稜蘭高校 ドタバタ日記

藤野 朔夜

文字の大きさ
14 / 40
騒動の始まり 入学式

しおりを挟む
「……日常を壊す権利は、誰にもないと思います。だからこそ、私たちのような力を持った人間が、力無き人々を、魔や力あ有る人間が脅かす恐怖から、守る義務があると考えます。本校で、その力の使い方を学び、これから先に活かして行けたらと、私たち新入生は考え、この高校への道を選びました。諸先生方や、在校生の皆さん方を見習い、勉学と力を学ぶことに、全力を尽くしたいと思います。新入生代表、藤圭吾」
  広い講堂。圭吾のあいさつが、響いていた。
  未だに相方の決まらない新入生はいるけれど。それでも入学式は静かに、退屈な時間をつぶして行った。
  入寮日から、一週間。やっと本格的に、学園生活の幕開けとなった。
  入寮出来ている人間も、出来ていない人間も。
  新入生は、これからの生活の不安からか、落ち着かない者も、多数いた。


(あまり良い環境では、ありませんわね)
  人の心を読めてしまう、美南玲奈は思う。シャットアウトしていても、これだけ多くの人間が集まれば、かなり心に負担になるのだ。
「レイ、大丈夫?」
  小声でこっそりと玲奈に問うたののは、寮の同室者となり、今は隣にいてくれている、リラ・川口・リュードリヒだ。
  彼女は玲奈の、他人の心を読んでしまう能力を知っている。この人数の中、玲奈の顔色が悪くなるのを見て、声をかけたのだ。
「え、ええ。何とか。最後までやり過ごしますわ。大丈夫。心配しないで」
  ありがとう、と玲奈はリラに呟いて、前を毅然と見据えた。そうしていないと、不安な心で充満している講堂だ。周りに感化されて、力が解放されそうになるのだ。
(解放されたら、どうなるの?)
  自分でも不安な心をかかえている。引きずられそうな感覚に陥り、玲奈は身震いした。
  隣で自分を気遣ってくれているリラに、心配をかけたくないと思う反面、この不安を払拭する為に、騒ぎ出してしまいたいと思う自分がいるのに、玲奈は気付いている。
  けれど、と玲奈は自分を押さえることに、専念した。
  先の新入生代表のあいさつも、今壇上で話しをしている生徒会長の言葉も、玲奈の頭には一切何も残らないけれども。
  それでも、玲奈はそれぞれの言葉よりも、今は自分を押さえることが大切だ、と考えている。


「どうかしたのか?」
  壇上から戻って来た藤圭吾に、隣になった泉恭史郎は尋ねる。何やら心配そうに、後ろを気にしていたからだ。
  講堂での入学式は、特にクラスで席が決まっているわけではなかった。
  だから恭は当然のように、圭吾の隣にいた。圭吾は新入生あいさつの為に、最前列一番左の席なのは、決まっていたので。
「ん、否、顔色悪い子がいたからさ。美人だったから目が行って、気になった」
  圭吾は思ったことを、そのまま恭に伝えた。
「美人って、お前な。よくこの中で冷静でいられるな」
  恭は、人の多さに辟易としていたのだ。
  元々人混みは好きではない恭。だからこそ、入寮日に圭吾を捕まえて、無事に同室になれ、雑魚寝しなくて済んだことを、ホッとしていた。
「否、冷静っつーか、麻痺状態?壇上上がるのに緊張し過ぎたから、もう何でも良いや。みたいな。んで、美人な子見付けたら目が行くだろ?俺も男だ」
  新入生の不安や期待やらで、飽和状態のこの講堂で、多分きっと、一番冷静でいられているのが、圭吾なのではなかろうか。
  恭はため息をついて、頭を振ると、壇上を見据えた。
  恭もまた、自分の力に抑えが利かなくなるのを、恐れているのだ。
  入学式は、退屈だ。
  美人だろうとなかろうと、そんなことは関係ない。
  問題なのは、その圭吾の見付けた彼女や、自分自身が起爆剤にならないだろうか、ということだと恭は思う。
  教師陣や在校生たちの落ち着きが、何とか爆発を抑えているフタになっているな、と恭は感じている。


  ドンッ


  弾けたのは、そんな時だった。
「うわあぁぁぁぁー……」
  混乱したように叫んでいるのは、新入生の一人だった。彼はただ、この飽和状態に耐えきれなくなり、爆発したのだろう。
「っつ!!」
  驚いたのは、恭と圭吾だ。
  彼のすぐ前にいたのだから。
  圭吾は恭を捕まえて、壇上の方へと、つまり前へと大きく跳んだ。
  おかげで椅子が吹き飛ぶことでの怪我はしなかったが、床に大きなへこみを作ってしまったが。まぁ、そんなことを言ってられる状況でもないから、良いだろうと圭吾は自己完結した。
  ただ、他の人たちが気の毒である。
  咄嗟の判断ができなかったのか、凍りついたようにそこで動けなくなっている生徒もいるのだ。
「あぁぁぁぁぁ」
  別の場所でも、騒ぎは起こった。
  始めに爆発した生徒に感化され、抑えられなくなった生徒が続出して行く。
  感化されていく超能力者の数は増える。
  あちこちで、椅子が人を乗せたまま浮かび上がったり、誰も座っていない椅子が、壁に激突したり……。
  そしてそれは、超能力者だけに済まなかった。
  そう、霊能力者たちも、力を爆発させ始めてしまったのだ。
  最初は、すぐに収まるだろうとかまえていた、教師陣や在校生。これは止めに入らなければならない、そういう事態になってしまったのだ。
「静まりなさい」
「落ち着きなさい」
  マイクを通して言われる言葉は、恐慌状態に陥った生徒には、無意味でしかなかった。
  何人かの冷静を保てている新入生は、壇上下に固まっていた。すぐ近くへと椅子が飛んできても、何とかかわしたりできる生徒たちだ。
  そして、自分も感化されてしまわないように、結界を張る生徒もいれば、ただただ椅子を避けるのに必死なだけの生徒もいる。


「レイ、大丈夫だから。気を静めて。深呼吸して」
  リラは、玲奈を必死に繋ぎ止めようと抱き締める。
  何とかリラは、冷静でいられていた。
  でも、玲奈をこうして抱き締めていないと、自分もすぐに感化されそうになっていることを、リラはわかっている。玲奈を落ち着かせる、その意思を強く持たないと、リラだって爆発しそうなのだ。
  さっきから、彼女の精霊は感化されて騒いでしまっている。そちらに気を取られれば、リラも冷静ではいられなくなる。そう思いながら、玲奈に付き添い続けている。
  玲奈の心が返って来るように、と願いながら。
  自分の心がここに在り続けられるように、と願いながら。
  彼女は毅然と、恐慌状態の講堂と向き合っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

先輩、可愛がってください

ゆもたに
BL
棒アイスを頬張ってる先輩を見て、「あー……ち◯ぽぶち込みてぇ」とつい言ってしまった天然な後輩の話

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

処理中です...