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アライアス
買い物籠も商品でした
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私がオスカーの蛮行?に驚いていると横から籠が差し出される。
「籠が必要なんだろ?」
関わりたくない声がする。ゲームで聞ける人気声優の声ではない、まだ声変わりする前の高い声。
「・・・」
振り向きたくない。振り向きたくないけど、親切に籠を差し出されたからには振り向くしかない。
意を決して、振り向いた先にはお忍びの第三王子とその護衛。二人とも籠を手にしている。
籠を差し出してきているのは第三王子。
なんでチョコレートコーナーでじっとしていてくれないの?!
せめて護衛が差し出してくれていたら良かったのに、王子の手ずからの籠!
相手がお忍び中の王子だとわかっていなくても、護衛からの無言の圧力があって手に取らないといけない気にされる。
オスカー、どうしたらいいの?!
私が目で助けを求めたら、オスカーはすぐにやって来てくれた。その手にはパウンドケーキが突き刺すように入れられている籠。中に入れているものが飛び出しているので腕にかけられず、手提げをつかんで持っている。
「ご親切、ありがとうございます。ですが、ご厚情を頂かなくともなんとかなりますから、お気持ちだけ有難くお受けいたします」
オスカーは第三王子に唇を艶やかな笑みの形にしながら言った。
ふわりとお菓子ではない甘い匂いがあたりに漂う。
何故か、カッと頭に血が上って来て、心臓がバクバクと鳴り始める。
自分の反応に驚いて、あてもなく第三王子たちのほうを見たら、第三王子が顔を赤らめていた。
護衛もわずかに目を見開いているように見える。
同性相手に赤くなるって、第三王子は大丈夫かな?
私がいらない心配をしている間にオスカーは私の背中に手をまわして、店員さんがいるカウンターに向かう。
「会計おねがいします」
さっきは低姿勢だったのに、オスカーはお忍びの王子を華麗にスルーした。
「!!!」
オスカー---!!!
相手が王子だとわかっていたらとんでもない兄の行動に、睫毛で重い目が驚きで大きく開く。
店員さんは今、ここで兄のしでかしたことにハラハラしているのか、蛮行?に挙動不審だった。
そりゃあ、籠に縦にパウンドケーキを突っ込まれていたら、困るよね。
「リーンネット。籠はここで買ってから商品を入れるから、勝手にもらってはいけないよ。今日はここに来る予定じゃなかったからここで籠を買ったけど、普通は家から買い物籠を持って来るんだ」
「そういうものなの?」
確認した私にオスカーは頷く。
どうやら、商品を入れている籠もこの店の商品だったらしい。
「家族や友達以外の知らない人物からはどんなものももらってはいけないと、家庭教師は教えなかった?」
「それなら聞いたことあるよ。この前、出かけた時はお金がなかったからウォルトに払ってもらったけど、友達だからいいよね」
「・・・。それは後でウォルトに返しておくよ」
「駄目だよ。だって、オスカーの誕生日プレゼントなんだよ? オスカーがそのお金を払ってもらうのはおかしいじゃない。ジェニングスにお金をもらって、ウォルトに返すからそれでいいよね?」
「ああ。それならいい」
自分の手にしている籠にはシフォンケーキが入ってなくて、そこに敷かれている木皿だけが見える。
シフォンケーキも全種類買うはずだったけど、第三王子が声をかけてきたから、オスカーにカウンターに移動させられて、一つも買えていない。
「でも、シフォンケーキは買ってないけどいいの?」
「それはまた今度買おう」
私たちが話している間も店員さんがあたふたして、何度か商品を間違えたり、数え間違えたりしている。オスカーがパウンドケーキを変な風に籠に入れたせいだ。
「おいっ!」
オスカーがお金を払っている間、その隣で私がそれを面白そうに見ていたら第三王子から声をかけられた。
と思ったら、”カツラ”が強く引っ張られ、前髪の生え際が痛くてたまらない。ブチブチと髪の抜ける音すらする。
髪を引っ張る力が強くて、油断していた私の身体も第三王子のほうに倒れそうになったけど、それはなんとか持ちこたえる。
「リーンネット!!」
オスカーが切羽詰まった声で叫んでいるのをジクジクと前髪の毛の生え際が痛む中、そこに手をあてて目を閉じてただ聞いていた。
「オリー様」
「黒髪?!」
”カツラ”の下から出てきた私の髪の色に第三王子が驚いてつかんでいた”カツラ”を放したのか、それとも”カツラ”が外れてしまったのか、私の頭は自由になる。
店の中にいた誰かが黒髪と言うの聞いて、兄が”カツラ”を取って素性を明かしたのかと思った。だって、黒髪はこの国では珍しいものだと聞いたから。
学校に通っているオスカーは第二王子の側近候補としても仕えている。第三王子ならその顔を見知っていてもおかしくない。
現に私もゲームで第三王子の顔を知っていたから、”カツラ”をとればすぐに第三王子もオスカーであると気付くだろう。
いくらお忍び中でも、王子ともあろう者が女子ども相手に暴力を奮っていい理由はない。ましてや、ここは都の中の店だ。そんな場所でいきなり暴力を奮ったのを、第二王子の側近候補であるオスカーは許せなかったのだろう。
オスカーが自分が貴族であることを告げ、第三王子を諫めるつもりなのだと思った。
でも、オスカーは諫めなかった。
自分の上着を脱いで私の頭にかけて、私を抱えると一目散に店を飛び出していく。
それができて顔にかかる髪がなくなったということは、”カツラ”は完全に外れてしまったのだろう。”カツラ”がまだあれば髪が顔や首の周りにかかっている感触があるか、ぶら下がっている感覚があるだろうし、第三王子がまだ”カツラ”をつかんでいるなら、オスカーが私を連れ出すことはできないのだから。
それに上着をかけられる前に見えた兄は金髪で”カツラ”がとれていなかった。
じゃあ、あの黒髪発言は私の”カツラ”がとられたから?
「籠が必要なんだろ?」
関わりたくない声がする。ゲームで聞ける人気声優の声ではない、まだ声変わりする前の高い声。
「・・・」
振り向きたくない。振り向きたくないけど、親切に籠を差し出されたからには振り向くしかない。
意を決して、振り向いた先にはお忍びの第三王子とその護衛。二人とも籠を手にしている。
籠を差し出してきているのは第三王子。
なんでチョコレートコーナーでじっとしていてくれないの?!
せめて護衛が差し出してくれていたら良かったのに、王子の手ずからの籠!
相手がお忍び中の王子だとわかっていなくても、護衛からの無言の圧力があって手に取らないといけない気にされる。
オスカー、どうしたらいいの?!
私が目で助けを求めたら、オスカーはすぐにやって来てくれた。その手にはパウンドケーキが突き刺すように入れられている籠。中に入れているものが飛び出しているので腕にかけられず、手提げをつかんで持っている。
「ご親切、ありがとうございます。ですが、ご厚情を頂かなくともなんとかなりますから、お気持ちだけ有難くお受けいたします」
オスカーは第三王子に唇を艶やかな笑みの形にしながら言った。
ふわりとお菓子ではない甘い匂いがあたりに漂う。
何故か、カッと頭に血が上って来て、心臓がバクバクと鳴り始める。
自分の反応に驚いて、あてもなく第三王子たちのほうを見たら、第三王子が顔を赤らめていた。
護衛もわずかに目を見開いているように見える。
同性相手に赤くなるって、第三王子は大丈夫かな?
私がいらない心配をしている間にオスカーは私の背中に手をまわして、店員さんがいるカウンターに向かう。
「会計おねがいします」
さっきは低姿勢だったのに、オスカーはお忍びの王子を華麗にスルーした。
「!!!」
オスカー---!!!
