詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています

プラネットプラント

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アライアス

父はヤンデレに捕まらなかったらしい

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「こんな大事な時にどうして父上は捕まらないんだ」

 私のベッドの脇でヤンデレが愚痴っている。
 というのも、昨日は父を捕まえられなかったのが原因だ。

 グッジョブ、父!
 親が接触困難な状態を初めてよかったと思った。

 そのせいか兄は相変わらずヤンデレモード。

 赤の他人にしか思えないくらい疎遠だったオスカーと仲良くしたいとは思ったよ?
 思ったけど、ヤンデレになって欲しいとは思わなかったよ。
 私が目指したのは兄妹仲が普通なくらいで、ローゼンバーグ侯爵家の兄妹みたいな「お兄様」「妹よ」のシスコン・ブラコンレベルは求めてないから。
 そこまで求めてないのに、どうしてヤンデレになっちゃったのよ、オスカー。
 嬉しいようで嬉しくない状況に気が重い。

 攫われたショックが抜け切れていないだろうからと、ベッドで大人しくしていることをヤンデレとキャットに命じられた私は、こうしてヤンデレの傍から逃げることもできず、ゲームとは違いすぎる頭の痛い現状に耐えているしかなかった。

 それにしても、ヤンデレの傍にいるなんて精神衛生上、よろしくなさすぎる。
 当のヤンデレが次期当主なもんだから、当主代行権を使って傍にいたがるから、キャットのような侍女なんか私の部屋から追い出せちゃう。

 オスカーのほうが出て行ってくれたらいいのに・・・。

 学校に行かなくてもいいって言ってくれているから、陥れられて訪れる未来を少しでも回避しようって、勉強をしなくてもいいから嬉しい。
 自力で生きていこうだなんて頑張ってみたけど、私ってこの世界のことは何にも知らないから、この屋敷から出て生きていけるようになるにはかなりの努力が必要だ。
 自分の髪の色が珍しいことすら知らなかったもん。
 お菓子屋さんに籠を持って行くことだって知らなかった。
 ミス・アーネットが教えてくれることだけじゃ、一人で生きていく知識が足りないことを知らなかった。

 私は学校に行かなくていいとオスカーは言った。
 陥れられるのを避けたいなら、そのままにしていたら学校に通わなくていい。
 でも、それは私だけが不憫系悪役令嬢の未来を回避して、他の不憫系悪役令嬢たちを見捨て、絶望と失望の日々を送らせることになる。
 そんなことになっても、悪役令嬢に仕立て上げられたくないかと言ったら、そうじゃない。

 やってもいないことや言ってもいないことで陥れられて自分が悪役になるのは嫌だ。
 だけど、未来のことがわかっている自分だけが助かって、私に見捨てられた不憫系悪役令嬢たちがゲーム通りの結末をたどるのを見過ごすのも嫌だ。

 ゲームの世界だから自分は安全だと考えていたけど、私は暴れ馬に蹴られて死ぬ危険や攫われる危険と出会った。
 実際、攫われて、助け出されなかったらどうなっていたかわからない。
 偽シルヴィアに陥れられたくないから、逆ハーにならない限りゲームの期間が終わるまで攻略対象たちに近付かないようにしたらいいなんて考えているのは甘かった。
 この世界は危険すぎる。
 ゲームの時期まで生き残ることすらできるかどうかわからない。

 学校に進学するまで時間はあると考えていたけど、時間はないと言ってもいいのかもしれない。
 今から私が他の陥れられる不憫系悪役令嬢たちと連絡さえ取れるようになったら、助けることができるかもしれない。本物のシルヴィア以外は。
 本物のシルヴィアは幼い頃から両親と離れて保養所で有名な街にある別宅で療養している。彼女に新しく来るメイドに注意しろと警告を出しても、なんとかできるとは思えない。
 彼女の両親であるリゼル男爵夫妻に警告しても、本物のシルヴィアと交流のない私では相手にされないだろうし、オスカーを経由しても同じだ。
 オスカーが本物のシルヴィアと一時的に婚約してくれれば何とかなるかもしれないけど、学校に通っているオスカー自身、誰かと既に婚約している可能性がある。残念ながら、ゲームのオスカーは顔も出ない完全なるモブなので、そのあたりの事情も一切わからない。

 学校に進学するかどうか、もう迷わない。
 私は他の不憫系悪役令嬢たちを助けられるように頑張る。
 ヤンデレになったオスカーの様子から見て外出することは難しくなったかもしれないけど、それはウォルトやフレイに頑張ってもらって、彼女たちと連絡を取ろう。あの絶望を回避する為に。
 誰も信じられなくなった他の不憫系悪役令嬢たちに一人じゃなくて、たった一人でも味方がいるんだって思ってもらえるように。

 偽シルヴィアは本物のシルヴィアと同じ年頃だろうから、今は8~13歳くらいだ。メイドとして働き始めていてもおかしくない。
 しかし、偽シルヴィアがどこの誰だとゲームだと描かれていなかったから、彼女を雇わないようにすることはできない。それは偽シルヴィアは本物のシルヴィアに成り代わっていたように、既に別の誰かに成り代わっていたのかもしれない可能性があるから。
 既に雇われていなかったとしても、本物のシルヴィアを迎えに行く途中でメイドと成り代わったのかもしれないし、本物のシルヴィアが学校に向かっている途中でメイドになったのかもしれない。

 考えたら考えるほど、本物のシルヴィアはオスカーと婚約しておいたほうがいい気がしてくる。学校に入学して入寮した時に別人だって私が判断できたら、娼館に売り飛ばされた本物のシルヴィアがまだ生きている間に救い出すこともできる。

 と、傍にいるヤンデレを無視して本物のシルヴィアを助ける方法を考えていたら、部屋の外から私の侍女をしているキャットと聞きおぼえのない女性の言い争う声がした。何を言っているのか、まだよく聞こえない。
 オスカーが私をかばうようにベッドの前に立つ。

「オスカー、何が起きてるの?」

 少しでもオスカーの足手まといにならないようにと、私は入り口から少しでも遠くにとベッドの上を移動した。

「わからない。だが・・・」

 オスカーが言い終わらないうちに、キャットと女性が隣の私の居間まで到達したのか、声が途切れ途切れに聞こえるようになった。

「で・・・ら、・・・だ、お・・・ざ・・・にな・・・て、おら・・・せん!」
「だ・・・よ! わ・・・た・・・わ」
「おま・・・さい! ・・・ま!」

 ドタドタと大きな音がして、バタンと居間と寝室を繋ぐ扉が開けられる。
 キャットを細い腰に引っ付かせたまま、黒い巻き毛の美女が扉の向こうにいた。扉を開けたのは将来分けて欲しいくらい羨ましい胸をしている彼女らしい。

「私たちが来たからにはもう一人ぼっちじゃないわよ、リーンネット!」
「お待ちください、リーンリアナ様。リーンネット様にはまだ安静が必要でして・・・!」

 だ、誰?
 髪の色からしたらハルスタッド一族だよね?

 血が繋がっていても遠縁だよね、胸的な意味で。ゲームの中の私じゃ、比較対象にならない大きさだし。
 姉妹や従姉妹で胸の大きさの格差はいらない。

 目は私と同じ碧眼で、片手は幼い女の子と繋がれている。その子も黒い巻き毛で、美女の娘かもしれない。

 羨ましい胸のせいかウエストはすっごくほっそく見える。
 何、その細さ。
 その腰にしがみ付いているキャットの手が反対の手の肘がつかめそうなくらい細い。

「だ、誰?」
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