5 / 49
春、出会い、そして……
第一章 ③
しおりを挟む
「皆さん、お久しぶりね」
朗らかな声で事務所に入って来たのは、中条亜希羅。
中条家長女にして、自由奔放を地で行く人だ。
「亜希ちゃん、久しぶりすぎるだろ」
聖は亜希羅に言う。聖と亜希羅は同い年なので、他の人よりは長く一緒にいる時間があった為か、遠慮容赦ない。
「聖君、怒んないでよ」
亜希羅は砕けた口調は変わらず、聖へと謝るようなしぐさをする。
今集まれるメンバーが全員事務所にいることを確認すると、亜希羅は静かに言葉を紡いだ。
「村越勇君に会ったのは?」
亜希羅は村越勇を知っていた。
勇の母親を、姉のように慕っていたから。
「俺です。泉林の新一年寮生として、会いました」
少し硬い口調の秋人。
そう、と亜希羅は笑う。もう、勇君もそんな歳なんだな、と。
「あの時も、桜の花びらが舞う季節だった。村越勇君のお母様の名前は村越沙久羅。私の名付け親であり、教育係だった人。沙久羅さんは、自分と同じ名前のこの花たちが、私の門出を祝ってくれているようだ、と言っていた」
「お姉ちゃん、どこに行くの?亜希も行く。ねぇ、お姉ちゃん、泣いてるの?」
幼い頃の自分を思い出す。
あの頃は、本当に小さくて、歳の離れた姉のような存在だった沙久羅の瞳が、涙で濡れているのが自分にはわかってしまった。
「ごめんね、亜希羅ちゃん。お姉ちゃん、一緒にいるって約束したのにね。遠い所へ行って、お姉ちゃんはもうここへは戻って来れなくなるの。だからね、亜希羅ちゃんを連れて行くことはできないのよ」
小さな自分を抱きしめてくれる暖かい腕。その腕の中にいながら、泣き出してしまったその人に、自分は何もしてあげられなかった。言える言葉を見付けることが、できなかった。
「じゃあ、じゃあ、亜希ね、大きくなったらお姉ちゃんに会いに行く!そうしたら、寂しくないよ?」
なんて約束を、あのまま家にいたら、果たせなかっただろう約束。
「ありがとう、亜希羅ちゃん……」
「村越家は、柚木家に次ぐ、第二分家でした。中条を筆頭とした陰陽師集団を作り上げたのは、先祖の方々だけど」
静かにゆっくりと言葉を紡ぐ。
その言葉に、正と秀は村越という名に聞き覚えがあって当然だったか、と思う。
「ただ、村越家は当時、存続の危機にあった。沙久羅さんと歳の合う人が、中条にも、柚木にもいなかったから。だから、沙久羅さんは、外へと行きました。勇君の父親の名前は、田村幸昌さん。正兄さんは、聞き覚えがあるのでは?」
田村幸昌という陰陽師は、全てにおいて謎に包まれている。
姿を見た事がない、というわけではない。確かにそこに存在しているのに、その存在を悟らせない。自分を見せない男だった。
「覚えています」
紡がれた正の言葉。何故、自分は第二分家と呼ばれた村越家を忘れてしまっている?と不思議に思いながら。
「四年前に、兄さんが家督を継がないとして、家を出ました。私達ここにいる中条、柚木の面々も同じ。純君、秋人君、章君は、私たちが見つけた、偶然力を持って産まれてしまった子。だから、私たちが引き取って、力の使い方を教えた」
当時は本当に、頭の固い爺様たちと話し合いを何度もしたけれど、平行線にしかならなかったから、正の強行突破ともいえる家を出る決断。それに皆が付いてきた。家の外へ出たことで、はじめてわかること。力を持って産まれてしまったが為に、行き場をなくしている子どもがいること。少しでも、助けられたらと、純たちを迎え入れた。
「兄さんが家を出る決断をするより前に、同じ決断をして、家を出たのが村越沙久羅さんです。彼女は、こんな時にだから出逢えたのだ、と笑っていました。一生をかけて、愛したい人に出逢えた、と」
静かな亜希羅の声は、事務所にいる全員にいきわたる。
「村越君が、一人で泉林に来た理由は?」
正の声も、静かである。
衝撃的な過去の話し。
「沙久羅さんは、三年前に亡くなりました。天野義久という術者によって。多分、田村さんは姿を見せないだけで、勇君を守って来たのでしょう。泉林に来たのは、私たちと関わりが深い学校だから、田村さんの働きかけがあったのだと思います」
