25 / 49
君が消えた、夏
第三章 ②
しおりを挟む
「やぁ、秋人君。迎えに、来たよ」
気味の悪い声が、すぐ近くで聞こえた。
章と勇を待っている校門前。
気付けば取り込まれたように、男の結界の中。
何の心構えもないままに、秋人は男に取り込まれてしまっていた。
男が近付いて来ていたことさえ、気付かなかった。
距離を取ろうにも、足が、動かない。
「クックック。充分、楽しめた、だろう?」
男は、俺が悩んでいたことも、仲間とともにいられる時間を大切にしていたことも、全てがわかるというように、笑ってみせる。
今更、もうこの結界を崩せないことは、秋人には嫌というほどわかっていた。
「君が、来るか。それとも、石井章君が、来るか。さぁ、どっちを、選ぶ?」
選ぶことなんて、ない。わかっているだろうのに、この男は、わざわざ問いかけてくる。
「わざわざ、聞かなくてもわかっているはずだ」
秋人はそう言う。
男は心底面白そうに笑った。
「ちゃあんと、守って、いたからね。すこーしだけ、長く、一緒に、いさせて、あげたよ」
そう言った男は、結界ごとその場から、秋人も一緒に連れて行った。
学校の校門前は、何事もなかったかのように、生徒が通り過ぎて行く。
もう、章には合えない。
仲間にも、会えない。
決心したはずなのに、心が悲鳴を上げるみたいにきしんで痛くて。
これから俺をどうするのかとか、あの男は言わないまま。ただ部屋にポツリと置いて行かれた。
簡素な部屋だ。
寝ることくらいはできる。ただ、それだけの、簡素な部屋。
質問する気にもなれなくて、俺も何も聞かずにそのままだ。
このまま、ここでしばらく過ごせとでも、言っているのだろうか。
また、前触れなく現れて、俺を翻弄するんだろうか。
なんの為に、俺だったのかもわからないままだ。
どうしたら、この部屋から出られるんだろうか。考えてみたけれど、何も良い案は浮かばなかった。
あの男の結界は、意外にも強い。
ここが、どこに位置しているのかさえ、わからないのだ。
もしこの部屋から出られたとしても、あの男にすぐに捕まるだけだろう。
みっともなく、泣き喚く姿だけは、あの男には見せたくはないから。だから、平然としているふりをした。
けれど、きっとあの男はわかっているのだろう。
薄気味悪く、嗤っていた。
楽しそうに、嗤っていた。
これから、俺はどうなる?考えたってわからないのだ。
あの男がまた表れて、何かを言い出すまで、俺は待つしかないのだ。
何もできない、無力過ぎる自分。
頼ってばかりで、何もできない自分。
ただ、俺がここへ来たことで、章には何もされなければ良いと、それだけを願っていた。
仲間にも、危害がなければ良い、と。
気味の悪い声が、すぐ近くで聞こえた。
章と勇を待っている校門前。
気付けば取り込まれたように、男の結界の中。
何の心構えもないままに、秋人は男に取り込まれてしまっていた。
男が近付いて来ていたことさえ、気付かなかった。
距離を取ろうにも、足が、動かない。
「クックック。充分、楽しめた、だろう?」
男は、俺が悩んでいたことも、仲間とともにいられる時間を大切にしていたことも、全てがわかるというように、笑ってみせる。
今更、もうこの結界を崩せないことは、秋人には嫌というほどわかっていた。
「君が、来るか。それとも、石井章君が、来るか。さぁ、どっちを、選ぶ?」
選ぶことなんて、ない。わかっているだろうのに、この男は、わざわざ問いかけてくる。
「わざわざ、聞かなくてもわかっているはずだ」
秋人はそう言う。
男は心底面白そうに笑った。
「ちゃあんと、守って、いたからね。すこーしだけ、長く、一緒に、いさせて、あげたよ」
そう言った男は、結界ごとその場から、秋人も一緒に連れて行った。
学校の校門前は、何事もなかったかのように、生徒が通り過ぎて行く。
もう、章には合えない。
仲間にも、会えない。
決心したはずなのに、心が悲鳴を上げるみたいにきしんで痛くて。
これから俺をどうするのかとか、あの男は言わないまま。ただ部屋にポツリと置いて行かれた。
簡素な部屋だ。
寝ることくらいはできる。ただ、それだけの、簡素な部屋。
質問する気にもなれなくて、俺も何も聞かずにそのままだ。
このまま、ここでしばらく過ごせとでも、言っているのだろうか。
また、前触れなく現れて、俺を翻弄するんだろうか。
なんの為に、俺だったのかもわからないままだ。
どうしたら、この部屋から出られるんだろうか。考えてみたけれど、何も良い案は浮かばなかった。
あの男の結界は、意外にも強い。
ここが、どこに位置しているのかさえ、わからないのだ。
もしこの部屋から出られたとしても、あの男にすぐに捕まるだけだろう。
みっともなく、泣き喚く姿だけは、あの男には見せたくはないから。だから、平然としているふりをした。
けれど、きっとあの男はわかっているのだろう。
薄気味悪く、嗤っていた。
楽しそうに、嗤っていた。
これから、俺はどうなる?考えたってわからないのだ。
あの男がまた表れて、何かを言い出すまで、俺は待つしかないのだ。
何もできない、無力過ぎる自分。
頼ってばかりで、何もできない自分。
ただ、俺がここへ来たことで、章には何もされなければ良いと、それだけを願っていた。
仲間にも、危害がなければ良い、と。
0
あなたにおすすめの小説
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】俺とあの人の青い春
月城雪華
BL
高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。
けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。
ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。
けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。
それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。
「大丈夫か?」
涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる