詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています

プラネットプラント

文字の大きさ
45 / 46
アライアス

キャッキャウフフとガクブルなお茶会

しおりを挟む
 こんにちは、死んだ魚のような目でキャッキャウフフを眺めている不憫系悪役令嬢になるリーンネットです。
 もう、既に不憫系令嬢だと思うリーンネットです。

 バカップルを見せつけられたら、色々詰んでる自分が不憫だとしか感じなくなりました。

 ローゼンバーグ侯爵令嬢のお茶会に招かれて、彼女とその兄の仲の良さを見せつけられているならまだいいんですが(ゲームで描かれているから耐性あり)、まだそこまで至っていません。
 まだ、姉が知人を呼んだお茶会の段階です。

 それなのに目の前でキャッキャウフフが繰り広げられています。

「本当に貰ってもよろしいのかしら? お仕事で育てられたものなのでしょう?」
「あ・・・。いや、これは仕事ではなくて・・・。レディ・リーンリアナの為に・・・」
「まあ。レナード様ったら、お人が悪い。てっきり、お仕事のものを持ってこられたのかと思いましたわ。私の為に作ってくださったのね」
「はい・・・」

 アンサー。
 姉とモジモジとしているモブ顔文官さん(色々教えてくれたモブ顔さんではない)。

「でしたら、喜んでいただきます。可愛らしくてなんて良い匂いかしら」
「レディ・リーンリアナがそうおっしゃって下さるなら、取り寄せて育てた甲斐もあります」

 白い小さな花が集まってできた花に顔を近付けて匂いを嗅ぐ姉を恍惚とした表情で見ている文官さん。
 姉は侍女に合図をする。
 お茶会に呼ぶ時には文官さんに渡そうと用意していたのか、侍女は手の中に納まるような小さな瓶を姉に渡した。

「でも、それで手が荒れるでしょう? どうぞ、このハンドクリームをお使いになって」
「そんな・・・! ありがとうございます、レディ・リーンリアナ。実は僕もあなたに使っていただこうと、美白効果のある薬草を配合したクリームを用意してきたんです」

 文官さんも何か小さな瓶を取り出す。

「お花だけでなくて、クリームまで用意なさって下さったんですか? そんな、お手数をおかけしてしまって、申し訳ございません」
「いえ。いいんです。こうして、レディ・リーンリアナが僕の研究をいつも聞いてくださっていただけで、僕は幸せですし・・・。僕ができることといったら、こんなことしかなくて・・・」
「そんな、レナード様・・・」

 文官さんの熱い言葉に姉が恥じらう。

「ああ、レディ・リーンリアナ。僕にもあなたの話をもっと聞かせてください。それであなたが幸せになるのでしたら、いつまでも聞かせてください」
「ありがとうございます・・・」

 なんだろう。
 耳まで真っ赤になった二人を見ていると、見ているこっちが居たたまれない気持ちになってくる。


 現実逃避はそろそろ止めることにして。
 良いことと悪いことが起きました。

 良いことはウォルトとの婚約が回避されました。
 やったね。これで私の陥れられる原因がなくなった。
 私を悪役令嬢にする理由は宰相家の跡取りであるウォルトの婚約者だったから。
 ウォルト以外の攻略対象者も第三王子とか次期公爵に次期侯爵、武門の名家の子息に第三王子の側近、音楽家の卵。王子の側近候補として挙げられるだけの高位貴族出身の中でも、国を代表する立場になりやすい人物ばかりだ。
 つまり、偽シルヴィアが攻略しようと思っている彼らの婚約者はただの邪魔者だから、悪役に仕立て上げられるのだ。
 祝・宰相家の跡取りとの婚約回避。
 お茶会を通じてローゼンバーグ侯爵令嬢とは仲良くなれそうな見通しもついたし、少しでも悪役になる要素が減っているなら、他の不憫系令嬢を助けに学校に通っても大丈夫かもしれない。

 え? ゲームで噂になってたロリコンのことは大丈夫かって?
 噂はロリコンのストーキング行為が原因だったんじゃないかと思うし、ストーカーが攻略対象者だからって偽シルヴィアもそこまでして私を悪役令嬢に仕立て上げる気はないだろうし。
 だって、ストーカーだよ?
 ゲームだと逆ハーかウォルトルートじゃない限り、婚約者のいる女生徒に片想いしているだけなんだよ?
 そんなストーカーのストーカー被害に遭っている令嬢を婚約者もいない状態で悪役に仕立てたら、ストーカーの怒りを買って何をされるかわからない。
 実際、ゲームで私(リーンネット)が学校から追放される時はロリコンが家の事情で一時的に学校を離れていた時期だったりする。
 兄殺しの嫌疑がかけられているから当のオスカーはいないし、ルートによっては結婚するロリコンも不在の時期に私の追放イベントは起きていた。

 よく考えたら、偽シルヴィアがしっかりロリコンの心を鷲掴みしていなかった場合、私が一族の人間に嫁いで怒り狂ったロリコンに仕返しされる可能性がありそうだけど、それはゲームでは描かれていないし、考えてもしょうがない。

 ウォルトとの婚約は回避。
 おめでとう! 10歳でゲームの不憫系令嬢を回避できました!


