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春、出会い、そして……
第二章 ②
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体育館に着けば、多くの生徒が既にいた。
在校生は二年生だけとはいえいるので、多くの人の気配が体育館中を覆っていると言ってもおかしくはない。
期待と不安と緊張と……。負の感情ばかりではないのが救いなのかもしれなかった。
「章君、大丈夫そう?もう少し後から入る?」
まだ門の所に新入生がいた。これで全員ではない数なのだ。
今までだって、小学生中学生と生活をしてきたから、全校集会などもあっただろうが、章も新しい環境になるのである。
緊張で体が強張れば、心の余裕がなくなり感情に飲み込まれやすくなる。
「大丈夫だよ。純さんや秋人がいるってオーラがわかるもん。それに、聖さんのオーラも」
そう言って、自分に笑いかける章に、この人数の中で、三人分のオーラがわかるというのもすごいな、と思う。
純は今、章の近くにいるから、章のオーラはちゃんとわかる。だが、生徒会長として既に体育館の中にいるだろう秋人のオーラはわからないのだ。
聖は保健医として、保健室にいるのかそれとも、体育館に来ているのかすらわからない。
「聖さん、体育館にいる?」
なので、素直に聞いてみた。
自分が章の場所を聖に教えておけば、比較的動きやすい聖が、章に異変があれば動いてくれるだろうと思ってのことだ。
「うん。いるよ」
簡単な答えが返ってくる。「そっか」と純は言い、章を伴って章のクラス、入学式の席を受付まで見に行く。
二年の係に章を自己紹介させ、クラスと席を教わる。本来なら、二年の係が席まで案内するところを、純は自分が行くから大丈夫だと断り、章と共に体育館へと入る。
「じゃあ、俺は聖さんに報告してから、秋人君と一緒にいるから。もし気分悪くなったら合図して。聖さんはわかるから」
章を席に座らせ、純は言葉をかけて場を離れる。
有名人になりつつある自分だ。好奇の視線にさらされはじめているのを純は自覚している。
そして、そんな視線の中に長く滞在はしたくないものだ。
「はい。ありがとうございます」
章はしっかり頭を下げて、純にお礼を言う。
純は、体育館の中に入ったことで、自己主張してくる二つのオーラに気付いた。
多分、自分と章が来るのを感知できるようにしていたのだろうと純は思う。聖も秋人も、章には過保護だと思える節がある。
そんなことを思う純だって、章に対しては少々心配し過ぎな面もあるのだが。自分のことは棚上げである。
聖は、章が高校入学になるまで、一緒の部屋で世話をしていたからだろうと思う。聖は一人っ子だ。従弟の太一も一人っ子なので、聖のことを兄のように思っているところがあるが、太一と章を比べてどちらが可愛いかと問われたら、即答で章だと返ってくるだろうことは想像がつく。
秋人は、章と同じ施設にいたのだ。章のことを誰よりも心配し、常に傍にいられるようにしているのをよく見る。
「聖さん、章君の位置、わかりますか?」
そっと保健医に問いかける純。
白衣の下はスーツだが、面倒そうに椅子に座っていた聖は、純の声に顔を向ける。
「あぁ、お前がわかりやすい目印付けたからな。大丈夫だ」
ふっと笑って答える聖に、あの目印はわかりやすかったかと純は安心する。
目印を付けても、見ていてほしい人が気付かなければ意味のない物なのだ。多分、純が章に目印を付けたことは、章自身気付いているだろうが、それについては文句も言わなかった。
章本人は大丈夫だと言っていたが、章は感知能力が鋭すぎるのだ。
だから、皆心配する。倒れないか、大丈夫かと。
