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第二章 多々良さんと水曜日
多々良さんと図書館(2)
しおりを挟む「でも、嫌なんですよ」
「メガネかけてないけど、今は見えてるの?」
小首を傾げながら多々良さんは聞く。彼女は、コンプレックス等何もない存在である。
だって完璧だし。
放課後の図書室で、僕たちはひっそりと話をしていた。
毎週一度の図書当番、水曜日は多々良さんと一緒なのだ。
キャッチボールをした二日後、図書室の受付カウンターの中で、多々良さんは僕の方を見ている。
半そでのセーラー服から伸びた手足は、とても夏らしい、しかし雪のように白い肌である。
「いえいえ。今はコンタクトをしてるので、多々良さんの毛穴まで見えますよ」
「気持ち悪い」
清々しいほどの拒絶であった。
多々良さんは頬杖をつく。
「目が悪い、なんて大したコンプレックスじゃないわ」
そりゃあ完璧な人間からしてみればそうでしょうよ。
多々良さんの、宝石でも入れ込んだようなキラキラと鈍色に光る瞳は、けだるげに積まれた本を見ていた。
返却された本をどうすれば楽に本棚に返せるかを考えているのだろう。
答えは簡単、僕に押し付ければいいのだ。ええ、はい、わかっていますよ。
「自力で解決できるコンプレックスの内に入るじゃないの、それ」
「ブルーベリー食べたら治りますかね」
「そんな魔法の薬でもないと思うけれど、実際、コンタクトレンズという道具を使うことで何も問題なく日常生活を送ることができているじゃない」
涼しいクーラーの微風が、多々良さんの前髪をなでる。彼女は何も分かっちゃいない。
「人間というものは、より高い幸福を求めるものなのです。日常生活を送ることができるのは、人類として最低限
の幸福であります。コンプレックスとはいわばマイナスの存在であり、日女生活を送れるという行為はいわばゼロの幸福。つまるところ、コンプレックスのある僕の生活は、マイナス方向に傾いており、これをプラスにするために、コンプレックスをなくす、隠す、または日常生活の中のちょっとした幸福を探しだし、マイナス分をうめていくしかほかないのです。結局のところ、日常生活だけで満足しろ、というあなたの発言は、僕の様な平々凡々な人間が幸福を得ることを否定する発言です。」
多々良さんはお上品に口元を抑えながら、コホンと一つ咳をして。
「話は変わるけど、本棚に返却本戻してくれない?」
……どうやら何にも聞いていなかったみたいだ。
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