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第一章
銀色の髪の男4
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おしゃれなカフェで使用されているラウンド型のグラタン皿に入れられたビーフシチュー。ガラス製のボウルに入れられたサラダ。厚さ4センチ以上のミディアムレア~レアだろうステーキ。バゲットをスライスしたガーリックトースト。小さなテーブルの上に置かれている料理は初めに注文した料理だ。注文している一部でしかない。
これから次から次へと運び込まれてくる料理を食べていくしかないのだと思うと、銀色の髪の男をギャフンと言わせようと思った美穂も気が重くなった。この料理だけでも、美穂の食事としてはいつもの量より多めだ。これに加えて更に何種類もの料理を食べることになる。
食べ過ぎを覚悟しているとはいえ、実際に食べられる量を目にしただけで、石を飲み込んでしまったかのように胸がつまる。
(大丈夫。食べられる)
フードファイターも一回で数キロ食べられるのだから、自分も食べられるはずだと美穂は自分に言い聞かせる。それにフードファイターなら一日に二回は食べているのだ。普通の人間でも一回くらいは食べられるはずだ、と美穂は思った。
残念ながら、美穂は食べ放題などで盛り付けをこだわるほうで、多くても二皿目を食べた時点で食事を終えるので、自分の限界を知らなかった。
だから、数キロくらいなら食べられると思っていた。
一口目はまだ気が重いせいか、美味しく感じなかった。もそもそと咀嚼して、次の一口を入れようと仕方なく飲み込む。
そういうことを何度か繰り返してサラダのドレッシングのよくかかった部分を口に入れた瞬間、絶妙な酸味と旨味を感じるようになり、食べるのも楽になった。
美味しく感じられるようになると、次から次へと食べるのが楽になった。
(う~ん、美味しい! 極楽極楽!)
空腹がいいスパイスになっている美穂には注文した料理が美味しく感じる。店に来る客の口に合うようにしているからか、なかなか美味しい。通常の食事は大量に作った賄い飯のようなもので、客に出す料理ほど味も手間暇もかかっていない。
順調に三角食べをして、それぞれ残り一口となったところで、食べるスピードがピタッと止まった。
ちょっと多めに頼んだだけなのだが、美味しさよりも胸苦しさが来たのだ。
(これは全部食べられるけど、これ以上は無理)
まだ料理が残っているのに美穂の手が止まったのを見て、銀色の髪の男にも美穂の状態がわかったのだろう。顔に意地の悪笑みを浮かべている。
「もう食べないようですが、どうかしたんですか? 食べられないんですか? あんな大口を叩いていた割に、これだけしか食べられないと? ほら、残っていますよ」
――非常に厭味ったらしかった。
(厭味~!!!)
美穂はカチンと来た。
「食べますよ。食べてやりますよ。美味しさにちょっと感動していただけです」
そう言って、美穂はテーブルの上に残っていた料理を八つ当たり気味に口に入れる。
味などもう、関係ない。飲み込みさえできればそれでいい。
「感動、ですか・・・」
美穂の強がりをわかっているのだろう。銀色の髪の男は喉を鳴らして笑う。
赤毛の男とは違う意味で美穂の神経を逆撫でする男だ。
意地で食べきった美穂は頭がカッカとしていて、次の料理が運ばれてきても、どうやって食べたらいいのかまで考えが回らなかった。
(食べきりたくても、これ以上は無理。どうやって、食べろと言うの?! フードファイターは数分で消化できるから、次々食べられるの?!)
談話室の扉が開いた。美穂の心配をよそに、次の料理が運ばれてきたのだろう。
次に運ばれてきた料理は、用心棒が二人がかりで持っている。
美穂はその料理に目が釘付けになった。用心棒が持っているのは最早、食器ではなく広げて横に二つ折りにしたシーツだ。そのシーツの上に長い耳が可愛い兎獣人の娼婦が半裸で寝そべっていた。
「な、何これ??」
「『カギ尻尾』名物、女体盛りでおます~」
(これが名物って、初耳なんですけど~~~!!)
用心棒の後ろからやって来た嬉々と店主が言うが、こんなものがあることすら美穂は知らなかった。それが名物とはどういうことだろう。
「美穂ちゃん、食べて️」
(食べたくない・・・)
姐さん娼婦も店主同様ノリノリだが、美穂は食べる気はまったく起きない。
よく見れば、姐さんは半裸ではなく全裸だった。服のように見えたのはメレンゲやパイなどの食べ物だったらしい。
姐さん自身が皿というなら、シーツの即席担架に乗せられて持ってこられたのもわかる。
わかるが、無理なのだ。
これを食べろというのは衛生上、問題がありすぎるだろう。
乗せられているものが生物ではないにしろ、手ずからあーんはできても、身体に乗っていたものは食べられない。
(食べられるはずないでしょう!! こんなもの!)