そんな心配をかけていると、章本人も気付いているから、皆には迷惑をかけないように、と思うものの、どうしようもなくなったら、すぐに助けを求めるようになった。大丈夫だと言い張って、倒れた章をみる皆の心配しているという目を、きっと章は忘れないだろう。
倒れて心配をかけてしまうくらいなら、倒れる前に助けを求める方が良いのだと、章は感じたのだ。
だから、駄目な時はどんな時であろうと、駄目だと言う。
純の付けた目印は、そういう意味では章にはありがたい物でもあったのだ。目印を通して、助けて欲しいと言えるから。
「皆さん、お静かにお願いいたします」
よく通る声が、マイクを通して体育館に広がった。
章はこの声をよく知っている。秋人の声だ。
緊張も不安もあったけど、秋人の声を聞いただけで、すごく安心した気分になる。
静かで落ち着いた声は、体育館の中にいる人々を、静かにさせるのにそんなに時間は要しなかった。
滞りなく進行していく入学式。
在校生代表として壇上に上がった秋人を見て、章はまた安心感を覚える。
この泉林高校で、自分は秋人と一緒に二年間すごすのだ、という実感がやっと章の胸にわいてきた。喜びとして。
式は終盤。退屈だった言葉の数々をただ聞いていただけに終わっていく。
章の心に残っているのは、心地よい秋人の声だけだ。
そうして、在校生が見送る中、新一年生は、教室へと退場する。
その時、教師陣の中から、白衣の教師が周りの教師に断りを入れて立ち上がった。向かう先は章の場所。
目印を通して伝えられた章からのSOS。聖はそれを見逃さなかった。
「聖、さん」
顔色の悪くなった章が、聖が傍に来たことで、ホッと息を吐く。
「あぁ、大丈夫だ。保健室に行こうな」
優しく章の頭を撫でると、章の身体を軽々と抱き上げる。
視線を巡らせて、このクラスの担当教師を見つけ出す。
「具合悪そうなのが見えたので、暫く保健室で休ませますよ」
そう担任教師に言い、聖はスタスタと歩き出す。
担任教師の返事など、待ってやれる余裕もない。
興味津々という視線を浴びてしまった章が、聖へ抱きつく腕の力を強めたから。
慣れた形で章を抱きかかえて、聖はさっさと場を離れることに専念した。
在校生は二年生だけとはいえいるので、多くの人の気配が体育館中を覆っていると言ってもおかしくはない。
期待と不安と緊張と……。負の感情ばかりではないのが救いなのかもしれなかった。
「章君、大丈夫そう?もう少し後から入る?」
まだ門の所に新入生がいた。これで全員ではない数なのだ。
今までだって、小学生中学生と生活をしてきたから、全校集会などもあっただろうが、章も新しい環境になるのである。
緊張で体が強張れば、心の余裕がなくなり感情に飲み込まれやすくなる。
「大丈夫だよ。純さんや秋人がいるってオーラがわかるもん。それに、聖さんのオーラも」
そう言って、自分に笑いかける章に、この人数の中で、三人分のオーラがわかるというのもすごいな、と思う。
純は今、章の近くにいるから、章のオーラはちゃんとわかる。だが、生徒会長として既に体育館の中にいるだろう秋人のオーラはわからないのだ。
聖は保健医として、保健室にいるのかそれとも、体育館に来ているのかすらわからない。
「聖さん、体育館にいる?」
なので、素直に聞いてみた。
自分が章の場所を聖に教えておけば、比較的動きやすい聖が、章に異変があれば動いてくれるだろうと思ってのことだ。
「うん。いるよ」
簡単な答えが返ってくる。「そっか」と純は言い、章を伴って章のクラス、入学式の席を受付まで見に行く。
二年の係に章を自己紹介させ、クラスと席を教わる。本来なら、二年の係が席まで案内するところを、純は自分が行くから大丈夫だと断り、章と共に体育館へと入る。
「じゃあ、俺は聖さんに報告してから、秋人君と一緒にいるから。もし気分悪くなったら合図して。聖さんはわかるから」
章を席に座らせ、純は言葉をかけて場を離れる。
