詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています

プラネットプラント

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ウォルト

家族の紹介と言いたいところですが、幼馴染について

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「大丈夫か、リーンネット!」

私には4人の10歳以上、歳の離れたお姉様たちとその下に唯一の男子である兄がいる。

ウォルト・・・。

私は金髪碧眼の王子様然とした美しい少年に胡乱な目を向ける。

現実を受け入れて前向きになった私に最初に声をかけたのは、兄弟の中で唯一、両親と同居している兄ではなく、何故か同い年の幼馴染ウォルト。

私の心配をしてくれた家族だが、実は数日に一度しか顔を合わせない。
使用人から私が泣きやんだ報告は受けているだろうが、両親や兄からの接触はまだない。

そして、冒頭の台詞は子供部屋で家庭教師のミス・アーネットの授業を受けているところに突然飛び込んできたこの幼馴染(ウォルト)の第一声。

ウォルトが子供部屋に乱入してくることに慣れているミス・アーネットは、やれやれとばかりに首を振って、教材を掻き集め始める。このことから見てもわかるように、ウォルトの奇襲は日常的に行われている。

ここはハルスタッド家であって、ウォルトのウルスタッド家ではない。

「何が遭ったんだ? 誰に虐められた? 仇を討ってやるから名前を言え!」

これも兄オスカーではなく幼馴染(ウォルト)の発言。

ウォルト。だから、あなたは一体、私の何?
ただの幼馴染でしょう?

ウォルトは私の家と同じ伯爵家の嫡男。父親同士が盟友関係にあるので、気安く互いの家を行き来する仲だが・・・ちょっと気安く来すぎている気がする。
私の兄オスカーと同じように王子たちの学友という名の側近を務めているからって、この家に馴染みすぎているのは気のせいじゃない。

ウォルトが側近をしている第三王子は私とウォルトより2つ歳上。私たちより7つ歳上の私の兄オスカーは第三王子の兄である第二王子の側近を務めている。

実はこの第三王子、ゲームで王子枠の攻略対象なのだ。
その取り巻きであるウォルトも、同い年の私が悪役令嬢に仕立てあげられる同時期に学校に通うので攻略対象だったりする。

そして子供部屋の入り口でこちらを静観している兄オスカー(幼馴染のウォルトよりも他人に感じるがこれでも両親共に同じ兄妹だ)と、これまた第三王子のご学友のフレイ。このフレイも私の1つ歳上なので、攻略対象になる。

付く王子は違うが、兄とウォルトはそれぞれ王子の側近という立場だし、家同士の交流も深いのでこうしてつるんで行動することが多い。そして、フレイは同じ第三王子付きのウォルトと一緒にいることが多いので、彼も我が家によく出入りする。

何故、ウォルトの家ではなく、我が家なのかはわからない。私だけの家ではなく、兄の家でもあるが、兄がウォルトの家に押しかけて行くことなど、年齢差もあって考えられないから我が家なのかもしれない。

いや、押しかけて行くこと自体おかしいと思う。普通、他家には訪問(・・)するもので、案内を振りきって自由に目的地に到達することはしない。

同い年のはずなのに、ウォルトはハルスタッド家において私の兄として扱われているような気がする。実兄であるはずのオスカーのほうが腐れ縁で一緒にいる幼馴染のような無関心ぶりなだけに。

「誰にも虐められていないわ。将来を悲観しただけよ」

私は冷めた声で言った。

悪評を立てられたり、断罪の吊し上げを食らったり・・・って、よく考えれば悪夢は学生時代だけじゃなくて、その後の人生でも彼らと顔を突き合わせないといけないじゃない?!
悪かったら、その後の人生でもあることないこと濡れ衣着せられて、ゲームではなかった没落や国外追放、処刑の未来もあるってこと?!
何でこんな世界に生まれ変わっちゃったのよ!

私は頭から血の気が引くのがわかった。

「どうしてそんなことを? リーンネットには俺がついているから大丈夫だ」

そう言う攻略対象のウォルトが幼馴染の時点で終わってるんだけど。

「ウォルト。病明けをそう責めるな」

そう曰(のたま)うのは、黒髪の物憂げな美青年、私の兄だ。
我がハルスタッド家は黒い巻き毛と妖艶な色気が特徴の一族である。私にも勿論、その特徴が出ている。
目の色だけは兄妹でも異なることが多く、私はウォルトと同様、(年齢だけでなく目の色まで同じ)碧眼といえるが、兄は緑柱石のような緑眼だ。
ちなみに妖艶な色気は平凡な容姿でも美形に見せる効果があり、うちの一族は美形としても有名である。

にも拘らず、私の兄はゲームの攻略対象ではない。年齢的に学校に在籍しているのは現在であって、私もヒロインもついでにウォルトもまだ10歳。入学までにはまだ6年の猶予がある。

ゲームでは私の兄は話の中でしか出てこない。ゲーム内に姿を見せていたら、続編かパワーアップキットでも作られて攻略対象にされること間違いなしな容姿をしているのに、オスカーはゲーム期間中に死亡し、私が後を継ぎたいからやったことだとでっち上げられる為だけに存在する人物だ。

そう。私の兄は私を貶める材料として、死ぬ為だけに存在する人物だった。
勿体無い。
美形なのに勿体無い。
兄らしいことはすべてウォルトに丸投げしているような人だが、勿体無い顔面偏差値の人だ。

それに私は病気だったわけじゃないから、病明けではない。自分の運命に泣き暮らしていただけだ。

・・・。
こういう時、我が兄ながらオスカーにとって、私があまりにも興味が無い存在なのだと思い知らされる。
嫁に行ったお姉様たちのほうが、同居している兄よりも私のことをよく知っている。ほとんどこの家に暮らしていると言ってもいいくらい入り浸っているウォルトはもう、論外だ。家族以上に私のことをよく知っている時点でおかしい。

「まだ休んでいたほうがいいんじゃないか」

ウォルトが気遣ってくれる。悪夢の未来やら情の薄い兄のことで本当に今、病のように身体がフラフラするから、有り難い。

「ウォルトの言う通りだ。顔色が悪い」

銀髪にアイスブルーの硬質な美少年が言う。
フレイの褐色の肌は生まれつきではなく、武門の名家ホルボーンに生まれた彼の日々の訓練の賜物だ。

「大丈夫ですか、レディ・リーンネット」

教材を仕舞い終えたミス・アーネットが心配そうに覗きこんでくる。

「まだ勉強ができるほど、回復していなかったんですね。私の判断ミスです。次の授業はもう少し日にちをあけましょう」

「大丈夫よ、ミス・アーネット。病気ではないから。急に気分が悪くなっただけだから、明日も授業を受けさせて」

生き抜くために。
この世界でゲームに抗って生きるには力がいる。
まずは知識。

私はミス・アーネット必死に縋った。
目眩を起こしながら私が思ったことといえば、ゲームのこと。

兄は攻略対象ではないが、ウォルトとフレイは攻略対象だ。ウォルトに至っては、ゲームでは私の婚約者になっていた。

つまり、私の悪役令嬢への優先度はかなり高い。
やっぱり、婚約は回避しなくては。

それにこれはゲームではない。現実だ。
ゲームのあとの期間も人生は続いていく。

もしかしたら、これだけ外見の良い兄だ。私の兄も攻略対象とみなされるかもしれない。

鑑賞に耐えうる三人の青少年を前に、私は自分の将来が悪夢になることを実感した。
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