4 / 51
一章 幼馴染が絶倫色情魔になっていた(2)
しおりを挟む思わずドキドキと胸が高鳴った。久しぶりに対面したロッドは落ち着きのある大人な男性になっていたから。
シャーリーは差し出された手を掴み、地面に足をつけた。
まさか、ロッド本人が出迎えてくれるなんて思っていなかった。剣だこのあるゴツゴツとした手は大きくて、シャーリーの小さな手をすっぽりと覆ってしまう。
背も頭一つ分以上高い。
なにもかも、子どものときは違う。記憶にあるロッドとの違いを改めて実感した。
「……行くぞ」
すぐに手を離され、ロッドはさっさと玄関ホールへ向かった。エスコートはない。
(手を貸してくれたのはただの気まぐれ……かしら)
たとえ一瞬でも、気遣いをみせてくれただけ嬉しかった。
シャーリーは広くてたくましい背中を見ながら、公爵家に入る。
侍女長と家令を紹介されたあと、すぐに部屋へと案内される。
ファーカー家の使用人たちは礼儀正しくシャーリーに頭を下げているが、その目には疑心感がありありと滲んでいた。
シャーリーは魔力を持たないけれど、公爵令嬢としての矜持は捨てていない。エヴァンズ公爵家の長女として、恥ずべきことはなにもない。背筋を伸ばし、胸を張って悠々と屋敷の中を歩いた。
さすがは騎士家系のファーカー家。鎧像やレプリカの武器が廊下のあちこちに飾られている。華美さよりも耐久性を重視した無骨な城のような屋敷だけれど、細部まで掃除が行き届いており清潔感がある。
あまりにも物々しい雰囲気の屋敷を見て、少しくらい花瓶を置いて花を生けたらいいのに、とシャーリーは思った。
「義母は外出中で留守にしている。先に部屋に案内する」
嫁いでくる日とわかっていて家を空けるとは、やっぱり歓迎はされていない……と息をつく。
そうして案内されたのは客室だった。日当たりがよく、寝室とダイニングと浴室の三部屋があり、この部屋だけで生活できる環境が整っていた。調度品は飾り気はないものの、高級な素材でできているものばかり。
ファーカー家からの最低限の礼儀は感じられた。それだけで十分だ。
「あまりにも急だったから何も用意が整ってなくて申し訳ない。必要なものがあれば使用人に申し付けてくれ」
「ありがとう、ロッド」
冷遇されるのは覚悟の上だったけれど、思ったよりも待遇は悪くない。
最悪、屋根裏部屋や使用人部屋に入れられることも覚悟していた。だからこそ余計に申し訳なさで居た堪れなくなる。
シャーリーはさっさと退室しようとするロッドを呼び止めた。
「ロッド……あの、久しぶり。あと、本当にごめんなさい。こんな形で不本意な結婚を強いることになってしまって……。ロッドにも好きな人とか、婚約を考えてる人がいただろうし、本当に申し訳ないわ……。でも約束する。一年経ったらすぐに離婚を──」
「おれのことはいいから」
ロッドは詫びを入れるシャーリーの言葉を遮り、ペールブラウンの髪をくしゃくしゃに掻き回した。それも思いっきり。
「わ!? ちょっ、ロッド、突然なに……!?」
腰まで伸びる長い髪が乱れて、視界が閉ざされる。せっかくセットしてきたのに、台無しだ。頭が鳥の巣のようになってしまった。
「ホレスのおっさんのことは、残念だった。彼は……本当に素晴らしい人だった。お悔やみ申し上げる」
ロッドの静かな声に、思いがけず涙がほろりとこぼれ落ちた。
「……っ」
「こんな状況じゃ、泣く暇もなかっただろ? 今、しっかり泣いておけ。しばらく人払いをしておくから」
そう言われて、父の埋葬後は泣いていなかったことに気づいた。悲しむ間もなく、慌ただしく準備をして嫁いできたから。
およそ十四年ぶりに会うロッドの優しさに触れて、泣いていいんだという安心感とともに涙が滝のように溢れ出た。
扉が閉まる音が聞こえた。
部屋の中に、シャーリーの嗚咽声が響く。
「お父、さま……っ、お父様……!」
ポケットから懐中時計を取り出して、大切に抱きしめる。
偉大な父は天寿を全うした。看取ったシャーリーたちも、できることはすべてやった。けれど今の医学では限界だった。助けられなかった。
だから父の死は受け入れて前に進まなくてはならない。
今だけ。父の優しい微笑みを思い出して、父との大事な思い出を振り返って泣くのを許してほしい──。
238
あなたにおすすめの小説
復讐の悪女になるはずが、天使系義兄からピュアな執着と溺愛で邪魔されてます!
