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第六章 波乱から始まる新婚生活
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「きゃー、やめてぇ!」
お腹や脇の下あたりをコチョコチョと攻撃してきた。くすぐったくて、思わずソファに横たわる。なおも攻撃の手を緩めない大翔は、私の上に覆いかぶさるような体勢になった。
あれ、なんか、この体勢ちょっと……。
気がついたら押し倒されるような恰好になっていて、大翔と目が合い、気まずい雰囲気が流れる。
大翔は私をくすぐっていた手を止めて、じっと私の顔を見下ろした。
「捺美……」
普段はお前呼びのくせに、こういう時は名前で呼ぶところ、ずるいと思う。心拍数が否応なしに上がっていく。
だんだんと顔が近づいていく。どうしよう、これ、キスされる。
目が泳いで、戸惑っている私を察して、大翔が優しく囁く。
「嫌か?」
また、この質問。絶妙にずるい問いかけ。
「嫌……じゃ、ない……」
嫌なわけじゃないけど、決していいわけでもない。でも、拒絶するわけでもなく、はねのけるわけでもなく、受け入れてしまう私もどうかと思う。
大翔の目が閉じ、ゆっくりと唇に触れる。結婚式での儀礼的なキスではなく、感情のこもった温かく甘いキスだった。
私も目を閉じて、長いキスを受け入れながら、溺れていく。
大翔との新婚生活は、想像していた以上に快適で穏やかな日々だった。
朝食を大翔は取らないので、自分の分だけ簡単に用意する。その横で大翔はとても美味しいコーヒーを淹れてくれる。大翔は世話好きで、私に甘い。大切な一人娘を溺愛する父親みたいに、適度な距離を保って見守ってくれているのがわかる。
高城さんが運転する車に乗って、二人揃って出勤。
私たちが結婚したことは社内の誰もが知っている。これまで陰口や嫌味を言ってきた女子社員たちは、急に優しくなった。
「お友達になってください」
なんて言われた時には、吐き気がした。もちろん丁重にお断りして、一匹オオカミを貫いている。
佐伯さんは相変わらず鬼のように仕事を振ってきて、営業部長から注意を受けている。
「捺美さんは社長夫人なのだから、仕事量考えてよ」
営業部長にたしなめられると、佐伯さんは一刀両断に返す。
「そんなの関係ないですよ」
私の周りにいる人たちはみんな態度が変わってしまったけど、唯一普通に接してくれたのは佐伯さんだった。厳しいけれど、佐伯さんの下で働けて本当に良かったと感謝した。
その後、営業部長には私から佐伯さんに普通に接してもらってとても感謝していることを伝えた。
すると営業部長は、「え、そうなの?」と困惑していたが、受け入れてくれた。
社員が社長夫人になってしまって、一番扱いに困っているのは営業部長だと思う。その心労を考えると申し訳ないけれど、私だってこの仕事を辞めるわけにはいかないので、周りには気の毒だけれど慣れてもらうしかない。
私もめちゃくちゃやりづらいから、お互い様だと思うことにする。そう思わないとやってられない。
仕事が終わると、大翔と一緒にディナーを食べる。連れて行ってくれるのは、どれも高級店でとても美味しい。家に帰ったらハウスキーパーさんが掃除をしてくれているので、なにもすることがない。
こんなに贅沢な暮らしをさせてもらっていいのだろうかと思うけれど、大翔はとことん私を甘やかそうとしてくるので、私は駄目人間になるのではないかと危機感を抱くこともある。
実家では全ての家事を私がやってきていたことを知っているからか、いかに私に何もさせず過ごさせるかが徹底している。
たしかに大変だったけれど、料理は別に嫌いなわけじゃない。ただ、いつも高級店の料理を食べている大翔に振る舞えるほどの実力はない。
