因縁の仲の騎士公爵との超絶不本意な結婚【R18】

鶴れり

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一章 幼馴染が絶倫色情魔になっていた(2)

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 思わずドキドキと胸が高鳴った。久しぶりに対面したロッドは落ち着きのある大人な男性になっていたから。
 シャーリーは差し出された手を掴み、地面に足をつけた。

 まさか、ロッド本人が出迎えてくれるなんて思っていなかった。剣だこのあるゴツゴツとした手は大きくて、シャーリーの小さな手をすっぽりと覆ってしまう。
 背も頭一つ分以上高い。
 なにもかも、子どものときは違う。記憶にあるロッドとの違いを改めて実感した。

「……行くぞ」

 すぐに手を離され、ロッドはさっさと玄関ホールへ向かった。エスコートはない。

(手を貸してくれたのはただの気まぐれ……かしら)

 たとえ一瞬でも、気遣いをみせてくれただけ嬉しかった。
 シャーリーは広くてたくましい背中を見ながら、公爵家に入る。
 侍女長と家令を紹介されたあと、すぐに部屋へと案内される。
 ファーカー家の使用人たちは礼儀正しくシャーリーに頭を下げているが、その目には疑心感がありありと滲んでいた。

 シャーリーは魔力を持たないけれど、公爵令嬢としての矜持は捨てていない。エヴァンズ公爵家の長女として、恥ずべきことはなにもない。背筋を伸ばし、胸を張って悠々と屋敷の中を歩いた。

 さすがは騎士家系のファーカー家。鎧像やレプリカの武器が廊下のあちこちに飾られている。華美さよりも耐久性を重視した無骨な城のような屋敷だけれど、細部まで掃除が行き届いており清潔感がある。
 あまりにも物々しい雰囲気の屋敷を見て、少しくらい花瓶を置いて花を生けたらいいのに、とシャーリーは思った。

「義母は外出中で留守にしている。先に部屋に案内する」

 嫁いでくる日とわかっていて家を空けるとは、やっぱり歓迎はされていない……と息をつく。

 そうして案内されたのは客室だった。日当たりがよく、寝室とダイニングと浴室の三部屋があり、この部屋だけで生活できる環境が整っていた。調度品は飾り気はないものの、高級な素材でできているものばかり。
 ファーカー家からの最低限の礼儀は感じられた。それだけで十分だ。

「あまりにも急だったから何も用意が整ってなくて申し訳ない。必要なものがあれば使用人に申し付けてくれ」
「ありがとう、ロッド」

 冷遇されるのは覚悟の上だったけれど、思ったよりも待遇は悪くない。
 最悪、屋根裏部屋や使用人部屋に入れられることも覚悟していた。だからこそ余計に申し訳なさで居た堪れなくなる。

 シャーリーはさっさと退室しようとするロッドを呼び止めた。

「ロッド……あの、久しぶり。あと、本当にごめんなさい。こんな形で不本意な結婚を強いることになってしまって……。ロッドにも好きな人とか、婚約を考えてる人がいただろうし、本当に申し訳ないわ……。でも約束する。一年経ったらすぐに離婚を──」
「おれのことはいいから」

 ロッドは詫びを入れるシャーリーの言葉を遮り、ペールブラウンの髪をくしゃくしゃに掻き回した。それも思いっきり。

「わ!? ちょっ、ロッド、突然なに……!?」

 腰まで伸びる長い髪が乱れて、視界が閉ざされる。せっかくセットしてきたのに、台無しだ。頭が鳥の巣のようになってしまった。

「ホレスのおっさんのことは、残念だった。彼は……本当に素晴らしい人だった。お悔やみ申し上げる」

 ロッドの静かな声に、思いがけず涙がほろりとこぼれ落ちた。

「……っ」
「こんな状況じゃ、泣く暇もなかっただろ? 今、しっかり泣いておけ。しばらく人払いをしておくから」

 そう言われて、父の埋葬後は泣いていなかったことに気づいた。悲しむ間もなく、慌ただしく準備をして嫁いできたから。
 およそ十四年ぶりに会うロッドの優しさに触れて、泣いていいんだという安心感とともに涙が滝のように溢れ出た。
 扉が閉まる音が聞こえた。
 部屋の中に、シャーリーの嗚咽声が響く。

「お父、さま……っ、お父様……!」

 ポケットから懐中時計を取り出して、大切に抱きしめる。
 偉大な父は天寿を全うした。看取ったシャーリーたちも、できることはすべてやった。けれど今の医学では限界だった。助けられなかった。
 だから父の死は受け入れて前に進まなくてはならない。

 今だけ。父の優しい微笑みを思い出して、父との大事な思い出を振り返って泣くのを許してほしい──。


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