15 / 40
騒動の始まり 入学式
②
しおりを挟む
「シュールだ」
ぼんやりと英語教師ラミュエールは呟いた。
「傍観に徹しないでくださいね。だいたい、あなたの存在がシュールです」
やんわり言いつつ黒髪日本語教師は、何の断りも入れずにラミュエールを、恐慌状態の新入生たちのバタバタに放り込んだ。
「君はねっ!」
と反論をしようとしつつラミュエールは、そうだよね彼はそういう人間だよ、とあきらめの境地で、何が何だかわからなくなっている世界へと目を向けた。
「君も傍観者にはならないようにね!」
と言葉を言い換えて。
「はいはい。わかってますよ」
思いの外近くから声が返って来たことに、ラミュエールは驚いて隣を見る。いつの間にか、黒髪教師はそこに立っていた。
「ったく、びっくりするじゃないか」
文句を言いはするのだが。
「傍観に徹するなと言ったのは、私ですからね」
黒髪教師は気にも止めず、最初の引き金となった生徒の元へと歩んでいる。
移動中に飛んでくる椅子を器用に避け、または腕で薙ぎ払いながら。
さすが教師陣の中で、最上位とも言えるほどの力を持った霊能力者である。
「かわいくないなぁ」
「あなたに可愛いとか、言われたくはないですね」
嫌味の応酬は、こんな時でも発生する。
「まったく、冗談じゃない」
壇上を背にして、すぐに動ける体勢を取りながら、恭は呟く。
「ホンマ、冗談やったらええのになぁ」
笑いつつ、恭と同じような姿勢を取っている、金髪の新入生が言う。
「冗談じゃないから、先生とか先輩たちとか、慌ててるんだろ?」
金髪の向こうにいる圭吾が、しごくまっとうなことを言う。
「ま、そらそうや。ところで、疲れへん?結界張るけど、入る?」
もうあかん、と良いながら、金髪は座り込む。
「入れる結界で、しっかりしたものなら」
「入れてくれるなら」
恭は厳しいことを言いながら座り込み、圭吾も同じように座り込んだ。
座り込むというより、へたり込むと言った方が、三人の状態はあっているかもしれない。
「引き金、自分らの後ろにおった奴やろ?よく無事やったな」
結界を張った後、金髪は普通に話しかけてきた。
どうやら、冷静な生徒が固まった為に、ここはより安全地帯となったらしい。
「あぁ。まぁ、なんつーか、虫の知らせ?第六感?これって俺にも有るのかわかんねーけど。後は俺の運動神経!」
圭吾は普段どおりだ。恐慌状態に陥っていても、引きずられない精神力の持ち主なのだから。
「俺は今回圭吾に助けられたな」
恭は未だに硬い表情だ。
自分を押さえなければと思っていた矢先だった為、恭は反応出来なかったのだ。それだけのことだが、恭のプライドが自分自身を許せないでいる。
「自分霊能力者やん?この結界強いのはわかるやろ?そんな硬ならんでもええやん」
軽口のままの金髪は、恭に言った後、圭吾へと向きを変えた。
「自分入試満点やったって、ホンマ?つか、俺も圭吾って呼んでええ?俺は小野田良二。良二でええで」
小野田良二と名乗った金髪は、再度恭に向き直って、名前は?と聞いている。
恭のプライドの問題など、知ったことではない、という良二の問いかけ。
さっきまでの緊張感はかけらもない。忙しい奴である。
「泉恭史郎。恭で良い。たしかに、強い結界だな」
恭は良二につられてか、少し肩の力が抜けた。
「そやろ?結界だけは自信あんねん」
恭に褒められて、胸を張る良二を見て、圭吾は笑う。
圭吾にも、緊張感なんてかけらもない。
「コレ、どうするんだろうな」
圭吾の呟き。三人は講堂の中を見渡す。
収拾を付けようとして、さらに悪化しているように見えるのは、気のせいだろうか?
