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【21】身に宿す魔力(3)セノ視点
しおりを挟む「レオは俺の体がどう見えてる?」
「なんか白い靄が纏わりついている、という感じだな。呪いなのか、それとも祝福か……」
王家直系の長男は女神からの祝福が多い。爵位持ちである貴族が有する魔法は基本的に一人一種類までなのに対して、王族の長男は三種類の魔法を女神より賜っている。
公になっているレオポルド王太子の魔法の一つは【魔力無効】だ。使役された魔法を無効化してしまうという、王族にとっては願ってもいない魔法。他の二つはセノフォンテら側近すらも知らされていない。
複数の魔法を有するレオポルドならば、魔法の変化について何かわかる事があるかもしれない。
「薬でも盛られたのかな。それともフランが何か……? もし自ら逃げ出したかのように演出して、実は誘拐されていたら……」
「うん……。デレッダ公爵か」
「お待たせしました」
セノフォンテがあれこれ考えを巡らせていると、聖水を手にしたアルトゥルが戻ってくる。
「ありがとう。聖水をかけるぞ。それで良いか?」
「うん。勿論」
セノフォンテは騎士服の上着を脱ぎ、シャツを脱ぎ捨て上裸になる。
「かけるぞ」の合図で瓶に入った透明な液体をセノフォンテの胸元目掛けて振りかけた。
一切水気は感じない。
反射して一瞬光った液体がセノフォンテの左胸に古代文字を浮かび上がらせる。
じんわりと滲んだ文字が少しずつ鮮明になっていく。
「これは……」
「【変化魔法】と書かれているな」
「つまり何も変わっていない、と?」
女神から祝福を賜った者は、胸に聖水をかけると体に有している魔法とその代償が古代文字で明記される。
「いや、以前より文字が濃く大きくなっている……!」
古代文字の大きさは人によって様々だ。鎖骨まで広がる大きさもあれば、拡大鏡を使わないと読めない大きさの者もいる。
そして古代文字の大きさは魔力量の多さに比例していた。
「そんなことあり得ません! 魔力量が増えるなんて、そんな方法存在しません」
「……いや、ひとつだけあるな」
顎に手を当てていたレオポルドは立ち上がり、セノフォンテとアルトゥルを見て低い声で言った。
「【魔力転移】」
「っ!」
ヒュ、と息を呑む。
貴族ならば一度は耳にした事のある魔法。
【魔力転移】により国が滅んだという昔話は有名だ。
だが実際に存在したなんて聞いたことがない。もはや伝説だと言われていた特異魔法だ。
「嘘、だろ……」
「まだ確信は持てない。しかし魔力量を操作するなんて、そんなことは【魔力転移】としか思えないんだ」
「……確かにそれならそのフラミーニアという少女が公爵家に監禁されていたのも頷けます。魔力が安定する十八歳になるまで、存在を隠し外に出さないようにするつもりだったのでしょう」
「…………っ」
フラミーニアとの思い出を思い返すと、確かに不思議な点が多かった。
犬すらも見たことのないという極端な知識の欠如。一歩も外へ出たこともなく、人と会話をしたことも殆どない。部屋の扉には幾重にも南京錠が掛けられていた。
幾つものピースがカチリと嵌まった気がした。
「俺に魔力を与えて、逃げ出した……」
「もしフラミーニアが【魔力転移】持ちであれば、彼女は公爵家の爆弾だ。なんとしても国で保護しなければならない。それに残った魔力が再び回復することを知らなければ、すぐに公爵家が魔力痕で探し出すだろう。それよりも早く見つけ出す必要がある」
冷静に状況を分析し判断を下すレオポルド。アメジストの瞳が力強く煌った。
「俺が行く」
「セノは公爵家に入り、情報を収集してください。フラミーニアさんの捜索はエヴシェンに頼みましょう。地下下水の中に入ったというのなら、出口は限られています」
「それが妥当だな」
アルトゥルは即座に王都の運河が記載された地図を広げる。レオポルドは扉を守る近衛騎士にエヴシェンを呼びつけるよう指示を出した。
「セノ、いけるか?」
「勿論」
魔法を発動させ、金色の光に包まれたセノフォンテは鷹の姿に変化する。そのまま窓から飛び出し、デレッダ公爵家を目指した。
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