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第六章

第68話 魔族ハルトムート

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 攻撃を仕掛けたのは魔族ハルトムート。

 驚異的なスピードで一気にこちらに近づいてくる。

 しかし、僕はハルトムートが動き出すと同時に、土魔法上位の鉱石魔法でハルトムートと僕の間に鋼鉄の壁を生成する。

 ハルトムートの視界から僕が消えた瞬間、高速後退しながら新たな魔法の準備をする。

 上か? それとも左右どちらからか? 何処から来る?


 しかし、ハルトムートはそのどれも選択せず、鋼鉄の壁を斬り裂いて直進してきた。

 発想が猪突猛進。脳筋ですか?

 
 だが、何処から来ようが狙いは同じ。

 練り上げたのは火魔法上位の核魔法。十を超える高熱の塊をハルトムートに向けて撃ち出す。

 こちらに突撃中だったハルトムートはその攻撃を躱す事が出来ず全弾直撃する。

 その瞬間、ハルトムート中心に巨大な火柱が上がり周辺の木々を焼き払う。


 多少は効いたかな?
 
 巻き上がる巨大な炎でハルトムートの姿は見えないが、炎の中に確かにハルトムートの魔力を感じる。

 今のところ突撃を止め、炎の中に留まっているようだ。だが、動きを止めたとはいえ、感じる魔力は殆ど変わらない。どうやら大して効いてはいないようだ。

 
 なら追い打ちだ。相手が炎から出て来るのを態々待つ必要は無いからね。

 僕は頭上に、雷魔法で巨大な雷の槍を創り出す。その大きさはまるで破城槌のように見える。

 これをまともに喰らえば無事とはいえないはずだ。

 準備万端。雷の槍をハルトムートに撃ち出した。


 その突如、真後ろで感じる異様な魔力。

 咄嗟に振り向き神盾イジスで身を守る。続いてくる凄まじい衝撃。

「クッ! いつ間に!!」

 僕の目の前にハルトムートが。

 魔族の転移能力か!?


 続けざまに襲ってくる巨大な剣。

 パワーでは完全に押されている。

 あの巨大な剣を棒切れでも振るように扱うパワーも信じられないが、連続で振るわれる剣の一撃、一撃がまた途轍もない威力を持っている。


「なんだその盾。えらく丈夫じゃねぇか」

 同感です。もしイジスさんがいなかったら、初撃で盾が破壊され、最初の不意打ちで詰んでいたかも。


「そう言うあなたの剣も丈夫ですね。僕の盾をあなたの馬鹿力で何度も殴っているのに、刃こぼれ一つしないなんて」

「あたりめぇだ。魔界でも最上級の魔剣だ。どんなに乱暴に扱おうが傷一つ付かねぇよ」

 話しながらも攻撃の手を緩めないハルトムート。

 このままパワーの差を活かし一気に押し切るつもりなんだろう。

 転移で奇襲とか使ってきてはいるが、基本脳筋タイプなのは間違いない。暑苦しい限りだが、嫌いじゃない。搦め手を多用するタイプよりも好感が持てるかな。

 ならば、僕も本気を出そう。それが僕の礼儀だ。


『セバスさん、固有能力を使います。良いですよね』

『相手が相手で御座います。問題ないかと。ただし、1つだけです』

 1つか……、まあ妥当かな。では――

「闘鬼魔装!」

 発動したのは【闘鬼魔装】アキーレさんバージョンのみだ。

 自分の中で、力が湧き上がってくるのを感じる。ハルトムートの攻撃から受ける衝撃が弱くなっているような感覚。

 ――このまま押し返す!!

 
 ハルトムートが大剣を振り下ろすタイミングでレヴィをぶつける。

 剣と剣が激しくぶつかり合い。その衝撃波が突風となって周辺一帯を襲う。

 
 押し勝ったのは僕。今の一撃で体勢を崩すハルトムート。

 形勢は逆転。そこから一気に攻めたてる。


 片手剣でハルトムートの大剣と打ち合う。いや、押しまくる。

 観戦者が居たら、なんとも奇妙な光景に映ったかもしれない。なんであんな小さな剣であの大剣にパワーで打ち勝てるのかと……

 
「貴様。一体何者だ!?」

 ハルトムートが僕の攻撃を凌ぎながら、こちらを睨み問う。

「いきなり攻撃を仕掛けてくる相手に、答える義理は無いですよ」

「チッ! 正論だな」

 簡単に納得してくれたみたいだ。やっぱりこの魔族、分かり易いタイプだ。

 嫌いじゃない。だが、嫌いじゃないが魔族だ。逃す訳には行かない。


 このまま一気にケリをつける。

 魔力を高め、更に攻勢に出る。

 ハルトムートもその僕の攻撃に何とか対応をしているが、後手後手にまわり反撃に移れない。

 
 その時眼前に居たハルトムートが突然消えた。

 ――また転移か!?