有名人になりつつある自分だ。好奇の視線にさらされはじめているのを純は自覚している。
そして、そんな視線の中に長く滞在はしたくないものだ。
「はい。ありがとうございます」
章はしっかり頭を下げて、純にお礼を言う。
純は、体育館の中に入ったことで、自己主張してくる二つのオーラに気付いた。
多分、自分と章が来るのを感知できるようにしていたのだろうと純は思う。聖も秋人も、章には過保護だと思える節がある。
そんなことを思う純だって、章に対しては少々心配し過ぎな面もあるのだが。自分のことは棚上げである。
聖は、章が高校入学になるまで、一緒の部屋で世話をしていたからだろうと思う。聖は一人っ子だ。従弟の太一も一人っ子なので、聖のことを兄のように思っているところがあるが、太一と章を比べてどちらが可愛いかと問われたら、即答で章だと返ってくるだろうことは想像がつく。
秋人は、章と同じ施設にいたのだ。章のことを誰よりも心配し、常に傍にいられるようにしているのをよく見る。
「聖さん、章君の位置、わかりますか?」
そっと保健医に問いかける純。
白衣の下はスーツだが、面倒そうに椅子に座っていた聖は、純の声に顔を向ける。
「あぁ、お前がわかりやすい目印付けたからな。大丈夫だ」
ふっと笑って答える聖に、あの目印はわかりやすかったかと純は安心する。
目印を付けても、見ていてほしい人が気付かなければ意味のない物なのだ。多分、純が章に目印を付けたことは、章自身気付いているだろうが、それについては文句も言わなかった。
章本人は大丈夫だと言っていたが、章は感知能力が鋭すぎるのだ。
だから、皆心配する。倒れないか、大丈夫かと。
そんな心配をかけていると、章本人も気付いているから、皆には迷惑をかけないように、と思うものの、どうしようもなくなったら、すぐに助けを求めるようになった。大丈夫だと言い張って、倒れた章をみる皆の心配しているという目を、きっと章は忘れないだろう。
倒れて心配をかけてしまうくらいなら、倒れる前に助けを求める方が良いのだと、章は感じたのだ。
だから、駄目な時はどんな時であろうと、駄目だと言う。
純の付けた目印は、そういう意味では章にはありがたい物でもあったのだ。目印を通して、助けて欲しいと言えるから。
「皆さん、お静かにお願いいたします」
よく通る声が、マイクを通して体育館に広がった。
章はこの声をよく知っている。秋人の声だ。
緊張も不安もあったけど、秋人の声を聞いただけで、すごく安心した気分になる。
静かで落ち着いた声は、体育館の中にいる人々を、静かにさせるのにそんなに時間は要しなかった。
滞りなく進行していく入学式。
在校生代表として壇上に上がった秋人を見て、章はまた安心感を覚える。
この泉林高校で、自分は秋人と一緒に二年間すごすのだ、という実感がやっと章の胸にわいてきた。喜びとして。
式は終盤。退屈だった言葉の数々をただ聞いていただけに終わっていく。
章の心に残っているのは、心地よい秋人の声だけだ。
そうして、在校生が見送る中、新一年生は、教室へと退場する。
その時、教師陣の中から、白衣の教師が周りの教師に断りを入れて立ち上がった。向かう先は章の場所。
目印を通して伝えられた章からのSOS。聖はそれを見逃さなかった。
「聖、さん」
顔色の悪くなった章が、聖が傍に来たことで、ホッと息を吐く。
「あぁ、大丈夫だ。保健室に行こうな」
優しく章の頭を撫でると、章の身体を軽々と抱き上げる。
視線を巡らせて、このクラスの担当教師を見つけ出す。
「具合悪そうなのが見えたので、暫く保健室で休ませますよ」
そう担任教師に言い、聖はスタスタと歩き出す。
担任教師の返事など、待ってやれる余裕もない。
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