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第五章 始まりの多々良さん
あなたは多々良さん?(1)
しおりを挟む「っていうことを三郎と話してたんですけど、どう思いますか?」
僕の独りよがりな関係性の呼称の件は放っておいて、とりあえず多々良さんの完璧な顔を歪めるために『多重人格説の話』を吹っかけてみる。
「ほぼ答えを言ってるじゃない、その会話」
え?
呆れた声を出す多々良さん。
月曜日、キャッチボールから一週間の事、というより三郎と話した数時間後、僕は多々良さんと話していた。
夕焼けのオレンジは多々良さんの黒髪と溶けていて、まるで高尚な絵画のようであった。
放課後の、河川敷ではなく、小さな公園の中で話していた。多々良さんはブランコに座り、僕はその前にある鉄柵の上に腰掛けている。
毎週月曜日は、この小さな公園で待ち合わせた後で、彼女の顔を歪ませるだろうなにがしかをすることとなっている。
もちろん、『彼女の顔を歪ませるため』というくだりは多々良さんには秘密だ。
……ばれているような気もするけれど。
「え、多々良さん、多重人格だったんですか! 三郎の妄想って思ってたんですけど」
「三郎って誰よ」
少し困ったような声音である。友達だと主張する三郎君は本当に惨めである。
「多重人格なんかじゃないわ。でも、あなたが目をつぶっている答えに近い、って言ってるの」
多々良さんはちょっとイラッとしている。
「僕、目を開いてますよ?」
「何も見えなかったら同じことよ」
はて、目を開いているのに、見えないことなどあるのだろうか。
多々良さんはブランコに乗り、少女のように遊ぶことなく物憂げにうつむいている。
美しい。
「あなたは、自分自身さえ欺いているのよ」
そんな、スタイリッシュなバンドの歌詞みたいな事が、僕に起こっていると思ってくれるなんて、多々良さんはなんて優しいんだろう。
世界はこんな、欠点まみれの屋の奴に対してドラマティックな何某を起こす暇なんてないのだ。多々良さんは、僕を一人の人間として見てくれているから、そんなことを言うのだ。
ああ、なんて優しいのだろう。
「自分自身に嘘をつく、というのは、どういう気持ちなのかしら」
真っ白い多々良さんのカッターシャツの輪郭はオレンジ色に染まっている。
目にいたいくらいの夕焼け。
僕は多々良さんのいうことを理解しにくい。
「嘘も方便。嘘からでた真。でも限界はあるわ。」
図書室の時の多々良さん。
お家にいるときの多々良さん。
最近多々良さんは、僕が理解できない言葉ばかり発するから困る。
少女は、一つため息をついた。
「そういえば風邪は治ったんですか?」
「本当に脳みそ消しゴムね。話を聞く気がないのね」
夕日と、黒髪と、不機嫌な少女。とても完璧な構図であった。
カアカアという間抜けな鳥の声が頭上を通り過ぎたところで本題に入ろうと思う。
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