 魔族にはこれがあったか。なんて厄介な――


 突如頭上に現れた殺気と魔力の塊。

 神盾イジスを頭上に掲げその攻撃を受け止める。

 魔法では無い。純粋な魔力を凝縮して放った攻撃だ。あの脳筋がやりそうな攻撃だ。


「今のも簡単に防ぐのか……、厄介なやつだな」

 その言葉そっくりそのままお返ししたい。転移を使えば不意打ちはやりたい放題。ピンチになれば逃げ放題。まさに厄介な相手だ。
 
「あんな相手にどうやってトドメ刺せばいいんだろ……」

 思わず愚痴もでる。

『空間の歪みを感じるのです』

 おお、セバスさんからまさかの助言!!

『空間の歪みってなんですか?』

『転移も万能ではありません。転移をし、新たに顕現する際にその周辺に必ず空間の歪みが発生します。それを感知し、先に攻撃を仕掛けるのです』

 そんな事可能なのかな?

『セバスさんは、感知出来ますか?』

『可能で御座います』

 分かるんだ。流石です。しかし、分かるなら教えて欲しいものですが、おそらく教えてくれないだろう。

 何故か!? それがいつもの事だから。要はヒントはやるから自分で何とかしなさいという事だ。

 いつもながらスパルタです。


 しかし、空間の歪みねぇ。どうしたものか……

 取り敢えず、周辺に僕の魔力で満たしてみるか。


「ほぉ、人間にしてはかなりの魔力を秘めているようだな。しかも完全に制御している。ホントに見た目通りの歳か? 100年以上生きていても不思議では無さそうだな」

 どうやらハルトムートは僕が放出した魔力を感じ取り、僕のホントの力に気が付き始めたみたいだ。しかし、100歳とは失礼な。ちゃんと見た目通りの歳、17歳だよ。


 ハルトムートを視界の捉え、攻撃の機会を伺う。

 ハルトムートは僕を見て一つニヤリと笑うと、手に魔力を集めるこちらに撃ち出してきた。

 流石は最上位魔族が撃ち出す魔力弾。簡単に撃っているようだが相当な威力だ。

 だが、僕がレヴィを一振りすると魔力弾は霧散してしまう。

 そして、魔力弾が霧散した先にはハルトムートの姿が無い。

 転移したな……、さて、何処から現れる……


 僕が拡げた魔力に意識し、空間の歪みを探る。

 やがて感じる空間の歪み。しかし、方角は分かるが場所が限定出来ない。

 取り敢えず、何となくで核魔法を使い広範囲攻撃を仕掛ける。


「うぎゃーー!!」

 核魔法の爆発範囲に顕現したらしく、ハルトムートと思われる男の呻き声が聞こえてきた。

 うん、いきなり成功したよ。だけど、この程度の攻撃では倒せそうにない。もっとしっかりと顕現する場所を絞って攻撃しないと。

「うがー!!」

 ハルトムートの気合の声と共に爆炎は一瞬で消え失せる。

「てめぇ!! やってくれ――」

 なにか言ってきていたが、今回はスルー。攻撃仕掛けさせてもらいます。


 一合二合と打ち合い、パワーの差で少しずつハルトムートを追い込んでいく。

 ――捉えた!!

 しかし、そう思った瞬間再び転移して消えてしまうハルトムート。意外に逃げ足が速い。猪突猛進タイプかと思っていたがそうでは無いみたいだ。

 好感を持っていたのに、こうなると意外に腹が立つ。

 仕方がない。もう一度、何処に現れるか探るしかない。


 次に歪みを感じたのは自分の真後ろ。それと同時に感じる殺気。

 僕は振り返る間も惜しみ後方に向けレヴィを一閃。

 手に伝わる肉を斬った感触。

 そして、僕の眼に映ったのは右腕を付け根から失ったハルトムートの姿。

 その表情から読み取れるのは驚愕。


 ――チャンス!!

 呆然自失となったのか、完全に動きを止めたハルトムートにトドメの一撃。

 ――ゾワッ――

 だが、その瞬間、全身に悪寒が走る。


 僕はトドメを諦め瞬時にその場から離れる。そして次の瞬間先ほどまで僕が居た場所に黒い雷撃が襲う。

 途轍もない魔力の塊。


 ――一体何者!?

 その黒い雷が襲ってきた方に目を向けた瞬間、僕は全身から血の気が引くのを感じた。

 空に浮かぶ一人の男。

 その男は小柄で痩せ形の男だ。黒い髪そして血のように赤い目。

 僕はその男を知っている。いや、忘れる事がなど出来ない。

 だが奴は死んだはず……なのに何故!?





「……ジルベルト」


 そこにはかつて、言葉通り死ぬ思いをして倒したはずの最上位魔族ジルベルトが立っていた。
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