 ・・・悪いことは、別の攻略対象者と婚約が決まりました。

 今朝いきなり婚約者と会わせるって言ってきた私の親、どうなってんの?
 それも姉のお茶会で会わせるからって、親の立会いはなし。
 ・・・。
 本当に私の扱いが悪い。

「それ以上、こっちを見るな。お前に見られているのかと思うと気分が悪くなる」

 これは私じゃなくて、私を挟んだ向こう側の人物に向けてオスカーが放った暴言。
 兄は攻略対象者じゃないので、私の婚約者でもない。
 姉のお茶会を終わらせる為に参加するオスカーが、終わらせようと参加していないのは不思議だが、暢気なことを言ってられる状況じゃない。
 オスカーじゃないほうの私の隣には婚約者であるゲームの攻略対象者がいる。

 意識的に私はオスカーのほうを見るようにしていた。
 目があうとオスカーは微笑み返してくれるが、すぐに緑柱石のような目で私の隣を冷たく睨みつける。
 私は絶対にそっちを見ないようにしていた。
 そっちはそっちで禍々しい冷気を放っている。
 冷気を放っていなくても、見たくない。

 私はブルーグレーの目と目をあわせるどころか、雪のように白い銀髪を視界に入れないようにしていた。

 なんか物理的に私の周りが寒い。

「君を見ているわけじゃない。――さあ、レディ・リーンネット。どれを食べますか?」
「・・・」

 優しそうな声で呼びかけられるけど、私はブルブル震えて答えなかった。

 いらない。の一言すら言えない。
 綺麗に盛られた小さな焼き菓子はどれもこれも美味しそうで、いつもなら全部食べようとしてイオン卿に窘められるか、ローズマリーの為に残しておこうと自制するのが大変だけど、今はまったく食べる気が起きない。

「リーンネットを見るな。怯えてしまっているじゃないか。顔合わせも終わったことだし、そろそろ帰ってくれ」

 友好的なものの欠片もないヤンデレの対応。口調までため口だ。
 私の婚約者が今日のお茶会に来ると知って、一緒にいてくれるヤンデレが心強かった。
 ありがとう、オスカー。
 ヤンデレになっちゃったけど、それが初めてよかったと思ったよ。

「君に指示を出される謂れはない」
「リーンネット、何か食べるか?」

 ヤンデレはロリコンの言葉を無視して、私の顔を覗き込んで尋ねてくる。
 間近で見たオスカーの目の色が濃くなったり、薄くなったりして煌めいていた。

「いらない・・・」

 兄の目を見ていたら、なんとか身体の震えは収まった。

 慣れって怖い。兄だとわかっていても心臓に悪い美形ですら、今は見ていて落ち着くものになってしまった。
 私の様子を心配してくれたオスカーが棘のある声で言う。

「リーンネットはいらないそうだ。体調も悪そうだし、今日はこれでお開きにしよう」
「しかし、これでは顔をあわせたことにならないだろう」

 顔なんてあわせたくなかった。
 ロリコンと婚約するぐらいだったら、婚約者はウォルトのほうが良かった。
 こんな心臓が止まりそうな恐怖を与えてくる相手、嫌だよ。

 怖い。ロリコン、怖い。
 これは悪い夢だって誰か言って。
 どうやったら、この悪夢から目が覚めるのかな?

「リーンネットがこんな体調で、まだやるって言うのか? こんな自分のことしか考えない奴がリーンネットの婚約者だなんて、信じられない!」

 私の気持ちを代弁するようにオスカーが大袈裟に嘆いてみせる。

 ここまでのやりとりでおわかりの通り、私の婚約者はアライアス・ロクスだ。

 なんで、ロリコンと婚約することになったのか・・・・・・。
 ゲームより現実が詰み過ぎていて、何も考えられない。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

さよなら初恋。私をふったあなたが、後悔するまで

ミカン♬
恋愛
2025.10.11ホットランキング1位になりました。夢のようでとても嬉しいです! 読んでくださって、本当にありがとうございました😊 前世の記憶を持つオーレリアは可愛いものが大好き。 婚約者(内定)のメルキオは子供の頃結婚を約束した相手。彼は可愛い男の子でオーレリアの初恋の人だった。 一方メルキオの初恋の相手はオーレリアの従姉妹であるティオラ。ずっとオーレリアを悩ませる種だったのだが1年前に侯爵家の令息と婚約を果たし、オーレリアは安心していたのだが…… ティオラは婚約を解消されて、再びオーレリア達の仲に割り込んできた。 ★補足:ティオラは王都の学園に通うため、祖父が預かっている孫。養子ではありません。 ★補足:全ての嫡出子が爵位を受け継ぎ、次男でも爵位を名乗れる、緩い世界です。 2万字程度。なろう様にも投稿しています。 オーレリア・マイケント 伯爵令嬢(ヒロイン) レイン・ダーナン 男爵令嬢(親友) ティオラ (ヒロインの従姉妹) メルキオ・サーカズ 伯爵令息(ヒロインの恋人) マーキス・ガルシオ 侯爵令息(ティオラの元婚約者) ジークス・ガルシオ 侯爵令息(マーキスの兄)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

処理中です...