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王子の「チャーム」を逆手に取って、顔面ごと成敗してみた。
しおりを挟む「やあ、セレナ」
カイル王子が真っ赤な薔薇を抱え、完璧な貴公子の笑みを貼り付けて部屋に現れた。 取り巻きは3人いたが皆、目は虚ろで表情がなかった。王子様の影の触手が彼らに伸びて、拘束されてるように見えた。
「しかし、あのフィオナだったか? 君の友達にしては少し地味じゃないかな? まるで寄生虫のように君にへばりついて…」
(さあ、怒れ。僕を睨みつけろ。そのまま1分、目を逸らさずに僕を否定してみせろ。その視線こそが、僕の『魅了(チャーム)』を完成させる魔法陣になる……!)
「それに彼女は噂では…その口にしづらいんだが虐めをしているとか」
その瞬間。
セレナの瞳から一瞬、紫紺の輝きが消えた。 代わりに入り込んだのは、底知れない、どろりとした「闇」
ガクンと膝の力が抜けたセレナの体を、足元の影がヌルリと這い上がり、強引に直立不動へと固定する。
「……ははっ」
セレナの口から漏れたのは、お嬢様のものとは思えない、低く、乾いた笑い声。 そして彼女は、王子の鼻先に「中指」を突き立てた。
「おい、金ピカ野郎。フィオナを罵って俺……じゃなかった、私の注目を集めるなんて、随分とセコいマネしてんなぁ?」
「な、なんだって……?」
王子の笑みが凍りつく。10……20……王子の頭の中で刻まれていたカウントが狂い始める。
「『大切な友人が侮辱されれば、セレナは怒りに震えて僕を睨みつける。その怒りの凝視こそが、術(チャーム)に嵌るための最短ルートだ』……だっけ?」
「なっ……なぜ、それを……!?」
「情報網は誰かな?その汚ねぇドブ色の影かな?」
セレナ(俺)は一歩、王子に詰め寄った。王子の影がぐにゃりと歪む。
「『あと少しで僕の操り人形だ』悪いな、お前のその碧眼。1分間も見つめ合うには、濁りすぎてる」
「貴様、セレナではないな!? 何を……ぐあぁっ!?」
王子の足元のドブ影に、セレナの影が鋭く突き刺さる。
「動くな。……1分だっけ? ちょうどいい。お前のその腐った根性を叩き直すのに、それだけあれば十分だ。さあ、教育の時間だぜ、王子様(笑)」
拳を握りしめる。
セレナ(俺)が握りしめた拳に、足元の影(セレナ)がドロリと巻き付き、巨大な黒い「獣の腕」へと変貌する。
「…避けるなよ。1分間、目を逸らさないのがルールだったよな?」
ドォォォンッ! と、王子の完璧な顔面の真横の壁をブチ抜く。
王子が「あ、が……」と崩れ落ちる。取り巻きを縛っていた触手が、主人の動揺に合わせて霧散していく……。
「あれ?ここどこ?」「てか、何よこれぇっ!?」と騒ぐ少女のたちの目には正気が宿る。
握りしめた拳。その指先に、夜を凝縮したような黒く鋭い「影の爪」が突き出す。
同時に、セレナの頭上で影が逆立ち、まるで威嚇する獣の「耳」のような形を成した。
「…あ? 避けるかよ」
王子が恐怖で身を引こうとした瞬間、セレナの足元で影が爆ぜた。バネのようにしなった影の脚が、公爵令嬢の華奢な体を獣じみた瞬発力で加速させる。
((いっけええぇ!))
(同調率が…50%を超えてやがる!? 意識が、混ざる…!)
視界が赤く染まる。
「——ひっ、ぐぁあああ!!」
影の爪が王子の自慢の衣装をズタズタに引き裂き、手に纏わりついていた影がぶわりと膨れ上がり、腕の筋力が増して顔面に叩き込んだ。
頭に浮かんできたスキル。
「【影装・獣化(シャドウ・ビースト)】オフ」
ひゅんっと獣人のような片鱗は無くなった。そして、セレナと入れ替わると、ジークが身体を支えた。
二人ともMPが枯渇し、仲良く暗転した。
「おい、お前。あの王子をあそこまでボコるとは聞いてないぞ。後始末が大変だろうが…まあ、お疲れ」
ふと部屋の隅、近くの廊下の隅でシャッター音が響いたことに、王子は気づかなかった…
ボロボロになった仕立ての良い服、美形が台無しになるほどの鼻血や涙目は、新聞の記事に一面が載った。
王子の影は宿主を恥ずかしがるように引きこもりになった。もう悪さはしないだろう。
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