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第18話 偽りの笑顔
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昼休みの中庭。
セドリックは、ミレイユが隣で囁く声に耳を傾けていた。
彼女は今日も、リディアがどれほど冷淡で、周囲に不快な思いをさせているかを話している。
言葉は柔らかく、表情も崩れない。
けれど、セドリックの胸に小さな棘が刺さったような感覚が残った。
「殿下、昨日のお茶会でリディア様が、わたくしのドレスの裾を踏まれて、思わず転んでしまったのです」
潤んだ瞳で、ミレイユは言葉を続けた。
「皆様の前で、本当に恥ずかしくて、でもあの方は謝りもなさらなくて」
「裾を踏んだ?」
セドリックは眉をひそめる。
「だが、昨日はリディアは生徒会の会合に出ていたはずだ。お茶会には出席していなかったのではないか?」
一瞬、ミレイユの笑みが固まる。
しかしすぐに、あどけない仕草で首を傾げた。
「まあ、そうでしたかしら。きっと、誰かと見間違えたのかも。でも、わたくしには確かにリディア様に見えて……」
声は柔らかく、表情も変わらない。
けれど、セドリックの胸に小さな棘が残った。
(確かにリディアは昨日、生徒会室にいたはずだ。間違いようがない)
ふと隣のミレイユを見る。
その瞳の奥に、一瞬だけ計算の影が揺らめいたように思えた。
(気のせいか?)
そう自分に言い聞かせながらも、芽生えた疑念は消えず、静かに胸の奥に沈殿していった。
セドリックは次の講義に向かう途中、廊下の角を曲がる手前で足を止めた。
曲がり角の先で、二人の女子生徒が小声で話している。
一人はミレイユ。もう一人は彼女に取り巻く令嬢のひとりだ。
「だから、殿下には『リディア様が嫌がらせをしてきた』って言っておけばいいの。どうせ信じてくださるわ」
軽い口調。
その声音には、可憐な笑顔で隠していたはずの冷たい響きがあった。
「で、でも……本当にそんなこと」
「大丈夫よ。細かいことなんて誰も確かめないわ。ほら、あの方は完璧すぎるから、みんな僻んでいるんですもの」
言葉の一つ一つが、氷のように胸に刺さる。
セドリックは、息をすることも忘れて立ち尽くしていた。
(嘘だったのか)
脳裏に、あの日の婚約破棄の光景が蘇る。
冷たい声で彼女を責め立てた自分。
怒りも見せず反論もせず、静かに受け入れた彼女。
あれは
侮蔑でも、負け惜しみでもなく。
ただ、深く傷ついた人間の顔だった。
(俺は何を、してしまったんだ)
胸の奥に鉛のような重みを抱えたまま、セドリックは角の陰に立ち尽くす。
そこへ、鈴の音のような声。
「あら、殿下!」
さきほどまで冷たい言葉を吐いていたはずのミレイユが、何事も無かったかのように笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。
栗色の髪が揺れ、柔らかく視線を上げる。
「探していたんです。今日の講義、ちょっとわからないところがあって。殿下なら、きっとすぐに教えてくださると思って」
甘えるように視線を上げるその目は、柔らかな栗色の髪の下で無垢を装っている。
だがセドリックの耳には、さきほどの冷酷な言葉がこだまする。
(『殿下には、リディア様が嫌がらせをしたと言っておけばいい』)
喉の奥が渇き言葉が出てこない。
「……殿下?」
「……いや、後でだ」
短く答えると、ミレイユの笑みがわずかに固まる。
けれどすぐに、作り物の笑顔で優雅に一礼した。
その微細な変化に、これまでなら気づかなかったはずだ。
「では、後ほど」
ミレイユは笑顔を崩さず、優雅に去っていく。
去っていく背を見送りながら、セドリックの胸にはただ冷たいものだけが残った。
(やはり俺は、間違えていた)
セドリックは、ミレイユが隣で囁く声に耳を傾けていた。
彼女は今日も、リディアがどれほど冷淡で、周囲に不快な思いをさせているかを話している。
言葉は柔らかく、表情も崩れない。
けれど、セドリックの胸に小さな棘が刺さったような感覚が残った。
「殿下、昨日のお茶会でリディア様が、わたくしのドレスの裾を踏まれて、思わず転んでしまったのです」
潤んだ瞳で、ミレイユは言葉を続けた。
「皆様の前で、本当に恥ずかしくて、でもあの方は謝りもなさらなくて」
「裾を踏んだ?」
セドリックは眉をひそめる。
「だが、昨日はリディアは生徒会の会合に出ていたはずだ。お茶会には出席していなかったのではないか?」
一瞬、ミレイユの笑みが固まる。
しかしすぐに、あどけない仕草で首を傾げた。
「まあ、そうでしたかしら。きっと、誰かと見間違えたのかも。でも、わたくしには確かにリディア様に見えて……」
声は柔らかく、表情も変わらない。
けれど、セドリックの胸に小さな棘が残った。
(確かにリディアは昨日、生徒会室にいたはずだ。間違いようがない)
ふと隣のミレイユを見る。
その瞳の奥に、一瞬だけ計算の影が揺らめいたように思えた。
(気のせいか?)
そう自分に言い聞かせながらも、芽生えた疑念は消えず、静かに胸の奥に沈殿していった。
セドリックは次の講義に向かう途中、廊下の角を曲がる手前で足を止めた。
曲がり角の先で、二人の女子生徒が小声で話している。
一人はミレイユ。もう一人は彼女に取り巻く令嬢のひとりだ。
「だから、殿下には『リディア様が嫌がらせをしてきた』って言っておけばいいの。どうせ信じてくださるわ」
軽い口調。
その声音には、可憐な笑顔で隠していたはずの冷たい響きがあった。
「で、でも……本当にそんなこと」
「大丈夫よ。細かいことなんて誰も確かめないわ。ほら、あの方は完璧すぎるから、みんな僻んでいるんですもの」
言葉の一つ一つが、氷のように胸に刺さる。
セドリックは、息をすることも忘れて立ち尽くしていた。
(嘘だったのか)
脳裏に、あの日の婚約破棄の光景が蘇る。
冷たい声で彼女を責め立てた自分。
怒りも見せず反論もせず、静かに受け入れた彼女。
あれは
侮蔑でも、負け惜しみでもなく。
ただ、深く傷ついた人間の顔だった。
(俺は何を、してしまったんだ)
胸の奥に鉛のような重みを抱えたまま、セドリックは角の陰に立ち尽くす。
そこへ、鈴の音のような声。
「あら、殿下!」
さきほどまで冷たい言葉を吐いていたはずのミレイユが、何事も無かったかのように笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。
栗色の髪が揺れ、柔らかく視線を上げる。
「探していたんです。今日の講義、ちょっとわからないところがあって。殿下なら、きっとすぐに教えてくださると思って」
甘えるように視線を上げるその目は、柔らかな栗色の髪の下で無垢を装っている。
だがセドリックの耳には、さきほどの冷酷な言葉がこだまする。
(『殿下には、リディア様が嫌がらせをしたと言っておけばいい』)
喉の奥が渇き言葉が出てこない。
「……殿下?」
「……いや、後でだ」
短く答えると、ミレイユの笑みがわずかに固まる。
けれどすぐに、作り物の笑顔で優雅に一礼した。
その微細な変化に、これまでなら気づかなかったはずだ。
「では、後ほど」
ミレイユは笑顔を崩さず、優雅に去っていく。
去っていく背を見送りながら、セドリックの胸にはただ冷たいものだけが残った。
(やはり俺は、間違えていた)
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