これから次から次へと運び込まれてくる料理を食べていくしかないのだと思うと、銀色の髪の男をギャフンと言わせようと思った美穂も気が重くなった。この料理だけでも、美穂の食事としてはいつもの量より多めだ。これに加えて更に何種類もの料理を食べることになる。
食べ過ぎを覚悟しているとはいえ、実際に食べられる量を目にしただけで、石を飲み込んでしまったかのように胸がつまる。
(大丈夫。食べられる)
フードファイターも一回で数キロ食べられるのだから、自分も食べられるはずだと美穂は自分に言い聞かせる。それにフードファイターなら一日に二回は食べているのだ。普通の人間でも一回くらいは食べられるはずだ、と美穂は思った。
残念ながら、美穂は食べ放題などで盛り付けをこだわるほうで、多くても二皿目を食べた時点で食事を終えるので、自分の限界を知らなかった。
だから、数キロくらいなら食べられると思っていた。
一口目はまだ気が重いせいか、美味しく感じなかった。もそもそと咀嚼して、次の一口を入れようと仕方なく飲み込む。
そういうことを何度か繰り返してサラダのドレッシングのよくかかった部分を口に入れた瞬間、絶妙な酸味と旨味を感じるようになり、食べるのも楽になった。
美味しく感じられるようになると、次から次へと食べるのが楽になった。
(う~ん、美味しい! 極楽極楽!)
空腹がいいスパイスになっている美穂には注文した料理が美味しく感じる。店に来る客の口に合うようにしているからか、なかなか美味しい。通常の食事は大量に作った賄い飯のようなもので、客に出す料理ほど味も手間暇もかかっていない。
順調に三角食べをして、それぞれ残り一口となったところで、食べるスピードがピタッと止まった。
ちょっと多めに頼んだだけなのだが、美味しさよりも胸苦しさが来たのだ。
(これは全部食べられるけど、これ以上は無理)
まだ料理が残っているのに美穂の手が止まったのを見て、銀色の髪の男にも美穂の状態がわかったのだろう。顔に意地の悪笑みを浮かべている。
「もう食べないようですが、どうかしたんですか? 食べられないんですか? あんな大口を叩いていた割に、これだけしか食べられないと? ほら、残っていますよ」
――非常に厭味ったらしかった。
(厭味~!!!)
美穂はカチンと来た。
「食べますよ。食べてやりますよ。美味しさにちょっと感動していただけです」
そう言って、美穂はテーブルの上に残っていた料理を八つ当たり気味に口に入れる。
味などもう、関係ない。飲み込みさえできればそれでいい。
「感動、ですか・・・」
美穂の強がりをわかっているのだろう。銀色の髪の男は喉を鳴らして笑う。
赤毛の男とは違う意味で美穂の神経を逆撫でする男だ。
意地で食べきった美穂は頭がカッカとしていて、次の料理が運ばれてきても、どうやって食べたらいいのかまで考えが回らなかった。
(食べきりたくても、これ以上は無理。どうやって、食べろと言うの?! フードファイターは数分で消化できるから、次々食べられるの?!)
談話室の扉が開いた。美穂の心配をよそに、次の料理が運ばれてきたのだろう。
次に運ばれてきた料理は、用心棒が二人がかりで持っている。
美穂はその料理に目が釘付けになった。用心棒が持っているのは最早、食器ではなく広げて横に二つ折りにしたシーツだ。そのシーツの上に長い耳が可愛い兎獣人の娼婦が半裸で寝そべっていた。
「な、何これ??」
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(これが名物って、初耳なんですけど~~~!!)
用心棒の後ろからやって来た嬉々と店主が言うが、こんなものがあることすら美穂は知らなかった。それが名物とはどういうことだろう。
「美穂ちゃん、食べて️」
(食べたくない・・・)
姐さん娼婦も店主同様ノリノリだが、美穂は食べる気はまったく起きない。
よく見れば、姐さんは半裸ではなく全裸だった。服のように見えたのはメレンゲやパイなどの食べ物だったらしい。
姐さん自身が皿というなら、シーツの即席担架に乗せられて持ってこられたのもわかる。
わかるが、無理なのだ。
これを食べろというのは衛生上、問題がありすぎるだろう。
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