今や、在校生の椅子や、教師陣の椅子も中を舞っている。
マイクは役に立たず、あきらめたような先生や在校生もちらほらと目に止まる。
何人かの教師が、事態を収めようとしているようにも見えるが、一向に埒があかないようだった。
「きみ、大丈夫だから、ゆっくり息をしてごらん?」
起爆剤になった生徒の元に辿り着いた黒髪教師は、静かに彼に語りかけた。
「いっそのこと、感化されてる生徒の生気吸うとかしちゃった方が、収拾付きそうだよねぇ」
物騒なことを言い出しているのは、一緒について来たラミュエールだ。
「それはそれで収拾付かなくなりそうなので、最後の手段にして下さい」
やんわりと、黒髪教師の待ったがかかる。
この二人にも、緊張感など無い。
ラミュエールはヴァンパイアだ。言っている物騒なことは、きっと出来てしまうことなのだろう。否、出来ないことを言うような奴ではないから、簡単に出来ることを言っているのだろう。黒髪教師は、ラミュエールをそう分析している。
「けどさ、一番手っ取り早いでしょ。後から保健室なり、どこかの空き教室なりで、治療してあげたら問題ないよね」
騒動が面倒なのだろう。早く終わらせられる対策があるのだから、それを使おうと言っているだけのようだ。
「たしかにそうですが。誰が治療するのです?」
黒髪教師も、わかっている。
それでも簡単に承諾できないのは、ヴァンパイアが闇の力であるからだ。そして、治療にかかる時間と力。
「君と俺。一応生気は本人に半分は返せるよ。じゃなきゃこんなこと、言い出さないからね。たしかに俺の力は闇に属するけどさ。このまんまじゃ、どうしようもないんじゃないの?一人づつ、そうやって鎮めるの?すっごい時間かかるよね?」
ラミュエールは、少々苛立っているようだ。
冷静に見えて、負のオーラはラミュエールに近いのだ。
感化されることこそないが、少し尖ってしまうことは、仕方ないのだろう。
「感化されている生徒だけ、ということが可能ですか?その後の彼らの後遺症は?」
黒髪教師は、冷静だった。
冷静に講堂を見渡し、ラミュエールに問う。
「近くに行けば良いだけだよ。後遺症なんていうのは、残らない。血をもらうわけでもないし。そうでなければ、君にこんな提案しないよ」
事も無げに言うラミュエール。さっさと事態を収めたいという感情しかないようだ。
黒髪教師は苦笑した。面倒なことを好まないのは、彼だって同じだから。
「では、そうしましょうか」
一人厄介な子がいますけどね。とは心の中だけに止めた。
黒髪教師とラミュエールは、感化されている生徒から生徒へと渡り歩いて行く。
唐突に、講堂内が静かになって行った。
起爆剤になった生徒。それに感化された生徒たちが、次々と倒れて行ったからだ。
ぼんやりと英語教師ラミュエールは呟いた。
「傍観に徹しないでくださいね。だいたい、あなたの存在がシュールです」
やんわり言いつつ黒髪日本語教師は、何の断りも入れずにラミュエールを、恐慌状態の新入生たちのバタバタに放り込んだ。
「君はねっ!」
と反論をしようとしつつラミュエールは、そうだよね彼はそういう人間だよ、とあきらめの境地で、何が何だかわからなくなっている世界へと目を向けた。
「君も傍観者にはならないようにね!」
と言葉を言い換えて。
「はいはい。わかってますよ」
思いの外近くから声が返って来たことに、ラミュエールは驚いて隣を見る。いつの間にか、黒髪教師はそこに立っていた。
「ったく、びっくりするじゃないか」
文句を言いはするのだが。
「傍観に徹するなと言ったのは、私ですからね」
黒髪教師は気にも止めず、最初の引き金となった生徒の元へと歩んでいる。
移動中に飛んでくる椅子を器用に避け、または腕で薙ぎ払いながら。
さすが教師陣の中で、最上位とも言えるほどの力を持った霊能力者である。
「かわいくないなぁ」
「あなたに可愛いとか、言われたくはないですね」
嫌味の応酬は、こんな時でも発生する。
「まったく、冗談じゃない」
壇上を背にして、すぐに動ける体勢を取りながら、恭は呟く。
「ホンマ、冗談やったらええのになぁ」
笑いつつ、恭と同じような姿勢を取っている、金髪の新入生が言う。
「冗談じゃないから、先生とか先輩たちとか、慌ててるんだろ?」
金髪の向こうにいる圭吾が、しごくまっとうなことを言う。
「ま、そらそうや。ところで、疲れへん?結界張るけど、入る?」
もうあかん、と良いながら、金髪は座り込む。
「入れる結界で、しっかりしたものなら」
「入れてくれるなら」
恭は厳しいことを言いながら座り込み、圭吾も同じように座り込んだ。
座り込むというより、へたり込むと言った方が、三人の状態はあっているかもしれない。
「引き金、自分らの後ろにおった奴やろ?よく無事やったな」
結界を張った後、金髪は普通に話しかけてきた。
どうやら、冷静な生徒が固まった為に、ここはより安全地帯となったらしい。
「あぁ。まぁ、なんつーか、虫の知らせ?第六感?これって俺にも有るのかわかんねーけど。後は俺の運動神経!」
圭吾は普段どおりだ。恐慌状態に陥っていても、引きずられない精神力の持ち主なのだから。
「俺は今回圭吾に助けられたな」
恭は未だに硬い表情だ。
自分を押さえなければと思っていた矢先だった為、恭は反応出来なかったのだ。それだけのことだが、恭のプライドが自分自身を許せないでいる。
「自分霊能力者やん?この結界強いのはわかるやろ?そんな硬ならんでもええやん」
軽口のままの金髪は、恭に言った後、圭吾へと向きを変えた。
「自分入試満点やったって、ホンマ?つか、俺も圭吾って呼んでええ?俺は小野田良二。良二でええで」
小野田良二と名乗った金髪は、再度恭に向き直って、名前は?と聞いている。
恭のプライドの問題など、知ったことではない、という良二の問いかけ。
さっきまでの緊張感はかけらもない。忙しい奴である。
「泉恭史郎。恭で良い。たしかに、強い結界だな」
恭は良二につられてか、少し肩の力が抜けた。
「そやろ?結界だけは自信あんねん」
恭に褒められて、胸を張る良二を見て、圭吾は笑う。
圭吾にも、緊張感なんてかけらもない。
「コレ、どうするんだろうな」
圭吾の呟き。三人は講堂の中を見渡す。
収拾を付けようとして、さらに悪化しているように見えるのは、気のせいだろうか?
