トップアスリートはセフレを可愛がりたくてたまらない

鶴れり

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つまり、セフレってこと?(1)



 ──修哉と出会ったのは、前回の冬。西高東低の気圧配置が強まり、寒波が続いたときだった。

 四十度を超えるなんて、いつぶりだっけ……。

 寒さのせいか、仕事を詰め込みすぎてきちんと食事を摂れていなかったせいか、久々に愛は高熱を出してしまった。

 幸か不幸か、体に不調が出始めたのが金曜日の夜だったので、土曜日の朝一で駅前にある近所の内科に向かう。

 やはり、土曜日の病院は人が多い。
 初めて訪れた病院だったため、事前予約ができなかった愛は、順番が回ってくるまでひたすら待合室で待つしかなかった。

 頭ガンガンする……。寒い……。インフルエンザだったらどうしよう。来週も打ち合わせや締切があるのに……。

 熱に浮かされた頭でそんなことを考えながら、待合室に置かれているテレビの映像をぼんやりと見ていた。

「診察でお待ちのゆきかわさん。診察室二番へお入りください」

 ようやく名前が呼ばれた。思っていたよりも、早く診察の順番が来たようだ。
 愛は大きく二番と書かれている扉を開ける。

「はいどうぞー。そちらの椅子におかけください」
「失礼します。雪原愛です」
「あれ、雪原さん? 雪川さんじゃ……」
「え?」

 医師と看護師がカルテを見ながら首を傾げる。すると診察室の扉がノックされ、がっしりとした体格の良い青年が入ってきた。

「すみません、雪川です。……あれ?」

 どうやら、愛が名前を聞き間違えたらしい。どうりで呼ばれるのが早かったわけだ。

「申し訳ありません。私が名前を聞き間違えてしまったみたいです。待合室に戻ります……」

 椅子から立ち上がった瞬間、くらっと眩暈がした。
 ふらついた愛の体を、咄嗟に修哉が支えてくれる。

「おっと……。先生、すみません。俺の血液検査は後日でいいので、先にこの人を診てあげてください」
「修哉くん、急がないのかい?」
「はい。急いだところで血は変わりませんしね」

 どうやら顔見知りらしい医師と修哉は気さくにやり取りをして、愛に順番を譲ってくれた。

「じゃあ、俺はまた来週あたりにでも来ます」

 そう言って感謝の言葉を伝える暇もなく、修哉は診察室から出ていってしまった。

 検査の結果、インフルエンザは陰性でただの風邪だという診断だった。
 薬を処方してもらい、しばらくは安静にするようにと言われて病院を出る。

 ただの風邪でよかったぁ……。帰りに何か食べるもの買わなきゃ。家に何にもないし……あぁ、こういうとき一人暮らしは辛いわ……。

 ビュウッと凍えた風が頬を撫でていく。病院内の寒暖差で、余計に寒く感じて身震いが止まらない。

「あ……さっきの……」

 病院を出てすぐのところに、先ほど順番を譲ってくれた青年が立っていた。

「名前……たしか、ゆき……なんとかさん?」
「あっ、診察終わりましたか?」

 愛の存在に気がついた修哉は、イヤホンを外してニカっと快活に笑った。真顔だとどこか冷たい印象だが、笑うと幼くなって可愛らしくなる。

「診察の順番を譲ってくれて、ありがとうございました。きちんとお礼も言えずにごめんなさい」
「いえ、相当辛そうだったので。俺はただの検査だから別日でもよかったんですよ。インフルではなかったですか?」
「はい。ただの風邪みたいです」
「それは良かった。あの……」

 修哉はじっと愛の顔を見つめ、罰が悪そうに視線を左右に動かす。

「良かったら、これどうぞ。買いにいくのも大変かと思って。気持ち悪かったら、捨ててください」
「えっ?」
「じゃあ俺はこれで」

 白いビニール袋に入った荷物を差し出されて、思わず受け取ってしまった。
 そのまま修哉はくるりと向きを変え、歩き出してしまう。

 袋の中を見てみると、経口補水液やゼリー、レトルトのお粥などが入っていた。

「あの、お礼がしたいんですけど……!」

 愛が声をあげて伝えると、修哉は首だけ振り返った。

「俺、駅前の『鳥このみ』って店によくいるんで、もし見かけたら声かけてください!」
「え、あ、あの、名前は……っ」

 そのまま修哉は角を曲がって行ってしまった。

 ……とりあえず帰ろう。

 さすがに高熱の状態では、走って追いかけることもできない。とにかく、一刻も早く横になって休みたかった。

 ゆき……なんとかさん。親切な人だったなぁ。

 久々に人の温情に触れて、世の中も捨てたもんじゃないなぁ、なんて思った。

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