稀有な魔法ですが、要らないので手放します

鶴れり

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【27】新しい変化(1)

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 アルトゥルが訪問してから三週間が経とうとする頃、メリッサとの平和な二人暮らしに突然異変が起きた。

「メリッサ、朝だよ」
「うん……」

 いつもは目覚めが良く早起きなメリッサだが、この頃起きるのが遅い。特に夜更かしをしている訳でもないし、睡眠に良い薬草茶を飲んでいるはずなのに。

 たまにはこういう日もあるだろうと、初めは気にしていなかった。

「ごめんね、お腹が空いてなくて。せっかくフランが作ってくれたのに残してしまったわ」
「ううんいいよ。気にしないで。体調悪いの?」
「少し疲れているのかしら……。今日は早く寝るわ」
「うん。ゆっくりしてて。あとは私がやっておくから」

 日を追うごとにメリッサの食事量が減っていく。メリッサには味覚がないので、味付けが悪いというわけではないはず。

 今までメリッサが体調を崩すなんてことなかったのに……。私がしっかりメリッサを支えなくっちゃ。

 フラミーニアはメリッサが少しでも食事を喉に通しやすくなるようにと、果実をすりおろしたり、野菜を柔らかく煮込んだりと策を講じた。しかしあまり食は進んでいない。

 ついには食べた物を戻してしまうようになってしまった。
 そしてメリッサは起き上がることすら難しくなり、日中の殆どを寝台の上で過ごすようになった。

「フラン、ごめんね」
「謝らないで。ねぇ、私はどうしたらいい? メリッサみたいに上手に薬を作れないけど、何でもするから……!」

 ポロポロと涙が溢れる。大切で大好きな友人が目の前で苦しんでいるのに、何も出来ない自分が情けなくて悔しくて。
 せっかくメリッサが薬学の知識を授けてくれたのに、こんなときに役に立たなければ何の意味もない。

 ただ泣くことしかできないなんて、そんなの嫌だった。

「泣かないで、フラン。私は大丈夫だから。しばらくしたら落ち着くと思うわ」
「だって……ご飯も殆どを食べれていないし……っ。腕なんてもう枝になっちゃうよ……」
「何言ってるの、ならないわよ。……ねぇ、フランに一つお願いしても良い?」
「うんっ! 何でも!」

 力無い手をとり握りしめる。

「カラスビシャクを取ってきて欲しいの」
「カラスビシャク……」
「森のあちこちに自生している多年草よ。地下に白い小さな球があるから見分けやすいはず」
「前にメリッサと一緒に採集したことがあるよね。多分わかると思う!」
「そのカラスビシャクの根とショウガを少量刻んで。そしてコップ一杯の水で煎じて薬草茶を作って欲しいの。出来るかしら」
「出来る! やる……!」

 「待っててね」と告げるとすぐさま薬草図鑑片手に家を飛び出した。
 毎日通っている、森の中にいくつかある薬草の自生場所をひたすら回る。

 目当ての薬草はすぐに見つかった。

「あった……!」

 間違えてはいけないので、図鑑の絵と何度も見比べる。

 葉柄が長く、下部にむかごがついている。葉は三小葉からなる複葉。花茎の先端には肉厚な花序がある。

 完全に特徴が一致する草を傷をつけないよう丁寧に採集する。地下に埋まっている球茎を掘り取った。

 必要量よりも多めに採集して籠に入れると、走って帰路に着く。とにかく、一分一秒が惜しかった。

 家に戻るとそのまま作業台へ直行した。
 丁寧に水で洗い、髭根と薄皮を剥ぎ取る。

 そして本棚からフラミーニアの手書きノートを取り出し、メリッサから教わった知識を確認しながら薬草茶を作り始めた。
 下処理をしたカラスビシャクの根を細かく刻み、秤に乗せる。同様に生姜も刻み、分量を計った後、土瓶の中に入れて水を注ぐ。

 火にかけ、あとは暫く待つだけだ。

「メリッサが元気になりますように」
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