幸せを見付けたので、お姉様に婚約者を差し上げます。

プラネットプラント

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悪いのは全部わたし

 わたしは抱き留めた腕の持ち主を見上げて言った。

「ごめんなさい」
「気にしなくていい」

 ポタリポタリと、堰を切ったように涙が頬を伝い落ちる。
 エスコートしていたクリフトン卿は、わたしを支えたままテラスに出た。長いスカートの中で足先が浮いていたので、重かったと思う。

「ごめんなさい」
「・・・」

 クリフトン卿は無言でわたしをテラスに置かれたいた椅子に座らせて、室内のほうを向いた。

 涙がドレスに次々と落ちる。
 室内よりも空気は冷たく、椅子も冷たい。
 泣き止もうと思っても、涙は止まらない。ダンスフロアで止めていた代わりだというかのように、湧き出てくる。

 今日、会ったばかりだというのに、謝ってくれる人がいた。
 態度が悪かったって、それだけで謝ってくれる人だった。

 お姉様に恥をかかすなと、言うお父様とお母様。
 わたしのドレスはお姉様のお下がりで流行遅れなのに、恥をかかすなと、言う。お母様のドレスどころか、お父様の服も新調されても、わたしは宝石や高価なレースを取ったお下がりのドレスを仕立て直したもの。
 お姉様に恥をかかすわけにはいかないから、と言ってくれたのなら。
 一着だけでも毎年、わたしの為に作ってくれていたら。
 全部許せた。

 悪いのはいつもわたしだと、お父様もお母様は言う。
 お姉様だって、さっきみたいにフェルナンドの言い分だけ聞いて、わたしの意見は聞かない。
 悪いのはいつもわたし。
 なんだって、わたし。

 お父様もお母様もお姉様もフェルナンドも、間違っても、誰もわたしには謝らない。
 悪いのはいつもわたし。

 そういうものだと、使用人たちですら言っていた。
 家族で集まって食べないなら、厨房で食べるように言われた。
 だって、わたしの為に私室や食堂まで持っていくことに手間がかかるから。
 テーブルマナーなんて守っていたら洗うカトラリーが増えると、言われた。
 ダヴェンフィールド家の一員で居ながら、使用人と同じ扱いをしてもいい相手。だけど、使用人の仕事はさせちゃいけない相手。

 使用人にとって、迷惑な人物。
 それがわたし。
 だから、わたしは使用人にとっても、悪い人物。

 謝ってくれる人?
 ブライアン? ユージェニー? マーゴ? 三人だけ。
 わたしのことをよく知っている三人だけは謝ってくれる。

 それ以外は?
 わたしはいてもいなくてもいい相手。
 わたしという個人を見ない人々。
 お母様はわたしが煩わしいから既婚婦人が集まっているところに連れて行くこともない。
 だから、社交界の既婚婦人たちはわたしを幽霊のように扱う。

 邪魔だから、当たりそうだから、声をかけるだけの存在。

 会ったばかりで、わたしを見てくれる人なんていない。婚約者持ちだし、パッとしないから。
 謝ってくれる人なんて、もっといない。
 そんな稀有なことだったから、嬉しかった。

 鼻がツーンとして、すすりそうなのを何とか堪えて、涙が流れるままにした。

 曲が終わって、室内が話し声で騒めき、次の曲が始まる。

「謝らなくていい」

 クリフトン卿がポツリと言った。

「・・・?」

 謝る?
 何を言われたのか、よくわからなかった。

「泣かせたのは私だ。私に謝る必要はない」

 泣かせたことをクリフトン卿は謝りたかった・・・これはさっきも言われた。

 わたしが謝ったのは――
 もしかして、わたしが曲の途中でダンスフロアから出るのに迷惑をかけてしまったこと?
 それとも、テラスの椅子まで重いわたしを運ばせてしまったことを謝ったこと?

「クリフトン卿は泣かせたかったの?」
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