天野という術者については、全員が知っている。
何を企んでいるのかは知らないが、一度田村によって力を封印されるほど、何かをしたらしいことは、全員が知っていることだった。
「村越家について、兄さんたちがそれほど覚えていないのも仕方ないのです。沙久羅さんは、私の教育係だったのだから、私の中には残りました。家を出てから、少しの間だったけれど、再会できました。母たちから言われ続けたのは、沙久羅さんのようになるな、家を出ようなどと考えるな、ということです」
誰かを愛するなと言われているようで辛かったあの時期。
兄に付いて家を出る決心をしたのは、それが強かったのかもしれないな、と亜希羅は思う。
「村越家のデータが消されたのは、沙久羅さんが家を出た直後。村越の名を出すことも、沙久羅さんの名を呼ぶことさえも許されなくなった」
なるほど、と中条や、柚木の面々は思う。
小さな頃の出来事だ。名を出すことがなければ、忘れてしまっていてもしかたないのかもしれない、と。
それにしても、頭の固い爺様たちは、全く何も変わろうとしないのだなと思う。
あのまま、沙久羅さんが家にいたとしても、村越家が途絶えるだけだ。
そして、現代に突然力を持って産まれてしまった子どもたちは、何の救いもないまま過ごすことになってしまっているのに。
今ここに迎え入れられたのは、三人しかいない。もっと多くの子どもたちがいるはずなのに。
朗らかな声で事務所に入って来たのは、中条亜希羅。
中条家長女にして、自由奔放を地で行く人だ。
「亜希ちゃん、久しぶりすぎるだろ」
聖は亜希羅に言う。聖と亜希羅は同い年なので、他の人よりは長く一緒にいる時間があった為か、遠慮容赦ない。
「聖君、怒んないでよ」
亜希羅は砕けた口調は変わらず、聖へと謝るようなしぐさをする。
今集まれるメンバーが全員事務所にいることを確認すると、亜希羅は静かに言葉を紡いだ。
「村越勇君に会ったのは?」
亜希羅は村越勇を知っていた。
勇の母親を、姉のように慕っていたから。
「俺です。泉林の新一年寮生として、会いました」
少し硬い口調の秋人。
そう、と亜希羅は笑う。もう、勇君もそんな歳なんだな、と。
「あの時も、桜の花びらが舞う季節だった。村越勇君のお母様の名前は村越沙久羅。私の名付け親であり、教育係だった人。沙久羅さんは、自分と同じ名前のこの花たちが、私の門出を祝ってくれているようだ、と言っていた」
「お姉ちゃん、どこに行くの?亜希も行く。ねぇ、お姉ちゃん、泣いてるの?」
幼い頃の自分を思い出す。
あの頃は、本当に小さくて、歳の離れた姉のような存在だった沙久羅の瞳が、涙で濡れているのが自分にはわかってしまった。
「ごめんね、亜希羅ちゃん。お姉ちゃん、一緒にいるって約束したのにね。遠い所へ行って、お姉ちゃんはもうここへは戻って来れなくなるの。だからね、亜希羅ちゃんを連れて行くことはできないのよ」
小さな自分を抱きしめてくれる暖かい腕。その腕の中にいながら、泣き出してしまったその人に、自分は何もしてあげられなかった。言える言葉を見付けることが、できなかった。
「じゃあ、じゃあ、亜希ね、大きくなったらお姉ちゃんに会いに行く!そうしたら、寂しくないよ?」
なんて約束を、あのまま家にいたら、果たせなかっただろう約束。
「ありがとう、亜希羅ちゃん……」
「村越家は、柚木家に次ぐ、第二分家でした。中条を筆頭とした陰陽師集団を作り上げたのは、先祖の方々だけど」
静かにゆっくりと言葉を紡ぐ。
その言葉に、正と秀は村越という名に聞き覚えがあって当然だったか、と思う。
「ただ、村越家は当時、存続の危機にあった。沙久羅さんと歳の合う人が、中条にも、柚木にもいなかったから。だから、沙久羅さんは、外へと行きました。勇君の父親の名前は、田村幸昌さん。正兄さんは、聞き覚えがあるのでは?」
田村幸昌という陰陽師は、全てにおいて謎に包まれている。
