トップアスリートはセフレを可愛がりたくてたまらない

鶴れり

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乗り越えて(3)


 小さな段ボールを抱え、会社の裏口の鉄の扉を開く。必要な書類をまとめたら、思いのほか荷物が増えてしまった。
 家庭の事情で……と話を濁し、現在担当しているクライアントを別の人に引き継いでいたら、それだけで一日が終わっていた。

 迎えにきてくれるという修哉の言葉に甘えて、裏口で車の到着を待つ。

 一台の車が目の前に停まった。

「お疲れさま。荷物多いね。トランク開けるよ」

 わざわざ修哉が降りてきて、段ボールを積み込んでくれた。記者の目を気にして後部座席に座り、キラキラと煌めくイルミネーションを横目に修哉のマンションを目指す。

 地下駐車場に車を停めて、荷物を持って修哉の部屋に入った。

「修哉、記事のこと知ってる?」
「うん。今朝、俺のところにも連絡が来たよ」
「そっか。そう、だよね」

 荷物を置き、コートを脱いでソファに座り込む。なんだか気が抜けたというか、思考がぼんやりとする。昼も夜もご飯を食べていないのに、まったく食欲が湧かない。
 会社内で気を張り過ぎていた反動かもしれない。

 学生のときからスクールに通ってデザインを学んで。就職して七年かけてキャリアを積み上げて。それがたった一枚の記事で台無しになる……なんだか現実味がなかった。

 修哉が温かいコーヒーを淹れてくれて、マグカップを受け取った。

「週刊誌って……すごいね。あんなに事実とは異なることを書いてるんだね。普段ゴシップ誌なんて読まないから、私知らなかった……」
「本当にね。いくら売るためとはいえ、人道に反しすぎだと思うけど」
「修哉は大丈夫なの?」
「うん。事実とあまりにも乖離してるから、記事を取り下げるようにかけあってる」
「そっか……」

 コーヒーの香ばしい香りを嗅いでいると、少し気分が落ち着いた。

「……後悔してる?」
「何が?」
「俺と居ること……」
「ふふ、何言ってるの? そんなこと思わないよ。自分の考えが浅はかだったなぁとは思ったけどね」

 修哉が不安そうに擦り寄ってきて、愛も体を寄せてぬくもりを分け合った。

 身体だけの契約関係を結んだのも、これから先も一緒にいると決めたのも、二人で決めたこと。そのことを否定するつもりは全くない。
 修哉の立場を理解した振る舞いをすべきだったという反省点はあっても、後悔はない。

「でも、少し……悔しい、かな」

 言葉にすると、ほろっと目から雫が落ちた。
 修哉の硬い指が、すかさずそれを拭ってくれる。

「確かに初めはセフレで……決して褒められるような関係性ではなかったけど。真面目に仕事して、ただ修哉といたかっただけで、こういうふうに記事にされるのは納得できない、な」
「当然だよ。愛ちゃんは何も悪くない」

 修哉の声やあたたかさを感じるだけで、真っ暗な感情が不思議と落ち着いていく。

「記事が世に出ても……私、修哉の隣にいてもいい?」
「当たり前。俺の隣はずっと愛ちゃんだけだよ」
「ん……ならいいの」

 修哉の盛り上がった肩に頭を預ける。漠然とした不安はあるけれど、修哉がいてくれるなら乗り越えられるような勇気が湧いた。

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