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本格始動!喫茶店!
ハーメルンの社畜(2)
しおりを挟む引き続き、歌いながら、街の中を歩く。
私の後ろには、中学生くらいの女の子であったり、暇を持て余したような猫耳娘、それから聞きほれているように頷きながら歩く男性。様々な人がついてきている。
数にして十人いないであろう。しかし、それで充分すぎるくらいだ。
宣伝の目的は果たしているし、かつお客さんとして十人弱を連れてお店まであるいているのだから。
そしてその、最後尾は全身鎧男なのである。
「さ、さぁさ、お立会い! 歌とともに足を動かせー!」
戸惑いながらも、一生懸命ソルは声を出している。
クラウスさんが先ほど呼んだのはソルだった。
ソルと一緒に街頭演説をすることこそが、クラウスさんの提案であった。理由としては、女の子一人で頑張ってもらうのは忍びないから、ということで。
……あれ? 私、その前に一人で街歩きをしたような。
まぁ、いいか。
人手が多いことに越したことはない。
クラウスさんと何を取引したのかは知らないけれど―ーー弱みでも握ってるのか知らないけれど。
「歌を聞きたいのなら、楽しいことをしたいなら。グリッサムがお手伝いー!」
ソルは大人しく客引きをしていることだし、問題ない問題ない。
音楽と、足音と、鎧の音。大通りの真ん中をまるでパレードのように歩いた。
終着点は、もちろん喫茶グリッサムである。
何の変哲もない喫茶店の前にて、曲を止める。観客に向き直り、営業スマイルで微笑む。
「ご清聴ありがとうございました。少し歩いて疲れたでしょう。喫茶グリッサムにておくつろぎください」
ついてきた観客に向けてうやうやしく礼をする。
突然、歌が終わり、我に戻ったかのような観客たちは喫茶店を見ていた。
私の意図に気づき、笑う人、苦笑いをする人、納得して帰ってしまう人等いろいろだったけれど、半数は喫茶店の中に入っていった。
これは―――もちろん、大成功である。
昨日はゼロ人、今日は六人もお客さんが入ったのだから。
こうしちゃいられない。
「あ、おい。お前どこに行くんだ。宣伝はもう終わりか?」
お客さんの後ろから喫茶店に入ろうとする私に、ソルが声を投げた。
「え、オーダー聞いたり、席に案内するんですよ! ホール担当は私だけなんですから!」
そう叫べば、なるほど、と一つソルは呟いた。
「じゃあ、帰るからな」
「何言ってるんですか、ソル。まだまだやりますよ。お店の隅っこで大人しく待っててくださいね!」
「なっ」
わざわざソルを呼び出して、一回こっきりの街頭営業なわけがない。
クラウスさんが箱に対して何か嫌なものを感じていて、ソルなしでは外に出て行くことを認めないというのならば。彼がいてくれる時にはより多く外に出て行った方がいい。
今いるお客さんが落ち着いたら、再び同じことを繰り返す。
出たり入ったり、呼び込みしてホールで働いて。
これを今日は閉店まで行う予定である。
労働基準法とは一体なんだったのだろうと、頭を抱えたくなるほどのブラックさである。ここが日本ならば私は労働局へ訴えていたところであるが、ここは異世界である。
そして自分の発案である。
やるしかない、やるしかない。
ソルには大変申し訳ないけれど、今日一日は付き合ってもらおう。
「あとで何か驕りますからね。クラウスさんが」
「お前じゃないのかよ」
後ろから呆れたような声が聞こえてきた。
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