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それからそれから。
名前はまだない【律】
しおりを挟む「律」
以前はなんとも感じなかったのに、最近は功刀先輩に名前を呼ばれるとくすぐったい。
ただ撫でるだけだった手が、髪を漉くように。
ぽんぽんとのせるだけだった手が、そのまま首元を撫ぜるように。
手のひらをマッサージしていた手が手首より上に伸び撫で擦るように。
そして名を呼ぶ声が何かを含んでいるように。
居酒屋での飲み会から半年近く。
この関係にまだ名前はない。
ゆるゆると、進んでいるのか保留なのか。
もどかしくてもどかしくて。
でも、自分からなんて言っていいかわからなくて。
だからといって功刀先輩に来てほしくないわけじゃなくて。
胸が苦しくなる。
「どうかしたか?」
え?
「泣きそうな顔になってる」
シワが寄ってたのか、眉間をぐりぐり押してくるせいでのけぞってしまう。
首が反ったせいか、ちょっと息苦しい。
功刀先輩が、屈んで私を抱き上げるように膝の間に座らせた。
恥ずかしいが、寝室に逃げない限り、功刀先輩は捕まえる。
赤面するのはとめられないが、抗議の意味で抱き寄せようとする手をパシリと打つ。
それでも気にせず功刀先輩は私を抱き寄せる。
「なんかあったら相談にのるぞ?」
仕事終わりの金曜日。
先に帰った私は食事の用意をすると軽くシャワーを浴びる。
長いタオル素材の長袖ワンピースを部屋着に、くつろぐと大体は8時頃に功刀先輩は来る。
いつも通り青果を手土産に部屋へあがると、なでなでタイムが始まるのだ。
1日仕事した分の汗の匂い。
鎖骨に顔を、埋めるように抱き寄せられてるせいか顔を見られる心配がないのはありがたい。
きっとだらしない顔をしているから。
ああ、この状態が続けばいいのに。
この関係に名前をつけるのは……まだ待ちたい。
了
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