僕の装備は最強だけど自由過ぎる

丸瀬 浩玄

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第六章

第72話 邪神からの脱出

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 さてと、これからどうしたものか……

まあ、逃げる方法は一つしか思い浮かばないんだけどね。

 しかし、その方法の使うタイミングが問題だよね。もし、早すぎたら逃げきる前に捕まってやられちゃうだろうし、遅かったら、逃げる事もままならないだろうし……


「黒の勇者のお兄さん、何を考えているのか大体分かるけど、ボクは逃がすつもりは無いよ」

 そう言って、邪神は失った左腕を見る。

「このお礼はきっちり返さないとね。前にも言ったけど、それがボクの主義だからね」

 邪神は笑顔になりそう言うが、目は明らかに笑っていない。それだけで、おしっこチビリそうなくらい怖いです。

 
「ん~、どうやって君にお礼をしようかな? そうだその前に、このままなのも不便だからちょっと待っていてね」

 まるでブーツの紐がほどけたから、ちょっと待っていてねとでも言うくらい軽い感じで話す邪神。たが、その後起こる現象は正直、そんな軽いものではなかった。

 ――腕が生え始めている!?

 そう、僕が最大火力で、なんとか消滅させた左腕が、みるみるうちに生えて来ている。再生バカのトロールも真っ青の再生能力です。

「それはちょっと反則じゃないですか?」

「そんな事無いよ。これでも、一応魔力を大量に消費するんだからね。第一、あのままだとボクもそれなりに痛いんだよ」

 僕のつぶやきに律儀に答える邪神。

「じゃあ、そろそろ始めようか」

 ――ヤバイ!! のんびりと観察している場合じゃなかった。って、もしかしなくても逃げるチャンスを逃したよね。腕を再生していた時がそのチャンスだったんじゃないですか!?

 やっちまった感がバリバリです。

 それにいつも的確なアドバイスをくれるセバスさんや、僕が動揺している時にハッパを掛けてくれるレヴィが何も言って来ないという事は、セバスさん達も俺と同じように混乱しているって事かもしれない……

 これは、今までにないほどピンチかも……


 動揺する僕に、一歩ずつゆっくりと近づいて来る邪神。

 傍から見ると子供が楽しそうに近づいて来くる、ほのぼのとした光景にしか見えないが、僕からしたら、死へのカウントダウンとしか思えない。


『一か八か、みんなの力を解放して逃げる事にします。みんな協力を「お願いします』

『畏まりました』

『了解』

『御意』

『いいわよ』

『了解なの』

『了解です』

 みんなから了承の返事が返って来る。しかし一様にその声色は硬い。


 さあ、一か八かの大勝負といきますか。逃げるだけですが……


 
 レヴィ達が一斉に力を解放すると、それぞれが金や青白い光を放ち始める。

 それと同時に身体の内から力が溢れ出す。以前にも感じた万能感。いや、以前使用した時よりも、僕自身のレベルが上がっている為か、更に圧倒的な力を感じる。

 その力に心が高ぶり、血沸き肉躍る。これなら邪神も倒せるのではないかと思えて来る。

 だが、この力は時間限定だ。実際、戦闘可能な時間は7,8分といったところだろう。この時間で、何とか邪神から逃げきらないといけない。


「へ~、まだ上があったんだ。想像以上だよ、黒の勇者のお兄さん」

 最強モードの僕を見ても、全く表情が変わらない。いや、それどころか、楽しそうにこちらを見ている。

 
 悔しいかな完全に舐められている。だが、今はそれでいい。舐められればそれだけ逃げられるチャンスが増えるのだから。


 ぼくは、邪神の言葉に何も返さず、代わりに全力の剣撃で答える。

 超高速で振り下ろされた魔剣レヴィは寸分たがわず邪神の額に吸い込まれていく。

 ――捉えた!!

 そう思った瞬間、魔剣レヴィその動きを止める。

 ――チッ! 

 僕の攻撃を防いだのは、邪神の右手に現れあた一本の漆黒の剣。


「今の一撃は中々怖かったよ。流石に素手で止めると、また怪我をしそうだったから、今回は剣を使わせてもらったよ」

 僕と鍔迫り合いを演じながらも、声色一つ変えずに話し掛けて来る。


 しかしこの状況、僕としては好都合だ。



「ホーリーグラビティープリズン!!」

 力の解放で高まった魔力を一気に放出し、対魔族用に鍛えてきた魔法を発動する。


 光魔法上位の聖光魔法と、土魔法と闇魔法の混合魔法である重力魔法。その二つを使った、強力な対魔族用拘束魔法。それがホーリーグラビティープリズンだ。それも力の解放状態での使用だ。例え邪神でも、これを突破するのは容易では無いはず。

 僕は、魔法の完成を確認すると、自分に隠密系の結界を張った上、風魔法の高速飛翔魔法を使い、この場から一気に離脱した。



「――やった! やったよ!! 大成功だ!! 思った以上に上手くった」

 これで多少時間が稼げる。このチャンスに一気に逃げるぞ。

「セバスさん、邪神の今の位置情報を教えて下さい」

 高速移動を続けながらセバスさんに邪神の現状を確認する。とてもじゃないけどまだ安心できる状況ではないしね。

『了解致しました。今のところ邪神の位置は変わっておりません。拘束に完全に成功したようです』

 よかった。出来過ぎ共とも思えるが、上手く行く時はこんなもなんだろう。

 しかし、それにしても邪神は強すぎだよ。あんなのどうやって倒せばいいか全く検討が付かないよ。というか、エルザさんはあんなのどうやって倒したって言うんだよ。

 
「セバスさん、邪神は?」

『まだ、動きは無いようです』

 セバスさんの言葉に、安堵の息を吐く。今回はどうやら無事逃げきれたようだ。

 力を解放してから既に5分ほど経つ、後3分もしないうちに僕の意識は途絶えるだろうが、何とかなるだろう。

 そろそろベガでも召喚しておいた方が――



 それは突然だった。

 上空から突如巨大な魔力の塊が落ちて来て僕を捉える。
  
 咄嗟に神盾イジスで防ごうとしたが、間に合わず直撃。そのまま地面まで真っ逆さまに落ちて行った。


「――ウッ!!」

 激しい衝撃と、痛みが全身を襲い、声すら出ない。

「そう簡単には逃がさないよ」

 それは、恐怖の声だった。逃げきれたと思っていた相手が目の前に居る。

 這いつくばり動くことが出来ない僕を、邪神は上空から見下ろしていた。

 なんで……


「ボクには転移能力があるからね。幾ら早く逃げても逃げられないよ」

 それは、僕にとって死刑宣告のようなモノだ。

 
 もう時間が無い。後1分もすれは僕の意識は途絶える。それで終わりだ。

「な~んだ、もう諦めちゃった? もう少し楽しめるかと思ったんだけど。じゃあ、これで最後だね」

 邪神は、僕の心が折れたのを察したのか、止めを刺すべく僕に向け手を翳す。

『クラウド様、諦めてはなりません。まだ一つ方法が御座います』

 そこにセバスさんの声が頭の中に響く。

 その言葉に僅かに希望を抱き咄嗟にイジスさんの能力を発動する。

「パーフェクトシールド!!」

 邪神から撃ち出された魔力の一撃が直撃する直前、光の球体が僕を包み込み邪神の攻撃を防ぐ。

『クラウド様、これをお使い下さい』

 イジスさんの防御結界の中で安心している間もなく、虹色に光る拳大の水晶のようなモノが目の前に出現する。

『セバスさん、これは?』

『転移結晶で御座います』

『転移結晶?』 

 そんな便利なものがあったのならもっと早く出して欲しかったよ。

『はい、ただしこの転移結晶、確かに転移出来るのですが、転移先はランダムで何処に出るか一切分かりません。場合に寄っては転移先で即死する可能性もございます』

 うわ、完全に運頼みですか……、どうしよう……

『クラウド様、時間がありません。後、7秒で解放状態が解除になります』

 クソッ!! 悩む時間も無いか。どうせここに居ても死ぬだけだ。ここはこれに賭けるしかない。

 僕は、手に持つ転移結晶に魔力を込める。
 
 次の瞬間、転移結晶から溢れる光に体が包まれ、それと同時に僕は意識を手放した。
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