元社畜とツンデレ騎士様と時々魔物

睡眠丸

文字の大きさ
19 / 22
本格始動!喫茶店!

ハーメルンの社畜(2)

しおりを挟む

 引き続き、歌いながら、街の中を歩く。

 私の後ろには、中学生くらいの女の子であったり、暇を持て余したような猫耳娘、それから聞きほれているように頷きながら歩く男性。様々な人がついてきている。

 数にして十人いないであろう。しかし、それで充分すぎるくらいだ。

 宣伝の目的は果たしているし、かつお客さんとして十人弱を連れてお店まであるいているのだから。
 そしてその、最後尾は全身鎧男なのである。

「さ、さぁさ、お立会い! 歌とともに足を動かせー!」

 戸惑いながらも、一生懸命ソルは声を出している。
 クラウスさんが先ほど呼んだのはソルだった。

 ソルと一緒に街頭演説をすることこそが、クラウスさんの提案であった。理由としては、女の子一人で頑張ってもらうのは忍びないから、ということで。

 ……あれ? 私、その前に一人で街歩きをしたような。

 まぁ、いいか。
 人手が多いことに越したことはない。
 クラウスさんと何を取引したのかは知らないけれど―ーー弱みでも握ってるのか知らないけれど。

「歌を聞きたいのなら、楽しいことをしたいなら。グリッサムがお手伝いー!」
 
 ソルは大人しく客引きをしていることだし、問題ない問題ない。
 
 音楽と、足音と、鎧の音。大通りの真ん中をまるでパレードのように歩いた。
 
 終着点は、もちろん喫茶グリッサムである。
 
 何の変哲もない喫茶店の前にて、曲を止める。観客に向き直り、営業スマイルで微笑む。

「ご清聴ありがとうございました。少し歩いて疲れたでしょう。喫茶グリッサムにておくつろぎください」

 ついてきた観客に向けてうやうやしく礼をする。

 突然、歌が終わり、我に戻ったかのような観客たちは喫茶店を見ていた。

 私の意図に気づき、笑う人、苦笑いをする人、納得して帰ってしまう人等いろいろだったけれど、半数は喫茶店の中に入っていった。

 これは―――もちろん、大成功である。

 昨日はゼロ人、今日は六人もお客さんが入ったのだから。
 こうしちゃいられない。

「あ、おい。お前どこに行くんだ。宣伝はもう終わりか?」

 お客さんの後ろから喫茶店に入ろうとする私に、ソルが声を投げた。

「え、オーダー聞いたり、席に案内するんですよ! ホール担当は私だけなんですから!」

 そう叫べば、なるほど、と一つソルは呟いた。

「じゃあ、帰るからな」
「何言ってるんですか、ソル。まだまだやりますよ。お店の隅っこで大人しく待っててくださいね!」

「なっ」

 わざわざソルを呼び出して、一回こっきりの街頭営業なわけがない。

 クラウスさんが箱に対して何か嫌なものを感じていて、ソルなしでは外に出て行くことを認めないというのならば。彼がいてくれる時にはより多く外に出て行った方がいい。
 
 今いるお客さんが落ち着いたら、再び同じことを繰り返す。
 
 出たり入ったり、呼び込みしてホールで働いて。


 これを今日は閉店まで行う予定である。
 
 労働基準法とは一体なんだったのだろうと、頭を抱えたくなるほどのブラックさである。ここが日本ならば私は労働局へ訴えていたところであるが、ここは異世界である。
 
 そして自分の発案である。
 
 やるしかない、やるしかない。
 
 ソルには大変申し訳ないけれど、今日一日は付き合ってもらおう。

「あとで何か驕りますからね。クラウスさんが」
「お前じゃないのかよ」

 後ろから呆れたような声が聞こえてきた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』

しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。 どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。 しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、 「女は馬鹿なくらいがいい」 という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。 出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない―― そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、 さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。 王太子は無能さを露呈し、 第二王子は野心のために手段を選ばない。 そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。 ならば―― 関わらないために、関わるしかない。 アヴェンタドールは王国を救うため、 政治の最前線に立つことを選ぶ。 だがそれは、権力を欲したからではない。 国を“賢く”して、 自分がいなくても回るようにするため。 有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、 ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、 静かな勝利だった。 ---

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

処理中です...