浮気した彼氏のせいでNTRれた私

プラネットプラント

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深まりいく秋

「んー・・・」

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「・・・。・・・まさん。秋山さん」

 名前を呼ばれて、ハッと我に返る。名前を呼んでいたのは品出しをしていたパートの佐木さんで、私は今がバイト中で、レジの前にお客さんがいることに気付いた。

「あ。すみません。お預かりします」

 慌てて、お客さんに謝って、レジを打ち始める。
 お客さんはちょっと嫌そうな顔をしたけど、何も言わなかった。よかった。
 ドラマやニュースで些細なことで喧嘩が起こるのが信じられなかったけど、バイトをしてみてそれがどんなによくあることか知った。
 目が合っただけで喧嘩になるのだ。目が合っても、目をそらして終わりでしょうが。恋に落ちた時は別として。
 どこのヤバい人だよ。ドラマに出てくるチンピラか。と思う。
 おかげで、何も言われなかっただけでもホッとする。

「次のお客様、こちらでどうぞ」

 佐木さんがカウンターの中に入って来て、別のレジを開けて並ぼうとしていたお客さんを誘導してくれた。それで、レジ前にいたお客さんいなくなる。

「秋山さん。バックヤードにある新商品持って来て」

 会計が終わった佐木さんから言われて、私はバックヤードに下がる。新商品の棚はまだ品出しが必要に見えない。心あらずな状態の私を店に出しておくわけにはいかないという判断だろう。

 バックヤードには冬野さんがいて、佐木さんや私でも品出ししやすいように商品の仕分けをしてくれていた。冬野さんは時間があると、こんなふうに重い物を持たなくてもいいように下準備をしてくれているのだ。

「どうかしたのか、秋山?」

 人目がないバックヤードは休憩で休んでいてもいい場所だけど、私がいきなりやって来たから冬野さんは驚いたようだ。

「ちょっと、ボーとしていて、お客さんに気付かなくて、佐木さんにバックヤードから商品持って来てって言われた」

 今は目の前のことに集中しなけりゃいけないのに、どうしても頭の中に別のことが浮かんできて、そっちのほうが気になってしまう。
 だから、佐木さんに強制的に休憩に入るように促されたんだけど。

「なら、佐木さんの言葉に甘えたほうがいい。忙しくないんだろ?」
「うん。でも、佐木さんが品出しの途中だったし・・・」

 佐木さんが与えてくれた口実だけでもして、足を引っ張った分を挽回しないと。

「俺がやってくるから、秋山は休んでいろよ。元気ないけど、何か心配事でもあるのか?」
「あるというか、ないというか、関係ないというか、気にしすぎっていうか・・・どう言ったらいいのか、わからない」

 自分でもどうしてこんなに悩んでいるのか、それ自体に悩んでいる。もう関係ないことだし、そんなことを気にすることじゃないのはわかってる。
 だけど、ここで無関係だからと無視してしまうのは人としてどうかと思う。薄情すぎるような気がして、口を出したらいいのか、それとも口を噤んでいたらいいのか・・・。

「一人で悩んでいないで、話してみ?」

 誰に相談していいのかすらわからなかったから、事情を聞こうとしてくれた冬野さんの言葉に胸のつかえが降りたような気がした。
 だからといって、冬野さんに相談するのも違うような気がする。

「んー・・・」
「事情をまったく知らないから言えるってこともあるよ」

 話すことを促され、これ以上悩んでいるのも嫌だから、相談までして巻き込むようなことじゃないし、冬野さんに参考意見を聞くことにした。

「ありがとう。でも、参考にしたいから、ちょっとだけ意見聞かせて」
「ああ、いいよ」

 冬野さんが安請け合いしてくれたので、私の口も軽くなる。

「元カレのことなんだ」
「元カレ? 夏川先輩?」

 そっちも元カレならよかったんだけど、今現在も彼氏ということになってる。

「いや、そっちじゃなくて、その前のほう」
「まだ別れてなかったんだ。――じゃなくて、その前の彼氏がどうしたんだ?」

 はじめのほうは小さな声で聞き取りにくかった。

「え? 何?」
「なんでもない。で、秋山の前の彼氏がどうしたんだよ?」

 本人がなんでもないって言っているから、気にしないことにした。冬野さんの今の言動より、早くこの悩みをどうにかしたい。

「新しい彼女ができたみたいなんなんだけど、相手がちょっと気になって」
「前の彼氏の付き合っている相手なんか、気にする必要ないだろ? というか、その前の彼氏に振られて未練があんの?」

 そうなんだけど、それを無視していられないんだよね。言われたみたいに未練はまったくないし。

「振られたわけじゃないし、こっちが振ったわけだし。未練なんかないよ。ただ、ちょっとね・・・」
「気にしなくていいんじゃない。前の彼氏だって、小学生じゃないんだから、そこまで秋山が気にかけてやる必要なんかないよ。振ったんなら、振るだけの理由があったわけだし、仲の良い友達でもないんだったら、気にする必要ないじゃんん」

 答えは単純明快とばかり言う冬野さんに詳しい事情を説明できないのがもどかしい。
 でも、説明してしまっていいものか、あいつの馬鹿さ加減を無関係な冬野さんに伝えてしまっていいものかどうか、悩む。いくら冬野さんがいい人でも、細かい事情をすべて打ち明けられるほどは親しくないし。

「ああ、うん・・・」

 悩みは解決されないまま、私は曖昧な笑みを浮かべて歯切れの悪い返事をするしかなかった。
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