鈴宮(すずみや)
恋愛
サウジェリアンナ王国の王女エルシャは、不幸だった前世の記憶を持って生まれてきた。現世ではみんなから愛され、幸せになれると信じていたエルシャだったが、生後五ヶ月で城が襲撃されてしまう。
絶体絶命かと思いきや、エルシャは魔術師の男性から救出された上『リビー』という新たな名前を与えられ、養女として生きることに。
襲撃がジルヴィロスキー王国によるものと気づいたリビーは、復讐のため王太子妃になることを思いつく。けれど、義理の兄であるゼリックがあまりにもリビーを溺愛するため、せっかく王太子アインハードに近づくことに成功しても、無邪気に邪魔され計画がうまく進まない。
ゼリックの干渉を減らすためリビーは彼の婚約者を探したり、ゼリック抜きでアインハードとお茶をして復讐を成功させようと画策する。
そんな中、十六歳に成長したリビーはアインハードと同じ学園に入学し、本格的なアプローチを開始する。しかし、ゼリックが講師として学園へ来てしまい、チャンスをことごとく潰されてしまう。
(わたしは復讐がしたいのに!)
そう思うリビーだったが、ゼリックから溺愛される日々はとても幸せで……?
【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します
大森 樹
恋愛
女子高生の大石杏奈は、上田健斗にストーカーのように付き纏われている。
「私あなたみたいな男性好みじゃないの」
「僕から逃げられると思っているの?」
そのまま階段から健斗に突き落とされて命を落としてしまう。
すると女神が現れて『このままでは何度人生をやり直しても、その世界のケントに殺される』と聞いた私は最強の騎士であり魔法使いでもある男に命を守ってもらうため異世界転生をした。
これで生き残れる…!なんて喜んでいたら最強の騎士は女嫌いの冷徹騎士ジルヴェスターだった!イケメンだが好みじゃないし、意地悪で口が悪い彼とは仲良くなれそうにない!
「アンナ、やはり君は私の妻に一番向いている女だ」
嫌いだと言っているのに、彼は『自分を好きにならない女』を妻にしたいと契約結婚を持ちかけて来た。
私は命を守るため。
彼は偽物の妻を得るため。
お互いの利益のための婚約生活。喧嘩ばかりしていた二人だが…少しずつ距離が近付いていく。そこに健斗ことケントが現れアンナに興味を持ってしまう。
「この命に代えても絶対にアンナを守ると誓おう」
アンナは無事生き残り、幸せになれるのか。
転生した恋を知らない女子高生×女嫌いのイケメン冷徹騎士のラブストーリー!?
ハッピーエンド保証します。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
虐げられた出戻り姫は、こじらせ騎士の執愛に甘く捕らわれる
無憂
恋愛
旧題:水面に映る月影は――出戻り姫と銀の騎士
和平のために、隣国の大公に嫁いでいた末姫が、未亡人になって帰国した。わずか十二歳の妹を四十も年上の大公に嫁がせ、国のために犠牲を強いたことに自責の念を抱く王太子は、今度こそ幸福な結婚をと、信頼する側近の騎士に降嫁させようと考える。だが、騎士にはすでに生涯を誓った相手がいた。
呪われた王子さまにおそわれて
茜菫
恋愛
ある夜、王家に仕える魔法使いであるフィオリーナは第三王子フェルディナンドにおそわれた。
容姿端麗、品性高潔と称えられるフェルディナンドの信じられない行動に驚いたフィオリーナだが、彼が呪われてることに気づき、覚悟をきめて受け入れる。
呪いはフィオリーナにまで影響を及ぼし、彼女の体は甘くとろけていく。
それから毎夜、フィオリーナは呪われたフェルディナンドから求められるようになり……
全36話 12時、18時更新予定
ムーンライトノベルズにも投稿しています。
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる