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第五章 始まりの多々良さん
あなたは多々良さん?(6)
しおりを挟む多々良さん。
多々良さん。
多々良さん。
キャッチボールをした多々良さん。
図書委員の多々良さん。
風邪を引いた多々良さん。
全て別の、多々良さん。
本当はとうに理解していた。
3人姉妹の、多々良さん。
だけど彼女たちの個を、判別することが、できない。
頭がクリアになる。
詰まっていたものが、とれた感覚。
真っ白な光に包まれたような、記憶達。
僕は―――。
「はい」
認める。
「あなたは、もともと、人の顔が認識できにくい、人間だった」
「僕は、人の顔が認識できにくい人間なんです」
「本来なら、分かるはずなのに、わからない」
「完璧な人間ほど、綺麗な顔立ちほど、よく把握できなくなってしまうんです」
「着ている服は特に、私たちは違うのに」
「それでも、僕は、あなたたち三人が、すべて同じに見えてしまう」
「歳も、性別も、違う子なのに」
「でも僕は、あなたたちを判別することが―――できない」
「コンプレックス」
「僕は思い込もうとしていた」
「あなたは自分を騙して、自分の嫌な部分を隠そうとした」
そうでしょう?
コンプレックス。
人の顔を覚えられない、というものではない。認識できない。
症例は様々で、日常生活を送るのに支障が出るものから、軽度のものまで。僕は、どちらに分類されるのだろうか。
瞳や、鼻筋、唇やほくろ、細かなところは把握できるけれど、全てを統合して『顔』という情報を処理することが難しい。
テレビに映る、芸能人の顔は、全て同じに見える。顔や体系は違うはずなのに。
雑誌に載っているモデルの顔も、体型も、全て、違いがあるように思えない。服装など、違うことは分かるのだけど、それでも。
「わからないんだ。完璧な人間の、顔が。綺麗な人の顔が。あなたたちが」
「だからあなたは、私の顔を崩そうとしたのね」
歪んだ顔を見ようとしていた。
「表情を、顔を崩せば、認識できるはずだから―――」
「あなたは、本当にどうしようもない人間ね」
泣きたくなるほど、どうしようもない。認識できないと言う事実。
何故だか多々良さんの方が、よっぽど泣きそうな声だった。
しかし、依然として顔は見えない。靄がかかったように、彼女の顔を見ることができない。
手で取り払ってしまえれば、どれだけ良いだろう。
悲しそうな声を出す彼女は一体誰なのか。
欠点。
目が悪い、それもある。
コンプレックス。
顔を認識できないということ。
僕自身は、それを人間的欠陥だと思っている。
とても悲しそうな目をする彼女の―――名前が分からない僕は、欠陥人間なのだ。
「ごめんなさい」
多々良さん。
多々良姉妹の中の、一人であることしか、僕には分からない。
ごめんね。ごめんなさい。
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