稀有な魔法ですが、要らないので手放します

鶴れり

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【45】他には何も要らない(3)

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 次の日、額に手を当てると少し体温が下がったように感じた。

「峠は越えたようですね。次第に熱も下がり、意識も戻るでしょう」
「良かったぁ……っ!」

 王宮勤めの医師の診断を受けて、カクンと膝から崩れ落ちた。
 しかしまだ安心は出来ない。山場は越えたとはいえ、未だに熱はありセノフォンテは目を覚ましていないのだから。

 フラミーニアは再び調合室で薬草を調合し、出来立てをセノフォンテに散布した。

「フラン、セノはどう?」
「お医者さんの見立てでは峠は越えて、暫くしたら目も覚ますだろうって」
「そう、良かったわ……」

 様子を見にやって来たメリッサは、大きなお腹を抱えながら椅子に腰を下ろす。

「セノはフランに助けられたわね」
「私、何もしていないよ。ただ薬を作って塗っただけで……」
「いいえ。看病も勿論だけど、魔力量よ。フランが【魔力転移】でセノに魔力を与えていなかったら、毒に侵されて手遅れになっていたわ。魔力は毒に耐性があるから」
「そっかぁ……私の魔力、セノの役に立ったんだね」

 過去の自分の行動が、大切な人を守るために役に立ったことを知り嬉しくなる。

「セノを守れて良かった……」

 一定のリズムで呼吸をするセノフォンテの頬をそっと撫でる。

「セノには感謝しているわ。兄を守ってくれて」
「レオポルド様や他の騎士たちはどうなったの?」
「兄は騎士たちの活躍のお陰で無傷よ。騎士たちは怪我人が数人いたけれど、みんな快方へ向かっているわ」
「そう。本当に良かった、」

 漸く、強張っていた肩の力が抜けていく。

「フランも休みなさいよ。フランが倒れたら私がセノに怒られるわ。仮眠室で少しでも眠ったら?」
「ううん。セノが目を覚ました時にそばに居てあげたいの」
「そう。じゃあ私は一度部屋に戻るわ。何かあったらすぐに呼んでね」

 メリッサが退出し、眠っているセノフォンテと二人きりになる。

「セノ、王太子様も皆生きてるって。良かった……。セノのおかげだよ。早く目を覚まして」

 セノフォンテの手のひらを握ると、体温と鼓動を感じて生を実感することが出来て安心した。



 どれくらい時間が経ったのか。
 握っていた手の指がふいにピクリと動く。

「起きたの? セノ、聞こえる?」
「ん……」

 薄く瞼が開き、フラミーニアの姿を確認するとセノフォンテの頬が緩んだ。

「フラン、」
「セノ。良かったぁ、セノぉ……っ」

 無事に金色の瞳を見ることが出来て、もう涙が止まらなかった。

「せの、せの、せの……っ」

 セノが生きてる。
 それをようやく実感出来て、ずっと張り詰めていた儚い糸がプチンと切れた。

「ぅあ……うゔぅ……っ、う、あ……」

 幼子のように顔をくしゃくしゃに歪めて泣き叫ぶ。恥も醜聞も気にならないほど、感情のままに号泣した。

「ふっ……酷い顔だな」
「ぁあっ、ゔう、っ……せの、せのぉ……!」
「ごめん。ありがとな」

 セノフォンテの顔色は白かったが、口元を緩ませてはにかみ、穏やかな表情だった。

「フラン、キス、して」
「……っく……え?」
「キス」

 どうして今そんなことを……? と疑問に思う。
 しかしセノが意識を取り戻してくれたことが嬉しくて、セノがただ生きてくれていることが嬉しくて。他のことを考える余裕がない。
 フラミーニアは求められるがまま乾いた唇にキスをした。

「せ、のぉ……」
「ふっ、しょっぱい」

 緩く口角をあげて笑ったセノフォンテを見て、また更に涙が出る。

「わたし、セノが居なくなったら、どうしようって……」
「俺が居なくなったらどうする?」
「分かんない、けど。毎日泣く」
「はっ、そっか」

 毒矢を受けた左肩を庇いながら身体を起こそうとする。

「いってぇ……」
「駄目だよ、まだ安静にしなくちゃ! お水飲む?」
「飲む」

 左肩を庇いながら、コップ二杯分を一気に飲み干した。

「毒が身体を巡ってさ、あぁもう駄目かもって。朦朧とした意識の中で身体の中にあるフランの温かな魔力が、少しずつ毒を中和してくれているのが分かったんだ。あぁ、俺こんな時までフランに助けられてるって思ったよ」
「私は何にもしていないよ……」
「ううん。俺にとってフランは光だから」

 夜通し看病を続けてカサカサになった手を、大きな掌が包み込む。

「側に居てくれてありがとう」
「ううん……っ、私セノが生きていてくれたら、もう他に何も要らない……」

 再び目を覆って大泣きし始めたフラミーニアの頭を優しく撫でられる。
 その後もしばらくの間、大人げないみっともない泣き声が医務室に響いた。

 しまいには泣き疲れて、フラミーニアはセノフォンテのベッドに寄り掛かったまま眠ってしまった。
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