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春、出会い、そして……
第二章 ③
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コンコンコン
保健室の簡易ベッドに章を寝かせて、様子を診ていた時だった。保健室の扉がノックされた。
「聖さん、純です」
ノックの後に声がかかる。
「おお、入れ」
章に目印を付けたのは純だ。だから、離れていても純は察知できたのだろう。
「秋人君が、壇上に上がった時に、章君の顔色が悪かったと心配してて。さらに、聖さんが動いたことで、秋人君自分の仕事放り出して、ここへ行きそうだったから」
なんとか宥めてきた。と純は言いながら、章の様子を見にベッドへと近付く。
秋人らしいと聖は笑いながら、純に章が見えるようにベッドから離れる。
「少しだけ、感情の渦にのまれただけみたいだ。心配ない」
そう言って。
ベッドに沈む章は、意識を失っている訳ではなく、薄く目を開いて純を見上げてきた。
「純さん、ごめんなさい」
小さな声は、迷惑をかけてしまったと、申し訳なさがにじみ出ていて。
「大丈夫だよ、章君。秋人君も、一段落したら来てくれるって」
微笑みながら、純は章の頭を撫でる。
その手の優しさに、章は小さく笑った。秋人が来ると聞いたことにも、安心したのかもしれない。
「んー、章は何組だったか?」
保健室の利用者の記入をしようとしていた聖が、ふとペンを止める。
体育館で章を抱き上げた時、近くにいるのが担任だと声はかけたが、その担任の顔をしっかり見ていない。見ていたとしても、自分はわざわざどの教師が何組の担任なのかを覚えてはいないのだが。
「三組ですよ」
純は章と共に確認しているので、聖にそう答えた。
「あー、たしか、新任教師だったな」
見慣れない顔だったような気がする、と思いつつ聖は記入を開する。
基本保健室にいる聖は、他の教師たちと違い、職員室には普段いないので、見慣れる見慣れないもないのだが。
しかし、泉林高校は私立だ。そんなに頻繁に教師は変わらない。聖は泉林の卒業生なので、見知った教師もまだいたりするのだ。聖は、自分の高校時代を知っている教師がいるのは心強い反面、少し緊張もするものだなと、母校へ戻ってそう思った。
「あ」
感知能力の高い章と純の二人が、そろって声を上げた。
二人の目線は窓の外に向けられている。
聖は窓の外を向いても、何もわからなかった。
「どうした?」
二人に声をかける聖。自分では判別できないのなら、感知した二人に聞くのが早い。
「まだ遠い場所ですが、確実にこちらに向かってきてます」
純が固い声を上げる。
章はベッドから起き上がり、集中して窓の外を睨むように見る。
「すごく、嫌な気配」
章が言った時、保健室の扉が開いた。
「秋人か、一応ノックはしろ」
入って来た秋人を咎める聖。
「すみません。気がせいてて」
聖に謝りながら、ベッドに座っている章に近付く。
普段なら、すぐに秋人を見る章の目は、今は純と一緒に窓の外だ。
「章、どうしたんだ?」
秋人が少し不安になる。
いつもは自分を見てくれるのに、と。
「嫌な気配が、近付いてるんだ」
答える章は、なんとかその正体を掴もうとしているのか、いまだ秋人を見ない。
「純、村越勇の判別はついているか?」
何かを考えながら、聖は純に問いかける。
「え、あ、はい。章君と同じクラスでしたから。章君の座る席まで付いて行った時に見つけました」
純は少し外の気配に集中し過ぎていたのか、慌てて答える。
「そうか……」
聖は、この場合の対処法を考えているのだろう。この中で、成人しているのは聖のみで、他は高校生だ。判断するのは聖の役目だろう。
「章は動けるか?」
攻撃型ではないが、章の防御の力があると戦いの仕方が変わってくる。
「大丈夫です」
少し硬い章の声。あまりこういうのには慣れていないので、緊張があるようだ。
「章は俺と一緒に校庭へ。秋人は屋上へ。俺と秋人で攪乱しよう」
静かに作戦を三人に話しはじめる。
「章は、校舎へ結界を。ただし一撃目は軽い衝撃だけ校舎にいきわたらせてくれ。衝撃がきたら、純は校舎内にいる生徒や保護者、教師を全員体育館へと誘導してくれ。体育館に結界を張って、村越勇だけ連れて出てきてほしい」
衝撃があれば、全員を一か所にまとめやすくなる。体育館に移動させれば、妙なモノを見られる心配はない。
さらに、体育館を純の結界で覆ってしまえば、そこにいることを謎に思わずそのまま体育館にいることになるし、出られないから安全になる。
「秋人は、二人が出てきたら、校庭に」
攪乱するのは最初だけで充分だ。相手と対峙するのに、二手にわかれている必要性はない。
多少校庭に被害が出てしまうだろうが、校舎が崩れるよりはマシである。
「村越君に、戦いを見せても大丈夫なんですか?」
純の問いに、聖は頷く。
「今朝、ここへ来る前に正さんと亜希ちゃんと話してきた。彼がここへ来て、力を知るべき時が来たのなら、彼に知らせるべきだ、と」
戦いを見せてしまった方が、力についての説明はしやすくなる。
だから、純には村越勇を連れてくるように、と言った。
彼は知るべきだろう。自分の持って産まれた力を。知らないまま今まで不自由なく暮らせていたのは良いことかもしれないが、これから先、もしかしたら力の暴走もあり得る。
知って、力の使い方を熟知するべき時なのだ。
