例えこの想いが実らなくても

笹葉アオ

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11)華麗なるフォンラン侯爵家

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 このお城で味方がいないのが1番の障害だったので、利害の一致とはいえ、仲間ができたのは嬉しい。


 フリエとクリスは裏表がなさそうだし、清々しい性格だからユーリアも嫌いじゃない。



 そんなことを考えながら、今夜も夫であるフォンラン侯爵の手を握りながら話を聞く。


 「ーそうだねぇ、私は強くて信念があるやつが1番好きだね。」


 夫はキラキラした目で語った。フリエの言う通り、本当にこの家の序列は強さで決まるみたいだ。



 「強い…ですか。ねぇあなた、私、騎馬試合て見たことないの。強さを競い合うものだと本で読んだのだけど。」



 「見たことないのか!私も昔は試合の花形だったんだよ。あれはまだ私が騎士として叙任を受けたばかりで…」



 夫の長い話はいつものことだ。終わるまでじっとユーリアは耳を傾けた。



 そして夫は満足したように昔話を終えて続けた。

 「あれは若いものの試合だから、私が出るわけにはいかないが…。そうだな久しぶりに開催するのも悪くない。」

  

 「まあうれしい!」



 「最近目立った戦もなく、我が家におる傭兵たちも腕を鳴らす場がなくて嘆いてたところだろう。」



 「あなたの子どもたちはこういった事お好きじゃないかしら…?」
 


 「いやあいつらはれっきとした騎士だ。誇りを持って試合に出たがるだろう。しかも私の息子たちだからな、血が騒ぐだろうよ。」



 「差し出がましいお願いだと思ったのだけど、よかったです。」



 「さすがに息子全員出したら我がフォンラン家が勝利を独占しすぎるからな。そうだな、クリスとグランに出てもらおうか。2人とも若いが強い。」

 クリスは第三夫人の長男、グランは第二夫人の長男で、2人には因縁があるが、家庭に無頓着な夫は我関せずなのか、もしくは知らないらしい。
 

 「それは楽しみですわ。大々的にやらないともったいないくらい。」



 「そうだな。民衆もたまには楽しい催しでも見たいだろう。領民も呼んでやるとしよう。」
 


 フォンラン侯爵はニコニコしながら眠りについた。



—————



  「つまりその試合で勝って、グランをぎゃふんと言わせるということ?」


 フリエは自分の部屋のソファに座り、目の前に座るユーリアに聞いた。


 「ええ、強さを重んじるフォンラン家ですもの。家族全員だけでなく、領民の目の前で勝てば名実ともにあなたたちの勝利よ。」


 「そんな簡単な話とは思えないけどな。」


 窓辺にもたれ掛かりながら、クリスが疑いの眼差しを向ける。


 「グランは陰湿だ。そんなことで引き下がるとは思えない。」


 「ええ、そうかもしれない。でもまずこの試合に勝つことが重要よ。もしかして、勝つ自信、ない?」


 ユーリアは挑戦的な目でクリスを見た。
 クリスはカッとした表情で言った。
 

 「舐めるな。俺が勝つに決まってる!そもそも分かってないかもしれないが、俺はお前を完全に信用していない。一応味方として最低限の礼儀を見せてやってるだけだ!」

 
 真っ赤になるグランを見ながら、
 「勝てるならよかった。」
 ユーリアは微笑む。


 その様子を見ながら、
 「正々堂々と戦えば間違いなくクリスが勝つわ。でもあいつ姑息だから…。」
 とフリエは心配そうに呟いた。

 
  
 屋敷の中では、クリスが執事に制裁をを与えて以来ユーリアの周りは静かだった。
 しかし、ユーリアがフリエとクリスと手を組んだとなれば、今後また事態は変わるかもしれない。特に試合となれば、どんな手を使ってでも勝利を掴みにくることが容易に想像がつく。



 「大丈夫。そのあたりは手を打ってるわ。」


 ユーリアはもうすでに兄に相談していた。そもそもここに嫁ぐと決まってから、いろいろ裏で工作をしているらしかった。



 「だから心配しないで勝っちゃいましょう。」
 


 ユーリアは笑顔でフリエとクリスを見返した。


 ————-


 ーコツコツ


   ユーリアと待女のノーラの足音が城の回廊に響く。今日はあいにくの曇り模様で、回廊はどんよりとしている。はっと前を見ると、柱にもたれかかっているグランがいた。


 すぐ近くを通りかかるや否や、グランから声をかけてきた。


 「こんばんは、母上。ご挨拶がまだだったので遅くなりましたが伺いました。」


 「いえ、こちらこそご挨拶がちゃんとできていなくて申し訳ありません。」


 グランはちらっとノーラを見る。


 「一度2人でお話ししたいのですが、よろしいですか?」


 「…ええ。」


 ユーリアはニッコリ微笑んでノーラを部屋に先に帰らせた。

 いい話ではないと分かっていたが、こんな所で変な真似はするはずがないと思ったこともあるし、ユーリアも一度直接話したかった。


 グランは中肉中背で背はさほど高くない。フォンラン家特徴の金髪をオールバックに固め、その下の太い眉毛はハの字形で眉間に皺が寄っていた。それがいやらしさを感じさせた。



 「単刀直入に言います。本当にクリス達側につくのですか?」



 「側につく?」
 ユーリアはキョトンとした顔を見せた。



 「下賤な男爵家の女から生まれた2人です。騙されていないか心配です。」
 


 「それは…私も男爵家出身ですが。」
 


 するとグランはまくし立てるように話し始める。

 「あなたとは訳が違いますよ!お金もない何の取り柄もない貴族だったくせに、父上にすり寄って、いかがわしい手を使って妻となったんだ。そんな人から産まれた奴らなんだ、またどんな手を使うか分かったもんじゃない…。」


 ユーリアは困った様子で、
 「夫の妻がどんな方だったかは存じ上げませんが、その子どもだからといって、何の責めもないと思いますが。」
 と答えると、



 突然、ドンッ!と

 グランは回廊の柱を拳を横に動かし叩いた。そしてイライラした様子で話した。



 「…それが答えですね?私はせっかちなんだ。この屋敷のほとんどが…そう、父上の子たちもだ。みんな私側についている。だからそちらについても何の得もないと思いますがね。」




 「さきほどから何のことかさっぱり。」
 


 「そうですか。とぼけるならこちらも手はあります。今度こそあなたにどんなことがあっても知りませんよ。その覚悟がおありだということでよろしいですな。」


 グランは額に青筋を走らせ、眉毛をピクピクと震わせながらユーリアを睨みつけてた。


 
 ユーリアはニコッとして、
 「ごめんなさい。私頭が悪いのでよくわかりません。」

 と答えてその場を立ち去った。



 その背中をグランは厳しい表情で睨みつけていた。
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