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君が消えた、夏
第三章 ③
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鍛錬場。いつも、秋人が勇の相手をしていた。
でも、今はその秋人がいない。
秋人を取り戻す為に、自分たちが選んだことは、力を安定させること。
強くなって、秋人を取り戻す。
その思いだけで、ここに来た。
章と勇に加えて、太一がいる。勇の訓練の相手として。
何故、こうなってしまったのか。それを考えても始まらない。
だから、今できることをする。
秀は変わらずパソコンの前で、情報収集。秋人の携帯の電波を辿ろうともいるらしいが。その携帯さえ今どこにあるか、わかっていないらしい。
行方を突き止めるのは、秀たちの仕事。
ならば、と太一に特訓相手を頼んだのは勇。
自分たちが事務所にいても、出来ることはない。
太一は勇の頼みを引き受け、章も共に鍛錬場に足を運んだ。
仕事を早く切り上げて戻ると言った聖は、まだ戻ってきていない。当然、聖の車で下校する純も、まだだ。
「章、安定していない精神状態では、無理をするな」
警告を発する太一。
常にともにいた秋人がいないことで、章の精神状態はもろくなっている。
「だけど!」
何もしていないなんて、できないのだろう。章が言いつのろうとしたが、いつもよりも大分落ち着いている太一が駄目だ、と言う。
「その状態じゃ、特訓しても無意味だ。下手をすると怪我をしかねない」
普段奔放で、明るい彼の言葉は、今日は静かで、それでいて否を言わせない。
だから、今は見ているだけにしろ、と。強い太一の言葉に、章は頷くよりほかなかった。
何も、察することさえできなかった。
どうして、秋人が……。答えなんてでない問答が、章の中でくすぶり続けている。
「章君」
穏やかな声が、鍛錬場入口から聞こえた。
章は顔を動かして、そちらを見る。
太一と勇の特訓は、見てはいなかった。目に映りはしたが、ただの映像に見えていた章。
「純さん……」
力ない章の声が、純に届く。
純は静かに鍛錬場に入って来た。
「聖さんも加わって、亜希羅さんも来てた。情報は、正さんと秀さんが、あらゆるところから集めてる」
今の事務所の現状を、純は静かに章へと話す。
章は静かに頷くだけだ。
時折強い火花が散る、太一と勇の動く音がする。
純は二人を見たまま、章へと言葉を発している。
「章君は、今はしっかり休むこと。って正さんから」
正も、章の精神状態がもろくなっているのに、気付いている。
これ以上、誰かが傷付くのは避けたい。そんな思いからだろう。
「僕は、なにもできないんですね……」
小さな章の呟き。
「違うよ、章君。君が倒れたら、意味がないんだ。君が、元気で秋人君が戻ってくるのを、待っててあげなきゃいけない」
思いの外強い口調で返してくる純。
そうか、僕が倒れたら、駄目なんだ。誰が、疲れて帰ってくる秋人を、受け止めるんだ?