でも、いつか作って食べてほしいなとも思っているのだ。
お風呂から上がってリビングに行くと、ソファに座りながら書類と睨めっこしている大翔がいた。
キッチンに行き、冷凍庫から棒アイスを取り出し、食べながら大翔の側に寄った。
隣に座り、書類を覗きこむと、英文だったので読む気が失せた。
「仕事?」
「うん」
「大変だねぇ」
大翔の肩に背中を寄せて、もたれかかりながらアイスを食べる。仕事の邪魔にならないように大人しくしているという考えは、残念ながら私にはない。
「重い」
「そうか、頑張れ」
もはや大翔が社長であるということは、忘れ去られているのではないかと思う言動だ。忘れているわけではないのだけれど、私の中では、もう大翔は大翔だ。
「人の肩を背もたれにして、優雅にアイスとはさすがだな」
「うむ、くるしゅうない」
大翔はふふっと笑って、再び書類に目を落とした。わがままも甘えも、全部許容してくれる。大翔といると、自分が自分でいられる。
なんだろう、この胸の奥から湧き上がる温かい気持ち。大翔の側は、居心地がいい。
「俺にもエネルギー補給させろ」
「ひゃああ」
急に大翔が動くから、私の頭はソファの上に落っこちた。
真上から意地悪な瞳で私を見下ろす大翔。下から見ても完璧すぎるほどかっこいい。しかも不敵な笑みがよく似合う。
「キスしていい?」
大翔にとってはキスがエネルギー補給ってこと?
「アイス溶ける」
「俺よりアイスの方が大事なのか」
ちょっぴりいじけた顔も可愛い。
「アイスが溶けない間ならいいよ」
大翔は微笑んで、軽いキスを落とした。
それで終わると思ったら、今度は啄むようなキス。リップ音を鳴らせながら、何度も何度も唇を重ねる。
目を閉じて、大翔のキスを受け入れていると、ポトっと鎖骨に溶けたアイスの水滴が降ってきた。
「溶けた……」
私が言うと、大翔は私の鎖骨の上に落ちたアイスをペロリと舐めた。
「まだ溶けてない」
そう言ってまたキスをする。
アイスはもういいや。大翔のキスの方が甘いから。
お腹や脇の下あたりをコチョコチョと攻撃してきた。くすぐったくて、思わずソファに横たわる。なおも攻撃の手を緩めない大翔は、私の上に覆いかぶさるような体勢になった。
あれ、なんか、この体勢ちょっと……。
気がついたら押し倒されるような恰好になっていて、大翔と目が合い、気まずい雰囲気が流れる。
大翔は私をくすぐっていた手を止めて、じっと私の顔を見下ろした。
「捺美……」
普段はお前呼びのくせに、こういう時は名前で呼ぶところ、ずるいと思う。心拍数が否応なしに上がっていく。
だんだんと顔が近づいていく。どうしよう、これ、キスされる。
目が泳いで、戸惑っている私を察して、大翔が優しく囁く。
「嫌か?」
また、この質問。絶妙にずるい問いかけ。
「嫌……じゃ、ない……」
嫌なわけじゃないけど、決していいわけでもない。でも、拒絶するわけでもなく、はねのけるわけでもなく、受け入れてしまう私もどうかと思う。
大翔の目が閉じ、ゆっくりと唇に触れる。結婚式での儀礼的なキスではなく、感情のこもった温かく甘いキスだった。
私も目を閉じて、長いキスを受け入れながら、溺れていく。
大翔との新婚生活は、想像していた以上に快適で穏やかな日々だった。
朝食を大翔は取らないので、自分の分だけ簡単に用意する。その横で大翔はとても美味しいコーヒーを淹れてくれる。大翔は世話好きで、私に甘い。大切な一人娘を溺愛する父親みたいに、適度な距離を保って見守ってくれているのがわかる。
高城さんが運転する車に乗って、二人揃って出勤。
私たちが結婚したことは社内の誰もが知っている。これまで陰口や嫌味を言ってきた女子社員たちは、急に優しくなった。
「お友達になってください」
なんて言われた時には、吐き気がした。もちろん丁重にお断りして、一匹オオカミを貫いている。
