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夏の巻

晩夏の巻

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ここから先に書くことは実感がない。今までは確実に自身の人生を実際に生きたという体感があるのだが、ここからはなんだかフワフワとしていて頭の中に記憶としてあるのだが、自分が実際に体験したという確かな感覚がなく、現実世界から切り離された、頭の中の作り出した世界に生きているような感じで、あっという間に、ただ時間だけが過ぎていった。

この頃の思い出といえば、仲のいい仲間達と地元の史跡に夏休みの宿題でいくことになったことだ。遠い距離をまたバカな話をして歩いて、途中に神社があって、そこでみんなで休んだり、大きな橋を渡る時はグリコのゲームをしながら歩いた。最後の夏の時間といった感じだった。

中学の後半で、同じ通学バス仲間で特に仲がよかった友人のAが学校にこなくなった。
理由はよくわからない。ただ、先生と折り合いが悪そうだったのは覚えている。

自分はどうか。先生と折り合いが悪くなることなどはなかった。自分は先生に本音をいうこともできなかったからだ。

俺は前述したように勉強は壊滅的だったのだ。全くわからないし、宇宙語に聞こえるのだった。

特に数学はいつも学年でビリだった。が、補修もなかったし、声かけなどもなかった。

俺は中1の後半くらいから毎週、数学の塾に通うようになった。親が数学の教師に何度か話し合いをしたようだが、教師からは授業中に「期待している」と声をかけられただけで特に何もアクションはなかった。

頭の悪い生徒というのは、どこが分からないか、分からない。みんなが理解してるのに、授業をとめて質問をしたり、休み時間や放課後に質問するのができなかった。というより毎回宇宙語に聞こえるのだから授業が意味をなしておらず、毎日聞きに行かねばならなくなる。俺も何回かは質問をしにいったが、さすがに毎回は面倒だったし、通学バスの時間が決められていて放課後は残れない。

毎日50分の授業が宇宙語に聞こえて意味をなさないとして、質問にとれる時間は15分か多くて30分。小学校の基礎すらできないし、中学の最初から勿論意味不明だったから、そこからの回収作業などが必要だった。それを全て、自身で能動的に行うほど、ガキの自分は勉強への熱意はなかったし、教師側もスルーをきめこんでいた。

中学生の子供だったから友人とのバカ話や遊びを優先してしまっていた。といっても質問に答えてもらってもその問題ができるだけで他の問題はわからないのだが。

全くバカな生徒が先生に質問にいくというのは先生自身が思う以上に勇気のいることだとおもう。俺からは何回かアクションした。だが数学の先生は?補修も声かけすらもしてくれないじゃないか。学年ビリなんだぞ!なんで何もしてくれないんだと感じていた。

俺はすっかり先生に見捨てられたと思って学校にいかなくなった。他のみんなが数分で通える中学にいくなか、俺だけ往復数時間かけて学校にむかう。授業はてんで意味不明。そもそも小学校のときの生活が違うのだから、本来なら会うはずもないレベルの友人たち。いままでそいつらとの繋がりで学校にくる目的となってたけど、俺もいくのがバカらしくなったというか、学校は勉強を理解しにいくところなんだから意味がないんじゃないかとおもったというか、とにかく見捨てられたという気持ちになった。

何故先生はなにもしてくれないんだと。何故ほっておくのだと。でも、本音でぶつかれない俺は先生に直接そんなこということもできなかった。何かしら言い負かされるにきまっている。先生達はやる気があって地元でなく、受験が必要な中学にわざわざきたというスタンスだからだ。

不登校になっても手紙も連絡も一つもよこさないから更に見捨てられたという思いを強くした。特に数学の教師は自身の教育理論に自信をもってる大手塾のカリスマ講師のような人間で、先生は川辺までは連れて行くが、水を飲もうとしない、やる気のないやつはパッとリードを離してしまう。ということをよく言っていた。

やる気のないやつを何も成績をあげるとか、いい学校にいかせるとかを望んでたわけじゃなかった。ただ死なないように最低限の水を汲むそぶりでいいからみせてほしかったのだ。そもそも小学で受験してやる気もクソもあるか。と思っていた。

教師は自覚すらしておらず、そこが最もこの職業の恐ろしいところで、手術に失敗した医者のように自覚できるものではなく、本人の何気ない対応や悪気のない一挙手一投足が生徒の人生を壊しもするし、救いもする。とはいえ、仕方がないではすまないのだが、完璧にこなせる人間なんていないだろうし、悪気もないわけなので責めることはできない。

現在も最下位の生徒が自信満々に本音をぶつけられてるとは思えないし、人生を左右するどころか、狭い世界しか知らない子供によっては、もっと酷い結果になることもありえるから、もし縁があれば後々このことは伝えてみる価値はあるように感じた。
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