今や、在校生の椅子や、教師陣の椅子も中を舞っている。
マイクは役に立たず、あきらめたような先生や在校生もちらほらと目に止まる。
何人かの教師が、事態を収めようとしているようにも見えるが、一向に埒があかないようだった。
「きみ、大丈夫だから、ゆっくり息をしてごらん?」
起爆剤になった生徒の元に辿り着いた黒髪教師は、静かに彼に語りかけた。
「いっそのこと、感化されてる生徒の生気吸うとかしちゃった方が、収拾付きそうだよねぇ」
物騒なことを言い出しているのは、一緒について来たラミュエールだ。
「それはそれで収拾付かなくなりそうなので、最後の手段にして下さい」
やんわりと、黒髪教師の待ったがかかる。
この二人にも、緊張感など無い。
ラミュエールはヴァンパイアだ。言っている物騒なことは、きっと出来てしまうことなのだろう。否、出来ないことを言うような奴ではないから、簡単に出来ることを言っているのだろう。黒髪教師は、ラミュエールをそう分析している。
「けどさ、一番手っ取り早いでしょ。後から保健室なり、どこかの空き教室なりで、治療してあげたら問題ないよね」
騒動が面倒なのだろう。早く終わらせられる対策があるのだから、それを使おうと言っているだけのようだ。
「たしかにそうですが。誰が治療するのです?」
黒髪教師も、わかっている。
それでも簡単に承諾できないのは、ヴァンパイアが闇の力であるからだ。そして、治療にかかる時間と力。
「君と俺。一応生気は本人に半分は返せるよ。じゃなきゃこんなこと、言い出さないからね。たしかに俺の力は闇に属するけどさ。このまんまじゃ、どうしようもないんじゃないの?一人づつ、そうやって鎮めるの?すっごい時間かかるよね?」
ラミュエールは、少々苛立っているようだ。
冷静に見えて、負のオーラはラミュエールに近いのだ。
感化されることこそないが、少し尖ってしまうことは、仕方ないのだろう。
「感化されている生徒だけ、ということが可能ですか?その後の彼らの後遺症は?」
黒髪教師は、冷静だった。
冷静に講堂を見渡し、ラミュエールに問う。
「近くに行けば良いだけだよ。後遺症なんていうのは、残らない。血をもらうわけでもないし。そうでなければ、君にこんな提案しないよ」
事も無げに言うラミュエール。さっさと事態を収めたいという感情しかないようだ。
黒髪教師は苦笑した。面倒なことを好まないのは、彼だって同じだから。
「では、そうしましょうか」
一人厄介な子がいますけどね。とは心の中だけに止めた。
黒髪教師とラミュエールは、感化されている生徒から生徒へと渡り歩いて行く。
唐突に、講堂内が静かになって行った。
起爆剤になった生徒。それに感化された生徒たちが、次々と倒れて行ったからだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
天の求婚
紅林
BL
太平天帝国では5年ほど前から第一天子と第二天子によって帝位継承争いが勃発していた。
主人公、新田大貴子爵は第二天子派として広く活動していた亡き父の跡を継いで一年前に子爵家を継いだ。しかし、フィラデルフィア合衆国との講和条約を取り付けた第一天子の功績が認められ次期帝位継承者は第一天子となり、派閥争いに負けた第二天子派は継承順位を下げられ、それに付き従った者の中には爵位剥奪のうえ、帝都江流波から追放された華族もいた
そして大貴もその例に漏れず、邸宅にて謹慎を申し付けられ現在は華族用の豪華な護送車で大天族の居城へと向かっていた
即位したての政権が安定していない君主と没落寸前の血筋だけは立派な純血華族の複雑な結婚事情を描いた物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる