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弟の彼女
2.弟の彼女②
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そんな俺と兄の日常が続いていた頃、俺は高校から帰ってきて珍しく自室で参考書を解いていた。
高校二年の秋と言うのもあり、受験がそろそろ間近に迫っていた。
学校全体でも周りの友人の間でも、受験モードの雰囲気が漂い始め、俺もそろそろやらなきゃなと授業の時にしか開かない参考書を引っ張り出したのだ。
新品同様の参考書とにらめっこをし、それでも分からなかったので教科書と板書を取ったノートを開く。なんで高校数学ってこんなに難しいんだ。わけのわからない数字とアルファベットの羅列を見据えてため息をついた。
自分で言うのもなんだけど、俺は頭の出来はふつうぐらいだ。
だからこそ優秀でなんでも出来る頭のいい兄と、小学校の時は比べられて嫌だったし、学年がダブらない中学高校でも同じ学校に通ってたから、教師に兄の話題を出されることも少なくなかった。
「孝行くんが出来ないわけじゃなくて、お兄さんが何でも出来てしまうだけなので…。ご家庭ではあまり比較せずにご兄弟それぞれ見守ってあげてください」
小6の時、担任が家庭訪問で母にそう言っていたのを、偶々聞いてしまったときは凄く落ち込んだ。
別に、自分でも薄々気づいていたけれど、それでも自分がどれだけ頑張っても兄には届かないんだよと言われたような気がした。
それまでは兄のことはそこそこ好きで、尊敬はしていた。
思えばこの発言を聞いた頃から、余計に兄の事を意識し始めた気がした。
羨望と嫉妬と尊敬。
それらが煮詰まっていったら、いつの間にかそこに恋情が挟まっていた。
一向に進まない問題集から目を外し、手持ち無沙汰にイスを揺らして軋ませる。
兄のことを考えてたら、昨日の情事を思い起こして自分の下半身がゆるく反応していた。
熱がこもった息を吐き出し、ベッドに移動する。ズボンを下ろして立ち上がりつつあるペニスを、ゆるく握った。
(兄ちゃん…)
自分よりも体躯が良く、身長の高い兄。
スポーツも運動も、音楽の才能もセンスもある。
行動力があって、先を見据えて動いている、社交的で優秀な兄。
昔から兄の近くに居て、聞こえてくる周囲の声はそんな評価だった。
いつも兄の背中ばかり追っていた気がする。
それは兄を尊敬しているからというより、お前の進む道はこっちだよと先導しているように感じたからだ。
兄が好きなレコードを家で流していたら、無意識に聴いてたし、兄がギターを買って弾き始めたら、俺もしばらくしてギターを買ってかき鳴らした。
別に自分の意志がないわけじゃない。自分が興味があるから、音楽の道に進んでいるだけ。
でもその道に、兄の足跡があったから興味を惹かれたのも確かだった。
大きな兄の背中。
俺にとってその背中は指標でもあり、壁でもあった。
息を荒げて右手のストロークを速める。
十分に立ち上がったペニスから垂れる先走りを左手の中指で掬い、そのままアナルに挿し入れる。
緩くほぐれたソコは、いとも簡単に中指を飲み込んだ。
昨日受け入れた兄の質量のあるペニスを思い出し、喉を鳴らす。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながら、両手を必死に動かす。
イきたいのにイけないもどかしさを感じていると、ガチャと玄関のドアが開く音がする。
時間帯的に両親ではなく、兄が帰ってきたんだと分かった。
(……誘ってみようかな)
荒い息を吐きながら、情欲で支配された頭でそう考える。
いつもは兄から行為を誘ってきて、それに俺が乗ることが殆どだ。だからたまには俺から誘ってみるのも良いかもしれない。
そう仄かな挑戦を企んでいると、そんな考えは、階下から聞こえてくる2人分の会話に呆気なく掻き消された。
聞き覚えのある男の声と、聞き馴染みのない女の声。
熱に浮かされた思考は急速に冷えて、
(俺の靴ーーー今日は下駄箱にしまったっけ)
と、別に隠れてるわけじゃ無いのに、そんな事に思考を巡らせる。
階段を登りながら声のトーンを抑えずに話している男女の様子を見て、家に誰もいないと思ってるんだと感じた。
俺の部屋の前を2人が通り過ぎていく。
よく通って知性を感じさせる女の声。
それ以上に癇に障る、甘く柔らかな男の声。
澄み切った水の中に墨汁を落としたかのように、じわじわと嫌な気持ちが広がる。
そうして楽しげに談笑する2人は、俺の部屋の隣の、兄の部屋に吸い込まれていった。
しばらくすると、二人の会話はどちらからともなく止み、何かが軋む音と嬌声が壁越しに聞こえてくるようになった。
思考が靄がかかったように混迷して、気持ちが落ち込む。
いつのまにかペニスも反応を失っていて、アナルに突っ込んでいた中指も抜き出した。
それでも隣から聞こえてくる微かな声に、生暖かい湿気が不快に纏わりつく、蒸し暑い夏の季節を思い出した。
(なんで俺が……)
そう頭で考えてから、無意識に自分が声にして発してないかを気にした。
(なんで俺があの部屋にいないんだろう。
なんで兄ちゃんは…俺じゃなくて彼女を選んだんだろう)
食卓で彼女の話題を口に出したり、隣の部屋で彼女と楽しげに電話している兄の様子を思い出す。
ベッドに置かれたズボンを引き寄せて、ゆっくりと穿く。
勉強机に足を向け、ほったらかしにされていた参考書に再度目を通す。
机の横に置かれたままのラジカセの電源を入れ、ヘッドフォンをつける。
(兄ちゃん……彼女と別れればいいのに)
そう心の中でぼやいて、転がったシャーペンを握った。
高校二年の秋と言うのもあり、受験がそろそろ間近に迫っていた。
学校全体でも周りの友人の間でも、受験モードの雰囲気が漂い始め、俺もそろそろやらなきゃなと授業の時にしか開かない参考書を引っ張り出したのだ。
新品同様の参考書とにらめっこをし、それでも分からなかったので教科書と板書を取ったノートを開く。なんで高校数学ってこんなに難しいんだ。わけのわからない数字とアルファベットの羅列を見据えてため息をついた。
自分で言うのもなんだけど、俺は頭の出来はふつうぐらいだ。
だからこそ優秀でなんでも出来る頭のいい兄と、小学校の時は比べられて嫌だったし、学年がダブらない中学高校でも同じ学校に通ってたから、教師に兄の話題を出されることも少なくなかった。
「孝行くんが出来ないわけじゃなくて、お兄さんが何でも出来てしまうだけなので…。ご家庭ではあまり比較せずにご兄弟それぞれ見守ってあげてください」
小6の時、担任が家庭訪問で母にそう言っていたのを、偶々聞いてしまったときは凄く落ち込んだ。
別に、自分でも薄々気づいていたけれど、それでも自分がどれだけ頑張っても兄には届かないんだよと言われたような気がした。
それまでは兄のことはそこそこ好きで、尊敬はしていた。
思えばこの発言を聞いた頃から、余計に兄の事を意識し始めた気がした。
羨望と嫉妬と尊敬。
それらが煮詰まっていったら、いつの間にかそこに恋情が挟まっていた。
一向に進まない問題集から目を外し、手持ち無沙汰にイスを揺らして軋ませる。
兄のことを考えてたら、昨日の情事を思い起こして自分の下半身がゆるく反応していた。
熱がこもった息を吐き出し、ベッドに移動する。ズボンを下ろして立ち上がりつつあるペニスを、ゆるく握った。
(兄ちゃん…)
自分よりも体躯が良く、身長の高い兄。
スポーツも運動も、音楽の才能もセンスもある。
行動力があって、先を見据えて動いている、社交的で優秀な兄。
昔から兄の近くに居て、聞こえてくる周囲の声はそんな評価だった。
いつも兄の背中ばかり追っていた気がする。
それは兄を尊敬しているからというより、お前の進む道はこっちだよと先導しているように感じたからだ。
兄が好きなレコードを家で流していたら、無意識に聴いてたし、兄がギターを買って弾き始めたら、俺もしばらくしてギターを買ってかき鳴らした。
別に自分の意志がないわけじゃない。自分が興味があるから、音楽の道に進んでいるだけ。
でもその道に、兄の足跡があったから興味を惹かれたのも確かだった。
大きな兄の背中。
俺にとってその背中は指標でもあり、壁でもあった。
息を荒げて右手のストロークを速める。
十分に立ち上がったペニスから垂れる先走りを左手の中指で掬い、そのままアナルに挿し入れる。
緩くほぐれたソコは、いとも簡単に中指を飲み込んだ。
昨日受け入れた兄の質量のあるペニスを思い出し、喉を鳴らす。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながら、両手を必死に動かす。
イきたいのにイけないもどかしさを感じていると、ガチャと玄関のドアが開く音がする。
時間帯的に両親ではなく、兄が帰ってきたんだと分かった。
(……誘ってみようかな)
荒い息を吐きながら、情欲で支配された頭でそう考える。
いつもは兄から行為を誘ってきて、それに俺が乗ることが殆どだ。だからたまには俺から誘ってみるのも良いかもしれない。
そう仄かな挑戦を企んでいると、そんな考えは、階下から聞こえてくる2人分の会話に呆気なく掻き消された。
聞き覚えのある男の声と、聞き馴染みのない女の声。
熱に浮かされた思考は急速に冷えて、
(俺の靴ーーー今日は下駄箱にしまったっけ)
と、別に隠れてるわけじゃ無いのに、そんな事に思考を巡らせる。
階段を登りながら声のトーンを抑えずに話している男女の様子を見て、家に誰もいないと思ってるんだと感じた。
俺の部屋の前を2人が通り過ぎていく。
よく通って知性を感じさせる女の声。
それ以上に癇に障る、甘く柔らかな男の声。
澄み切った水の中に墨汁を落としたかのように、じわじわと嫌な気持ちが広がる。
そうして楽しげに談笑する2人は、俺の部屋の隣の、兄の部屋に吸い込まれていった。
しばらくすると、二人の会話はどちらからともなく止み、何かが軋む音と嬌声が壁越しに聞こえてくるようになった。
思考が靄がかかったように混迷して、気持ちが落ち込む。
いつのまにかペニスも反応を失っていて、アナルに突っ込んでいた中指も抜き出した。
それでも隣から聞こえてくる微かな声に、生暖かい湿気が不快に纏わりつく、蒸し暑い夏の季節を思い出した。
(なんで俺が……)
そう頭で考えてから、無意識に自分が声にして発してないかを気にした。
(なんで俺があの部屋にいないんだろう。
なんで兄ちゃんは…俺じゃなくて彼女を選んだんだろう)
食卓で彼女の話題を口に出したり、隣の部屋で彼女と楽しげに電話している兄の様子を思い出す。
ベッドに置かれたズボンを引き寄せて、ゆっくりと穿く。
勉強机に足を向け、ほったらかしにされていた参考書に再度目を通す。
机の横に置かれたままのラジカセの電源を入れ、ヘッドフォンをつける。
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そう心の中でぼやいて、転がったシャーペンを握った。
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