章は純の言葉に頷いていた。
「僕も、強くなりたいです。ちゃんと、秋人を、取り戻して。また皆でいられるように」
章の決意。純は静かに頷いた。
「今は、しっかり休みます。僕がこんなんじゃ、皆を守るなんて、言えない」
そっと章は立ち上がり、鍛錬場を後にした。
純はそこに残る。いつもなら、なにか有った時の守りとして、章がいたけれど。今それは、純の役目だ。
しっかりと、目の前の二人を見守る純。
太一は少し荒っぽい。けれど、それに付いて行こうとしている勇が、無理をし過ぎないように見守るのもまた、純の役目だ。
天野の考えは、今は誰にもわからないのだ。
できることをする、今の彼らはそれぞれにできることをして、秋人を取り戻すことを優先に考えている。
「終業式が、今日で良かった」
明日からは夏休みだ。秋人の不在を、学校の人間には知られずに済むかもしれない。
夏休みの生徒会の仕事は、ほとんどないのだ。秋人が消えたのを知っているのは、今ここの事務所にいる人間だけ。
でも、今はその秋人がいない。
秋人を取り戻す為に、自分たちが選んだことは、力を安定させること。
強くなって、秋人を取り戻す。
その思いだけで、ここに来た。
章と勇に加えて、太一がいる。勇の訓練の相手として。
何故、こうなってしまったのか。それを考えても始まらない。
だから、今できることをする。
秀は変わらずパソコンの前で、情報収集。秋人の携帯の電波を辿ろうともいるらしいが。その携帯さえ今どこにあるか、わかっていないらしい。
行方を突き止めるのは、秀たちの仕事。
ならば、と太一に特訓相手を頼んだのは勇。
自分たちが事務所にいても、出来ることはない。
太一は勇の頼みを引き受け、章も共に鍛錬場に足を運んだ。
仕事を早く切り上げて戻ると言った聖は、まだ戻ってきていない。当然、聖の車で下校する純も、まだだ。
「章、安定していない精神状態では、無理をするな」
警告を発する太一。
常にともにいた秋人がいないことで、章の精神状態はもろくなっている。
「だけど!」
何もしていないなんて、できないのだろう。章が言いつのろうとしたが、いつもよりも大分落ち着いている太一が駄目だ、と言う。
「その状態じゃ、特訓しても無意味だ。下手をすると怪我をしかねない」
普段奔放で、明るい彼の言葉は、今日は静かで、それでいて否を言わせない。
だから、今は見ているだけにしろ、と。強い太一の言葉に、章は頷くよりほかなかった。
何も、察することさえできなかった。
どうして、秋人が……。答えなんてでない問答が、章の中でくすぶり続けている。
「章君」
穏やかな声が、鍛錬場入口から聞こえた。
章は顔を動かして、そちらを見る。
太一と勇の特訓は、見てはいなかった。目に映りはしたが、ただの映像に見えていた章。
「純さん……」
力ない章の声が、純に届く。
純は静かに鍛錬場に入って来た。
「聖さんも加わって、亜希羅さんも来てた。情報は、正さんと秀さんが、あらゆるところから集めてる」
今の事務所の現状を、純は静かに章へと話す。
章は静かに頷くだけだ。
時折強い火花が散る、太一と勇の動く音がする。
純は二人を見たまま、章へと言葉を発している。
「章君は、今はしっかり休むこと。って正さんから」
正も、章の精神状態がもろくなっているのに、気付いている。
これ以上、誰かが傷付くのは避けたい。そんな思いからだろう。
「僕は、なにもできないんですね……」
小さな章の呟き。
「違うよ、章君。君が倒れたら、意味がないんだ。君が、元気で秋人君が戻ってくるのを、待っててあげなきゃいけない」
思いの外強い口調で返してくる純。
そうか、僕が倒れたら、駄目なんだ。誰が、疲れて帰ってくる秋人を、受け止めるんだ?
章は純の言葉に頷いていた。
「僕も、強くなりたいです。ちゃんと、秋人を、取り戻して。また皆でいられるように」
章の決意。純は静かに頷いた。
「今は、しっかり休みます。僕がこんなんじゃ、皆を守るなんて、言えない」
そっと章は立ち上がり、鍛錬場を後にした。
純はそこに残る。いつもなら、なにか有った時の守りとして、章がいたけれど。今それは、純の役目だ。
しっかりと、目の前の二人を見守る純。
太一は少し荒っぽい。けれど、それに付いて行こうとしている勇が、無理をし過ぎないように見守るのもまた、純の役目だ。
天野の考えは、今は誰にもわからないのだ。
できることをする、今の彼らはそれぞれにできることをして、秋人を取り戻すことを優先に考えている。
「終業式が、今日で良かった」
明日からは夏休みだ。秋人の不在を、学校の人間には知られずに済むかもしれない。
夏休みの生徒会の仕事は、ほとんどないのだ。秋人が消えたのを知っているのは、今ここの事務所にいる人間だけ。
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