詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています

プラネットプラント

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ウォルト

外です。外。初めての外です

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「行ってらっしゃいませ」

 ジェニングスの快い見送りの言葉に背中を押されて、ウォルトのエスコートで馬車に乗り込む。
 エスコートできてるじゃん!

 部屋から見ていた両親が出かけて行く時と同じようなことをウォルトがしてくれたことに、私はショックを受けている。

 マナーは習ったから知っているだろうけど、いつもはデリカシーのない素の性格がそれを忘れさせているの?
 謎だ・・・。
 ウォルトに謎ができるという謎。
 単純明快なウォルトに謎って、なんなの?
 不可解すぎて理解できない・・・。

 現実逃避で窓の外を見れば、馬車は既にハルスタッドの館の門を出ていた。
 ガタガタと揺れる馬車の外を見れば、部屋の窓から見えていた街の風景がそこにあった。

 外!
 外だ!

 外の景色はハルスタッドの館と同じような大きな門があって、前庭の奥に馬車回しのある屋敷がある場所からこじんまりとした小さな家や建物が路面に面したものに変わる。
 ???
 前世で見た建物は大きかったし、こんなに小さくはない。
 前世でもこんな光景は見たことがなくて、私の目は釘付けだ。

「ウォルト、ウォルト! これ、何?!」
「見たまんま、家だけど?」

 こんなに小さいと、各階が中は前世の私の部屋ぐらいの大きさくらいしかないんじゃない?
 私だけなら住めそうだけど、家族では住めないよね。

「これが家なの?」
「庶民はこういう所に住んでいるんだよ」
「へえ~」

 庶民って大変。
 前世の私も大変だったんだな~。
 と、思っていたら、馬車が止まって、ウォルトが降りて行った。
 ウォルトが手を出してくれるので、その手を借りて私も馬車を降りる。
 目の前にあったのは、前世とは比べものにならないほど小さなビル。看板が出ているからお店のようだ。
 でも、扉は飴色で装飾も素晴らしい。

「いいか、リーンネット。商人が褒めるのはたくさん買わせる為だ。褒められてもあまり素直に受け取っちゃいけないからな」
「そ、そういうもんなの?」
「そういうもん。商人は口がうまくないとなれないからな」

 そう言いながらウォルトは数段しかない階段を上がって、扉を開ける。私もその後を追う。

 ウォルト・・・。
 馬車の乗り降りのエスコートはしてくれたけど、その後はまたすっかりマナーを忘れている・・・。
 学校入るまでに身に付かなかったら、これじゃ攻略対象だと思われないんじゃないかな・・・。
 偽シルヴィアはそれでもいいのかな?

 ウォルトルートのことを思い出してみようとしていると、店の奥から年嵩の上品な男性が出てくる。

「これはウルスタッドの若様。ご入用の物がございましたら、申し伝えてくだされば参りましたのに」

 子どもとは言え、伯爵家の嫡男であるウォルトに気付いた店主が自ら接客をしに来たようだ。

「気にするな。今日は店のほうに探しに来ただけだ」

 ウォルトの連れで、まだ紹介されていない私の存在を店主は目ざとく見つけたようだ。
 店主の視線を感じていたけど、私は店の中のものが物珍しくてあちこち眺めてしまっていた。

「・・・左様でございますか。どうぞお好きなだけご覧ください。――ところで、こちらの方は・・・ハルスタッドの若様でしょうか?」

 ドレス姿なのにオスカーと間違えられた!
 どうして、ドレス姿なのにオスカーと間違えられるのか、わからないけどショックだった。
 呆然としている私をウォルトは紹介する。

「オスカーの妹だ」
「ハルスタッドの黒薔薇姫?! それはとんだご無礼を。平にご容赦を」

 黒薔薇姫?!
 何、その恥ずかしい名前?!
 聞いてるこちらが恥ずかしくなるんですけど。
 って、姫って言うからにはそれって私のことよね?
 ハルスタッドの女性はここに私しかいないし。

「大丈夫だ。リーンネットはこんなことで気分を害したりはしない」

 勝手なこと言わないでよ、ウォルト!
 気分を害したりって・・・ショックは受けているんですけど!