だから今、泉林の生徒としてここに来たのかもしてない。
すべてはここから、始まるのだ。
保健室の簡易ベッドに章を寝かせて、様子を診ていた時だった。保健室の扉がノックされた。
「聖さん、純です」
ノックの後に声がかかる。
「おお、入れ」
章に目印を付けたのは純だ。だから、離れていても純は察知できたのだろう。
「秋人君が、壇上に上がった時に、章君の顔色が悪かったと心配してて。さらに、聖さんが動いたことで、秋人君自分の仕事放り出して、ここへ行きそうだったから」
なんとか宥めてきた。と純は言いながら、章の様子を見にベッドへと近付く。
秋人らしいと聖は笑いながら、純に章が見えるようにベッドから離れる。
「少しだけ、感情の渦にのまれただけみたいだ。心配ない」
そう言って。
ベッドに沈む章は、意識を失っている訳ではなく、薄く目を開いて純を見上げてきた。
「純さん、ごめんなさい」
小さな声は、迷惑をかけてしまったと、申し訳なさがにじみ出ていて。
「大丈夫だよ、章君。秋人君も、一段落したら来てくれるって」
微笑みながら、純は章の頭を撫でる。
その手の優しさに、章は小さく笑った。秋人が来ると聞いたことにも、安心したのかもしれない。
「んー、章は何組だったか?」
保健室の利用者の記入をしようとしていた聖が、ふとペンを止める。
体育館で章を抱き上げた時、近くにいるのが担任だと声はかけたが、その担任の顔をしっかり見ていない。見ていたとしても、自分はわざわざどの教師が何組の担任なのかを覚えてはいないのだが。
「三組ですよ」
純は章と共に確認しているので、聖にそう答えた。
「あー、たしか、新任教師だったな」
見慣れない顔だったような気がする、と思いつつ聖は記入を開する。
基本保健室にいる聖は、他の教師たちと違い、職員室には普段いないので、見慣れる見慣れないもないのだが。
しかし、泉林高校は私立だ。そんなに頻繁に教師は変わらない。聖は泉林の卒業生なので、見知った教師もまだいたりするのだ。聖は、自分の高校時代を知っている教師がいるのは心強い反面、少し緊張もするものだなと、母校へ戻ってそう思った。
「あ」
感知能力の高い章と純の二人が、そろって声を上げた。
二人の目線は窓の外に向けられている。
聖は窓の外を向いても、何もわからなかった。
「どうした?」
二人に声をかける聖。自分では判別できないのなら、感知した二人に聞くのが早い。
「まだ遠い場所ですが、確実にこちらに向かってきてます」
純が固い声を上げる。
章はベッドから起き上がり、集中して窓の外を睨むように見る。
「すごく、嫌な気配」
章が言った時、保健室の扉が開いた。
「秋人か、一応ノックはしろ」
入って来た秋人を咎める聖。
「すみません。気がせいてて」
聖に謝りながら、ベッドに座っている章に近付く。
普段なら、すぐに秋人を見る章の目は、今は純と一緒に窓の外だ。
「章、どうしたんだ?」
秋人が少し不安になる。
いつもは自分を見てくれるのに、と。
「嫌な気配が、近付いてるんだ」
答える章は、なんとかその正体を掴もうとしているのか、いまだ秋人を見ない。
「純、村越勇の判別はついているか?」
何かを考えながら、聖は純に問いかける。
「え、あ、はい。章君と同じクラスでしたから。章君の座る席まで付いて行った時に見つけました」
純は少し外の気配に集中し過ぎていたのか、慌てて答える。
「そうか……」
聖は、この場合の対処法を考えているのだろう。この中で、成人しているのは聖のみで、他は高校生だ。判断するのは聖の役目だろう。
「章は動けるか?」
攻撃型ではないが、章の防御の力があると戦いの仕方が変わってくる。
「大丈夫です」
少し硬い章の声。あまりこういうのには慣れていないので、緊張があるようだ。
「章は俺と一緒に校庭へ。秋人は屋上へ。俺と秋人で攪乱しよう」
静かに作戦を三人に話しはじめる。
「章は、校舎へ結界を。ただし一撃目は軽い衝撃だけ校舎にいきわたらせてくれ。衝撃がきたら、純は校舎内にいる生徒や保護者、教師を全員体育館へと誘導してくれ。体育館に結界を張って、村越勇だけ連れて出てきてほしい」
衝撃があれば、全員を一か所にまとめやすくなる。体育館に移動させれば、妙なモノを見られる心配はない。
さらに、体育館を純の結界で覆ってしまえば、そこにいることを謎に思わずそのまま体育館にいることになるし、出られないから安全になる。
「秋人は、二人が出てきたら、校庭に」
攪乱するのは最初だけで充分だ。相手と対峙するのに、二手にわかれている必要性はない。
多少校庭に被害が出てしまうだろうが、校舎が崩れるよりはマシである。
「村越君に、戦いを見せても大丈夫なんですか?」
純の問いに、聖は頷く。
「今朝、ここへ来る前に正さんと亜希ちゃんと話してきた。彼がここへ来て、力を知るべき時が来たのなら、彼に知らせるべきだ、と」
戦いを見せてしまった方が、力についての説明はしやすくなる。
だから、純には村越勇を連れてくるように、と言った。
彼は知るべきだろう。自分の持って産まれた力を。知らないまま今まで不自由なく暮らせていたのは良いことかもしれないが、これから先、もしかしたら力の暴走もあり得る。
知って、力の使い方を熟知するべき時なのだ。
だから今、泉林の生徒としてここに来たのかもしてない。
すべてはここから、始まるのだ。
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