稜蘭高校 ドタバタ日記

藤野 朔夜

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騒動の始まり 入学式

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「シュールだ」
  ぼんやりと英語教師ラミュエールは呟いた。
「傍観に徹しないでくださいね。だいたい、あなたの存在がシュールです」
  やんわり言いつつ黒髪日本語教師は、何の断りも入れずにラミュエールを、恐慌状態の新入生たちのバタバタに放り込んだ。
「君はねっ!」
  と反論をしようとしつつラミュエールは、そうだよね彼はそういう人間だよ、とあきらめの境地で、何が何だかわからなくなっている世界へと目を向けた。
「君も傍観者にはならないようにね!」
  と言葉を言い換えて。
「はいはい。わかってますよ」
  思いの外近くから声が返って来たことに、ラミュエールは驚いて隣を見る。いつの間にか、黒髪教師はそこに立っていた。
「ったく、びっくりするじゃないか」
  文句を言いはするのだが。
「傍観に徹するなと言ったのは、私ですからね」
  黒髪教師は気にも止めず、最初の引き金となった生徒の元へと歩んでいる。
  移動中に飛んでくる椅子を器用に避け、または腕で薙ぎ払いながら。
  さすが教師陣の中で、最上位とも言えるほどの力を持った霊能力者である。
「かわいくないなぁ」
「あなたに可愛いとか、言われたくはないですね」
  嫌味の応酬は、こんな時でも発生する。


「まったく、冗談じゃない」
  壇上を背にして、すぐに動ける体勢を取りながら、恭は呟く。
「ホンマ、冗談やったらええのになぁ」
  笑いつつ、恭と同じような姿勢を取っている、金髪の新入生が言う。
「冗談じゃないから、先生とか先輩たちとか、慌ててるんだろ?」
  金髪の向こうにいる圭吾が、しごくまっとうなことを言う。
「ま、そらそうや。ところで、疲れへん?結界張るけど、入る?」
  もうあかん、と良いながら、金髪は座り込む。
「入れる結界で、しっかりしたものなら」
「入れてくれるなら」
  恭は厳しいことを言いながら座り込み、圭吾も同じように座り込んだ。
  座り込むというより、へたり込むと言った方が、三人の状態はあっているかもしれない。
「引き金、自分らの後ろにおった奴やろ?よく無事やったな」
  結界を張った後、金髪は普通に話しかけてきた。
  どうやら、冷静な生徒が固まった為に、ここはより安全地帯となったらしい。
「あぁ。まぁ、なんつーか、虫の知らせ?第六感?これって俺にも有るのかわかんねーけど。後は俺の運動神経!」
  圭吾は普段どおりだ。恐慌状態に陥っていても、引きずられない精神力の持ち主なのだから。
「俺は今回圭吾に助けられたな」
  恭は未だに硬い表情だ。
  自分を押さえなければと思っていた矢先だった為、恭は反応出来なかったのだ。それだけのことだが、恭のプライドが自分自身を許せないでいる。
「自分霊能力者やん?この結界強いのはわかるやろ?そんな硬ならんでもええやん」
  軽口のままの金髪は、恭に言った後、圭吾へと向きを変えた。
「自分入試満点やったって、ホンマ?つか、俺も圭吾って呼んでええ?俺は小野田良二おのだりょうじ。良二でええで」
  小野田良二と名乗った金髪は、再度恭に向き直って、名前は?と聞いている。
  恭のプライドの問題など、知ったことではない、という良二の問いかけ。
  さっきまでの緊張感はかけらもない。忙しい奴である。
「泉恭史郎。恭で良い。たしかに、強い結界だな」
  恭は良二につられてか、少し肩の力が抜けた。
「そやろ?結界だけは自信あんねん」
  恭に褒められて、胸を張る良二を見て、圭吾は笑う。
  圭吾にも、緊張感なんてかけらもない。
「コレ、どうするんだろうな」
  圭吾の呟き。三人は講堂の中を見渡す。
  収拾を付けようとして、さらに悪化しているように見えるのは、気のせいだろうか?
  今や、在校生の椅子や、教師陣の椅子も中を舞っている。
  マイクは役に立たず、あきらめたような先生や在校生もちらほらと目に止まる。
  何人かの教師が、事態を収めようとしているようにも見えるが、一向に埒があかないようだった。


「きみ、大丈夫だから、ゆっくり息をしてごらん?」
  起爆剤になった生徒の元に辿り着いた黒髪教師は、静かに彼に語りかけた。
「いっそのこと、感化されてる生徒の生気吸うとかしちゃった方が、収拾付きそうだよねぇ」
  物騒なことを言い出しているのは、一緒について来たラミュエールだ。
「それはそれで収拾付かなくなりそうなので、最後の手段にして下さい」
  やんわりと、黒髪教師の待ったがかかる。
  この二人にも、緊張感など無い。
  ラミュエールはヴァンパイアだ。言っている物騒なことは、きっと出来てしまうことなのだろう。否、出来ないことを言うような奴ではないから、簡単に出来ることを言っているのだろう。黒髪教師は、ラミュエールをそう分析している。
「けどさ、一番手っ取り早いでしょ。後から保健室なり、どこかの空き教室なりで、治療してあげたら問題ないよね」
  騒動が面倒なのだろう。早く終わらせられる対策があるのだから、それを使おうと言っているだけのようだ。
「たしかにそうですが。誰が治療するのです?」
  黒髪教師も、わかっている。
  それでも簡単に承諾できないのは、ヴァンパイアが闇の力であるからだ。そして、治療にかかる時間と力。
「君と俺。一応生気は本人に半分は返せるよ。じゃなきゃこんなこと、言い出さないからね。たしかに俺の力は闇に属するけどさ。このまんまじゃ、どうしようもないんじゃないの?一人づつ、そうやって鎮めるの?すっごい時間かかるよね?」
  ラミュエールは、少々苛立っているようだ。
  冷静に見えて、負のオーラはラミュエールに近いのだ。
  感化されることこそないが、少し尖ってしまうことは、仕方ないのだろう。
「感化されている生徒だけ、ということが可能ですか?その後の彼らの後遺症は?」
  黒髪教師は、冷静だった。
  冷静に講堂を見渡し、ラミュエールに問う。
「近くに行けば良いだけだよ。後遺症なんていうのは、残らない。血をもらうわけでもないし。そうでなければ、君にこんな提案しないよ」
  事も無げに言うラミュエール。さっさと事態を収めたいという感情しかないようだ。
  黒髪教師は苦笑した。面倒なことを好まないのは、彼だって同じだから。
「では、そうしましょうか」
  一人厄介な子がいますけどね。とは心の中だけに止めた。
  黒髪教師とラミュエールは、感化されている生徒から生徒へと渡り歩いて行く。


  唐突に、講堂内が静かになって行った。
  起爆剤になった生徒。それに感化された生徒たちが、次々と倒れて行ったからだ。
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