心霊現象相談事務所

藤野 朔夜

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君が消えた、夏

エピローグ

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  カチャカチャ
  上の空だからか、食器の音が鳴っても、気にならない。否、気にしてなんていない。
  あれからずっと、情報収集したり、鍛錬したり。
  最近では、皆で食事はなくなってしまった。
  空虚に感じる事務所に、章が長くいたくなかったから。
  皆で笑い合って、楽しく食事をしたのは、つい最近のことだったのに。
  たった一人、秋人がいないだけで、味気なくて、空虚だ。
  多分、章が一番秋人と一緒にいたから。秋人がいないことに、耐えられない。
「秋人、どこにいるの?」
  ポツリと独り言がもれる。
  何度携帯を見ても、秋人からの連絡はなくて。携帯を見ることさえ嫌になってしまった。
  久しぶりに見た、あの幼い頃の夢。
  ずっと一緒、と笑い合ったあの夢は、その約束が果たされなくなることの、暗示だったのか。
  一緒にいられると、信じて疑わなかった。
  あの後だって、秋人はずっと一緒にいたのに。
  一緒にいたから、あの夢はずっと一緒にいる、っていう再確認だと思って。
  ザワついた胸の内を、焦燥感を無かったものに、してしまった。
  皆で天野という術者に勝って、勇君を守るんだ、って思ってた。
  秋人が、一人で何かをかかえているなんて、思いもしなくて。どうして、ずっと一緒にいた自分が、気付いてあげられなかったんだろう。
  自分が、一番近くにいたのに。
  章の心は、ずっと秋人のことを考えて。すでに食事には手が伸びなくなっている。
  秋人が独りで、今も辛い思いをしているんじゃないか、と思うと、自分がこんなにも安寧と生きていて良いのかとまで、考えてしまう。
  天野という術者については、よく知らない。でも、いらないと思った人間を、簡単に殺せてしまう人間だとは、わかっている。
  天野が、秋人をどうして連れて行ったのかは、わからない。
  正が言うには、とても強い術者だと。
  ならば、何故、秋人を?
  強い術者なら、人質なんていらないだろう。
  こちらを、精神的に追い詰める為?
  わからない。
  でも、一つだけ、たしかなこと。自分たちは必ず秋人を取り戻す。それだけ。
  ピピピピピ
  携帯が鳴る。
「秋人!」
  勢い込んで章は携帯に出た。表示された名前が、待ち望んだ秋人のものだったから。
「章、ごめん。時間がないんだ。多分、また場所を移動する。だからまた、携帯は使えなくなる。……一緒にいられなくなって、ごめんな」
  一気に秋人はまくしたてた後、静かに謝罪を口にした。
  声は、普段よりハリがないし、どことなく弱弱しい。
「秋人……」
「今どこか、とかは言えない。どうなっているのかも、俺にはわからないから。でも、今携帯が使えるってことは、秀さんの探索に引っかかったと思う。だから……」
  ツーツーツー
  不自然に途切れた電話。
  電波の届かない場所になったのか、それとも天野が切ったのか。
  章は携帯を握り締めたまま、慌てて事務所へと向かった。
  もし、今のを秀が見付けていたのなら。今ならまだ、間に合う?
  間に合って欲しい。その一心で。
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