佐伯さんは相変わらず鬼のように仕事を振ってきて、営業部長から注意を受けている。
「捺美さんは社長夫人なのだから、仕事量考えてよ」
営業部長にたしなめられると、佐伯さんは一刀両断に返す。
「そんなの関係ないですよ」
私の周りにいる人たちはみんな態度が変わってしまったけど、唯一普通に接してくれたのは佐伯さんだった。厳しいけれど、佐伯さんの下で働けて本当に良かったと感謝した。
その後、営業部長には私から佐伯さんに普通に接してもらってとても感謝していることを伝えた。
すると営業部長は、「え、そうなの?」と困惑していたが、受け入れてくれた。
社員が社長夫人になってしまって、一番扱いに困っているのは営業部長だと思う。その心労を考えると申し訳ないけれど、私だってこの仕事を辞めるわけにはいかないので、周りには気の毒だけれど慣れてもらうしかない。
私もめちゃくちゃやりづらいから、お互い様だと思うことにする。そう思わないとやってられない。
仕事が終わると、大翔と一緒にディナーを食べる。連れて行ってくれるのは、どれも高級店でとても美味しい。家に帰ったらハウスキーパーさんが掃除をしてくれているので、なにもすることがない。
こんなに贅沢な暮らしをさせてもらっていいのだろうかと思うけれど、大翔はとことん私を甘やかそうとしてくるので、私は駄目人間になるのではないかと危機感を抱くこともある。
実家では全ての家事を私がやってきていたことを知っているからか、いかに私に何もさせず過ごさせるかが徹底している。
たしかに大変だったけれど、料理は別に嫌いなわけじゃない。ただ、いつも高級店の料理を食べている大翔に振る舞えるほどの実力はない。
でも、いつか作って食べてほしいなとも思っているのだ。
お風呂から上がってリビングに行くと、ソファに座りながら書類と睨めっこしている大翔がいた。
キッチンに行き、冷凍庫から棒アイスを取り出し、食べながら大翔の側に寄った。
隣に座り、書類を覗きこむと、英文だったので読む気が失せた。
「仕事?」
「うん」
「大変だねぇ」
大翔の肩に背中を寄せて、もたれかかりながらアイスを食べる。仕事の邪魔にならないように大人しくしているという考えは、残念ながら私にはない。
「重い」
「そうか、頑張れ」
もはや大翔が社長であるということは、忘れ去られているのではないかと思う言動だ。忘れているわけではないのだけれど、私の中では、もう大翔は大翔だ。
「人の肩を背もたれにして、優雅にアイスとはさすがだな」
「うむ、くるしゅうない」
大翔はふふっと笑って、再び書類に目を落とした。わがままも甘えも、全部許容してくれる。大翔といると、自分が自分でいられる。
なんだろう、この胸の奥から湧き上がる温かい気持ち。大翔の側は、居心地がいい。
「俺にもエネルギー補給させろ」
「ひゃああ」
急に大翔が動くから、私の頭はソファの上に落っこちた。
真上から意地悪な瞳で私を見下ろす大翔。下から見ても完璧すぎるほどかっこいい。しかも不敵な笑みがよく似合う。
「キスしていい?」
大翔にとってはキスがエネルギー補給ってこと?
「アイス溶ける」
「俺よりアイスの方が大事なのか」
ちょっぴりいじけた顔も可愛い。
「アイスが溶けない間ならいいよ」
大翔は微笑んで、軽いキスを落とした。
それで終わると思ったら、今度は啄むようなキス。リップ音を鳴らせながら、何度も何度も唇を重ねる。
目を閉じて、大翔のキスを受け入れていると、ポトっと鎖骨に溶けたアイスの水滴が降ってきた。
「溶けた……」
私が言うと、大翔は私の鎖骨の上に落ちたアイスをペロリと舐めた。
「まだ溶けてない」
そう言ってまたキスをする。
アイスはもういいや。大翔のキスの方が甘いから。
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