 女装したオスカーと間違えられたのと、ウォルトのデリカシーの無さに泣きたいのか笑いたいのかわからなくなってくる。
 そりゃね。オスカーの服も一族の棟で作られるか、そこに運び込まれたものを使っているから、お店の人も顔を知らないかもしれないけどね。
 だからって、女装するのが当たり前とか思うのはどうかと思うよ?

「ご寛恕、ありがとうございます。まさか、ハルスタッドの黒薔薇姫とお目にかかることができるとは、思いもよりませんでした」
「?」
「? そうなのか?」

 私もウォルトにも店主の言うことがよくわからない。
 物知らずな私もそうだけど、ウォルトも10歳児だからね。腹黒枠とは違う単純で純粋なウォルトが10歳にして、世知に長けているはずもない。

「ハルスタッドの黒薔薇姫ともなれば、市井では伝説の存在ですから。宮廷に出入りする商人ですら、女性でなければその姿を目にすることは許されない存在でございます。噂通り、艶のある黒々とした豊かな巻き毛。それにけぶるようなその眼差し。まだ幼いというのに、これからどのように成長されますのか、想像が堪りませんな」
「・・・」

 いい歳をした男の人に夢見るような調子でうっとりと言われて、私の心中は複雑だ。
 お世辞だってのはわかっているけどね、嬉しいことを言ってくれているのはわかっているけどね、褒めてくれたのが商人だっていうのが引っかかる。
 商人に褒めて貰っても嬉しくないよー。
 せめて、ウォルトが商人が褒めるのはたくさん買わせる為だって、言ってなかったら素直に喜べたのに。

 ウォルトの馬鹿ー!!

「そうか? オスカーもこんなもんだぞ?」
「ハルスタッドの黒薔薇たちをこんなものと言うのは、ウルスタッドの若様ぐらいなものですよ。流石というか、何というか」

 馬鹿というか。
 デリカシーのないウォルトのことを、それ以上は商売上手な店主も口にしない。

「――ところで、お嬢様はどのようなものをお探しで?」

 私に話をふってくることで、店主は流れを変えるようだ。

「・・・これと言ったものは決めてないけど、兄の誕生日に送れるものを探しているの」
「お兄様はどのようなものがお好みで?」
「わからないわ。私はほとんど口をきいたことがないから」
「若様?」

 私の率直な答えに、店主はウォルトから答えを聞き出すことにした。

「オスカーは瓶を集めていたな」
「瓶、でございますか?」

 瓶?
 私も店主と同じように驚いた。

「ああ。小さな瓶をたくさん集めていたぞ。香水かもしれないが、とてもきれいなガラスの瓶だった」

 小さな瓶をたくさん集めてオスカーは何がしたいんだろう?

「左様でございますか。では、どのような目の色で?」

 店主の質問は既に色に移っていた。
 これには簡単に答えられる。

「緑よ。宝石みたいな深い緑色」
「ああ。目の色はリーンネットと違ったな。リーンネットは俺と一緒で青かったもんな」

 ・・・おおざっぱなウォルトの回答。これがデリカシーのなさにつながるんでしょう(呆れ)。

 店主があのわずかな答えで色々なものを見せてくれたけど、どれもこれもピンとこない。
 仲良くなるために必要な誕生日プレゼントじゃなかったら、一番初めにすすめられた品でいいんだけど、これだけは今後の自分の行く末も左右するかもしれないから簡単に選べない。

「勝手に見ていていいか?」

 提案されるのに疲れたウォルトが言い出した。

「当店の自慢の品々をどうぞ、ご覧になってください」

 子どもの言うことだろうに店主は快く応じてくれて、私たち二人は「ああでもない」、「こうでもない」と言いながら、商品を見て回る。
 アイリーンやマリーンと一緒に品物を見る時とは違うウォルトの反応が楽しい。
 それにウォルトが選ぶものが面白い。
 何に使うのかよくわからない仕込み杖とか、パイプを欲しがるんだけど・・・。パイプって、ウォルトのお父様が吸ってらっしゃるものよね。
 ウォルトは大人ぶって使いたいのかな?

「ウォルトにはまだいらないものじゃない?」
「俺のじゃないよ」
「え?」
「今日はオスカーの誕生日プレゼントを買いに来たんだろ?」
「オスカーへのプレゼント?」

 兄に仕込み杖とかは似合いそうだけど、パイプはまだ似合いそうにない。
 でも、仕込み杖も足が悪くなさそうではないし、いらないんじゃない?
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