稀有な魔法ですが、要らないので手放します

鶴れり

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【25】デート(2)

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「勿論、メリッサのお迎えに来たのですよ」

 一瞬でコップを空にしたアルトゥルはニコニコしながらメリッサを真っ直ぐに見つめている。

「私、まだ帰りたくないわ」
「メリッサが二十歳になるまでと、そういう約束でしたよ。とにかく一度王城へ戻ってもらいます」
「嫌よ。王城にいるといろんな匂いがして気がおかしくなりそうだもの。何回も言っているでしょう?」

 アルトゥルとメリッサを包む空気が不穏になりつつある。それをいち早く察知したセノフォンテが右手を挙げた。

「あーちょっと待って。その話長くなりそう?」
「そうですね。メリッサを説得するまでは帰ってくるなと言われていますので」
「じゃあフランと外に出てくる。昼過ぎには戻るから。行こうフラン」
「えっ……!」

 セノフォンテはフランの手を引いてそのまま外へ飛び出した。

「セノ。あの二人置いていって大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。ああ見えて仲良いから、あの二人。それよりもさ、町へいこうよ。メリッサとはあんまり行けてないでしょ」

 セノフォンテはフラミーニアの手を握りしめたまま町の方へ歩き出す。

「でも私、お金持ってないし……」
「そんなこと気にしない。俺、ずっとフランと町へ行ってみたかったんだよね。今のフランは自由なんでしょ?」
「うん……」

 掌から温もりが伝わって、心臓が激しく高鳴っている。

 自分はどうしてしまったのだろう。
 セノフォンテと再会してからなんだか自分が自分ではないみたいで。

「屋根上で食べてたのは冷たい食事ばっかりだったし。美味しいものでも食べよう!」
「うん……っ! 嬉しい!」

 パッと向日葵の様に笑った。セノフォンテと町へ行くなんて、想像しただけでも楽しそうだ。


 メリッサの家から森の中を三十分ほど歩いたところに町がある。
 王都にほど近い町で利便性が良く、規模は小さいが国民から人気のエリアだそう。地価もそれなりに高いので治安が良いのだと前にメリッサが教えてくれた。

「あー、流石にこの服だと目立つな。最初に着替えるか」

 町へ着くなり、セノフォンテは迷いなく服屋へ直行する。
 店内に入りテキパキと軽装の衣裳を選ぶと、不意にじっとフラミーニアを見つめた。

「えっと……?」

 フラミーニアは飾りが一切ついていない焦茶色のワンピース姿。白騎士服のセノフォンテとは違い、町で浮くような服ではないはず。
 基本的に森の中で生活をするのは汚れるし、薬草を扱うので暗い色味の服しか持っていない。デザイン性よりも機能性重視なのだ。

「すみません。これと、この人に似合う服も一式ください」
「セノ! 私はこのままで……」
「いいから。ただの俺の自己満足。付き合ってよ」
「あら、可愛らしいお嬢さん。こちらへどうぞ」

 マダムの店員に引っ張られて別室へ連れられる。あれやこれや洋服をあてがわれ、そのうち一枚を着せられた。
 さぁどうぞと促され、姿見を見たときは思わず目を見張った。

 マーガレットの小花柄模様のワンピース。白い花弁に黄色の花粉の色のコントラストが可愛らしい。襟ぐりは大きく開いていて肩が露出してしまっており、恥ずかしいから断ろうとしたのだが。これは流行りの型だからと圧をかけて言われてしまったので大人しく押し黙った。
 髪は編み込んですっきりとまとめてくれた。

 鏡の中にいる自分が別人みたいだ。

「元が可愛らしいから、少し華やかな服を着るだけで見違えるわ~。ほら、恋人の騎士様にも見てもらいなさないな」

 「恋人じゃないです……」という弁解の声は無慈悲に受け流される。マダムに引っ張られて軽装に着替えたセノフォンテの前に送り出された。

「あの……」
「……思ったよりも似合ってる」
「ありがとうセノ。私無地しか着たことなかったから、柄物って新鮮で何か不思議な感じがする」

 小首を傾げて控えめに微笑む。
 フラミーニアも年頃の娘だ。やはりお洒落をするのは気分が晴れやかになる。
 嬉しそうに笑顔になるフラミーニアを満足げに見つめたかと思うと、すぐに視線を逸らされた。

「マダム、ありがとうございました」
「またいつでもいらっしゃいね~」

 お世話になったマダム店員へ挨拶をし、再び手を繋いで外に出る。
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