相手が王子だとわかっていたらとんでもない兄の行動に、睫毛で重い目が驚きで大きく開く。
店員さんは今、ここで兄のしでかしたことにハラハラしているのか、蛮行?に挙動不審だった。
そりゃあ、籠に縦にパウンドケーキを突っ込まれていたら、困るよね。
「リーンネット。籠はここで買ってから商品を入れるから、勝手にもらってはいけないよ。今日はここに来る予定じゃなかったからここで籠を買ったけど、普通は家から買い物籠を持って来るんだ」
「そういうものなの?」
確認した私にオスカーは頷く。
どうやら、商品を入れている籠もこの店の商品だったらしい。
「家族や友達以外の知らない人物からはどんなものももらってはいけないと、家庭教師は教えなかった?」
「それなら聞いたことあるよ。この前、出かけた時はお金がなかったからウォルトに払ってもらったけど、友達だからいいよね」
「・・・。それは後でウォルトに返しておくよ」
「駄目だよ。だって、オスカーの誕生日プレゼントなんだよ? オスカーがそのお金を払ってもらうのはおかしいじゃない。ジェニングスにお金をもらって、ウォルトに返すからそれでいいよね?」
「ああ。それならいい」
自分の手にしている籠にはシフォンケーキが入ってなくて、そこに敷かれている木皿だけが見える。
シフォンケーキも全種類買うはずだったけど、第三王子が声をかけてきたから、オスカーにカウンターに移動させられて、一つも買えていない。
「でも、シフォンケーキは買ってないけどいいの?」
「それはまた今度買おう」
私たちが話している間も店員さんがあたふたして、何度か商品を間違えたり、数え間違えたりしている。オスカーがパウンドケーキを変な風に籠に入れたせいだ。
「おいっ!」
オスカーがお金を払っている間、その隣で私がそれを面白そうに見ていたら第三王子から声をかけられた。
と思ったら、”カツラ”が強く引っ張られ、前髪の生え際が痛くてたまらない。ブチブチと髪の抜ける音すらする。
髪を引っ張る力が強くて、油断していた私の身体も第三王子のほうに倒れそうになったけど、それはなんとか持ちこたえる。
「リーンネット!!」
オスカーが切羽詰まった声で叫んでいるのをジクジクと前髪の毛の生え際が痛む中、そこに手をあてて目を閉じてただ聞いていた。
「オリー様」
「黒髪?!」
”カツラ”の下から出てきた私の髪の色に第三王子が驚いてつかんでいた”カツラ”を放したのか、それとも”カツラ”が外れてしまったのか、私の頭は自由になる。
店の中にいた誰かが黒髪と言うの聞いて、兄が”カツラ”を取って素性を明かしたのかと思った。だって、黒髪はこの国では珍しいものだと聞いたから。
学校に通っているオスカーは第二王子の側近候補としても仕えている。第三王子ならその顔を見知っていてもおかしくない。
現に私もゲームで第三王子の顔を知っていたから、”カツラ”をとればすぐに第三王子もオスカーであると気付くだろう。
いくらお忍び中でも、王子ともあろう者が女子ども相手に暴力を奮っていい理由はない。ましてや、ここは都の中の店だ。そんな場所でいきなり暴力を奮ったのを、第二王子の側近候補であるオスカーは許せなかったのだろう。
オスカーが自分が貴族であることを告げ、第三王子を諫めるつもりなのだと思った。
でも、オスカーは諫めなかった。
自分の上着を脱いで私の頭にかけて、私を抱えると一目散に店を飛び出していく。
それができて顔にかかる髪がなくなったということは、”カツラ”は完全に外れてしまったのだろう。”カツラ”がまだあれば髪が顔や首の周りにかかっている感触があるか、ぶら下がっている感覚があるだろうし、第三王子がまだ”カツラ”をつかんでいるなら、オスカーが私を連れ出すことはできないのだから。
それに上着をかけられる前に見えた兄は金髪で”カツラ”がとれていなかった。
じゃあ、あの黒髪発言は私の”カツラ”がとられたから?
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