姿を見た事がない、というわけではない。確かにそこに存在しているのに、その存在を悟らせない。自分を見せない男だった。
「覚えています」
紡がれた正の言葉。何故、自分は第二分家と呼ばれた村越家を忘れてしまっている?と不思議に思いながら。
「四年前に、兄さんが家督を継がないとして、家を出ました。私達ここにいる中条、柚木の面々も同じ。純君、秋人君、章君は、私たちが見つけた、偶然力を持って産まれてしまった子。だから、私たちが引き取って、力の使い方を教えた」
当時は本当に、頭の固い爺様たちと話し合いを何度もしたけれど、平行線にしかならなかったから、正の強行突破ともいえる家を出る決断。それに皆が付いてきた。家の外へ出たことで、はじめてわかること。力を持って産まれてしまったが為に、行き場をなくしている子どもがいること。少しでも、助けられたらと、純たちを迎え入れた。
「兄さんが家を出る決断をするより前に、同じ決断をして、家を出たのが村越沙久羅さんです。彼女は、こんな時にだから出逢えたのだ、と笑っていました。一生をかけて、愛したい人に出逢えた、と」
静かな亜希羅の声は、事務所にいる全員にいきわたる。
「村越君が、一人で泉林に来た理由は?」
正の声も、静かである。
衝撃的な過去の話し。
「沙久羅さんは、三年前に亡くなりました。天野義久という術者によって。多分、田村さんは姿を見せないだけで、勇君を守って来たのでしょう。泉林に来たのは、私たちと関わりが深い学校だから、田村さんの働きかけがあったのだと思います」
天野という術者については、全員が知っている。
何を企んでいるのかは知らないが、一度田村によって力を封印されるほど、何かをしたらしいことは、全員が知っていることだった。
「村越家について、兄さんたちがそれほど覚えていないのも仕方ないのです。沙久羅さんは、私の教育係だったのだから、私の中には残りました。家を出てから、少しの間だったけれど、再会できました。母たちから言われ続けたのは、沙久羅さんのようになるな、家を出ようなどと考えるな、ということです」
誰かを愛するなと言われているようで辛かったあの時期。
兄に付いて家を出る決心をしたのは、それが強かったのかもしれないな、と亜希羅は思う。
「村越家のデータが消されたのは、沙久羅さんが家を出た直後。村越の名を出すことも、沙久羅さんの名を呼ぶことさえも許されなくなった」
なるほど、と中条や、柚木の面々は思う。
小さな頃の出来事だ。名を出すことがなければ、忘れてしまっていてもしかたないのかもしれない、と。
それにしても、頭の固い爺様たちは、全く何も変わろうとしないのだなと思う。
あのまま、沙久羅さんが家にいたとしても、村越家が途絶えるだけだ。
そして、現代に突然力を持って産まれてしまった子どもたちは、何の救いもないまま過ごすことになってしまっているのに。
今ここに迎え入れられたのは、三人しかいない。もっと多くの子どもたちがいるはずなのに。
1
あなたにおすすめの小説
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】俺とあの人の青い春
月城雪華
BL
高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。
けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。
ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。
けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。
それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。
「大丈夫か?」
涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる