに来てマイクを奪い取った。
どうして、マイクを奪い取る前に三年がドーピングしているのを止めないのか、わからない。
「放送部が誤解を招く放送をして、申し訳ございませんでした。三年が飲んでいるものですが、製作した生徒によるとドーピングなどは一切関係ない塩と砂糖と水で作った、ただの経口補正水だそうです。他の学年の分もあるとのことでした」
そして、暴走した放送部の三年は退場させられ、実況は別の者に変わった。
こっぱずかしいことを100メートル走で一位になった男子叫んでいる。その叫びにキャー! と黄色い声が上がり、一人の女子生徒を他の女子生徒が囃し立てた。
『おおーと、愛の告白が出たーーー!!! お相手もまんざらじゃなさそうだ、コンチクショー!!』
放送部のノリノリな実況まで入って、グラウンドは異様な熱気に包まれている。
え? まさか、これが高校の体育祭?
少女漫画か映画でしかありえない光景に目が点になった。小中と経験してきた運動会(体育祭)の常識が覆されたばかりか、次の組の勝者も公開愛の告白の叫びに自分の認識が間違っていた気までしてくる。
だけど、目が点になってしまったのは私だけじゃなくて、きららも同じで、それどころかクラスメイト全員が呆然としている。他所の小中の体育祭も私の認識と同じだったようだ。
「きらら。今のって・・・」
「うん、実花。あたしも聞いた」
「こんなこと普通しないよね・・・?」
「普通はこんなことしないよね」
ただ見ているだけの私たちの前で、次々と別の組の勝者が愛を叫び、また一人叫ぼうとしているところで、放送部の鋭い声が飛んだ。
『ちょっと待ったー!!! 告白は定期テストでアピールできなかった哀れな奴がするもんだ! 入って数か月の一年のくせに、告白しようとするんじゃない!!』
嘘?! 告白する条件があるなんて!!
三年の同意する声と共に『二年はどうなんだ』という声があちこちで上がる。告白を禁じられた一年はブーイングをしている。
『二年は許す! 一年に一度のこの機会を、思いっきり活用しやがれ!』
放送部の許可で二年から歓声が上がった。どうやら、実況担当の放送部員は三年らしい。
カオスだ。
高校の体育祭はカオスだった。
生徒の自主性や個性を尊重しているにしても、自由過ぎてカオスすぎる。
「あっ、夏川先輩だ」
きららの声に誘われてそっちを見たら、次の組の走者に夏川先輩がいた。
「実花も叫ばれたりして。そしたら、ヒューヒュー言ってあげる」
「いらないよ、恥ずかしい。私と夏川先輩はそんな関係じゃないし」
きららは私と夏川先輩とどういう付き合いをしていたのか知らない。私だって、親友のきららに言えないことがあるし、これなんかそうだ。いくら親友でも、外堀埋められて、脅されて彼女という名のセフレにされているなんて言えない。
二学期からは・・・よくわからない関係になってきているけど。勉強を教えてくれたり、なんかまともな学生って感じになってきているし。
「え~? 嘘でしょー? なんだかんだ言って、最近、仲いいじゃん」
「違うって」
今更、好感度アップをし始められても、マイナスからプラスになるのは大変だ。まだ0になったかどうかだろうし。
「そうなの? だってさ~。春原はいなくなったし、実花も夏川先輩にあたりが柔らかくなったし、そういうことじゃないの?」
「そういうことじゃないから!」
私たちが騒いでいる間に夏川先輩の組はとっくに終わっていて、気が付くと別の組の番になっていた。
「ほら。騒がれていなかったようだし、きららの気のせいだって」
「え~? おかし~な~?」
夏川先輩が出場する競技は100メートル走と800メートル走、それに3000メートル走だけだそうだ。運動部所属が出られる競技は他にもあるが、3つの競技に参加しているのでこれ以上は出なくていいらしい。
きららに夏川先輩とのことで変な妄想の余地を与えて欲しくない。私は残りの出場競技の時も今回みたいに知らない間に終わってることを祈った。
「あ」
今度の走る組にあいつがいた。よく見ると、100メートル走は陸上部をはじめとした運動部所属の生徒が多く出場している。当然、テニス部のあいつもこれの出場者に選ばれている。
その代わり、私やきららのような非運動部&帰宅部はイロモノ競技が割り振られていた。借り物競争とか、玉入れとか、棒引きとか、玉転がしとか、綱引きとか、ムカデ競争とか、障害物競走とか。二人三脚が入っていないのは、これも運動部同士が組んだほうが勝率が高くなるという理由からだ。
「複雑だな~。春原にも頑張ってもらわないと、うちのクラスは最下位争いに参加することになっちゃうんだよね」
「あいつに勝ってもらっても、負けてもらっても困るのはウチのクラスぐらいだもんね」
「三年、頑張りすぎ」
愛の告白がそんなにしたいのか、見ている限り三年がほぼ一位をとっている。二年もそれなりだが、許可されなかった一年は白けきってやる気がなさそうだった。
「高校最後の体育祭だからって、張り切りすぎだよね」
あいつは一位でゴールした。体育の授業の時も早い方だと思ったけど、他の学年相手でも勝てるくらい早かったらしい。
「よし! 3点get! これで最下位脱出するぞ!」
100メートル走では一位が3点、二位が2点、三位が1点もらえる。この点数がクラスの得点になって、クラスごとの順位になるのだ。
最下位になったペナルティーは何もないけど、それでも最下位は嫌なもんだ。
短距離走が終わって、放送部が次の競技や催しを告げると思ったら、とんでもないことを言い始めた。
『おおーっと! ここで三年のドーピングタイムだ! 化学部元部長特製栄養ドリンクで、パワー満タン! やっちまえ、コンチクショー!! まだ試合に出る奴はドーピングで捕まるから摂取すんなよ!』
『ドーピングって、体育祭で何やってんだよ?!』
私のツッコミは実況をしているもう一人の放送部員が代わりにやってくれた。
『三年は年寄りだから、一年に勝つためにはドーピングが必要なんだぜ、コンチクショー。二歳の差は大きいぞ、エトウ。若いっていいことだよな。俺の彼女も二歳歳下の奴を好きになったとかで、コンチクショー!』
『うわ・・・。この場で暴露しなくていいから! アダチの彼女のことなんか聞きたくないから!』
『聞いてくれよ、エトウ! 聞いてくれないと、やってられないぜ、コンチクショー!』
『うぜー』
『みんな、聞いてくれよ!』
『マイク使って、お前の大根足の彼女のことなんか全校生徒に言うじゃねーよ。アダチ!』
『まゆタンは大根足なんかじゃねー! そんなこと言うから、お前は彼女がいねーんだよ!』
実況の放送部員同士で喧嘩が始まった。どうやら、三年の友達同士らしいが、その仲も友達の彼女のことで意見が分かれているらしい。
これって、もう、喧嘩してるし、生徒の自主性どころの話じゃないよね。
なんで、先生は止めないんだろう?
放送部の喧嘩をよそに三年は栄養ドリンクをもらっている。先生が配っている男子生徒(化学部元部長)のところに飛んで行って、何か話した後、実況のいるテントに来てマイクを奪い取った。
どうして、マイクを奪い取る前に三年がドーピングしているのを止めないのか、わからない。
「放送部が誤解を招く放送をして、申し訳ございませんでした。三年が飲んでいるものですが、製作した生徒によるとドーピングなどは一切関係ない塩と砂糖と水で作った、ただの経口補正水だそうです。他の学年の分もあるとのことでした」
そして、暴走した放送部の三年は退場させられ、実況は別の者に変わった。
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