余命数日の公爵令嬢の影に転生した俺、毒を喰らって最強の影の大精霊になる 〜お嬢を蝕む毒はすべて、俺のレベルアップの糧でした〜

もふもふ隊

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ご機嫌よう、クソ……失礼。お清らかな学院の生徒諸君

第12話:さようなら、ドブ王子

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「やあ、セレナ。……その顔が見たかった。実に美しいかんばせだ」

真っ赤な薔薇の花束を抱え、カイル王子は剥製(はくせい)のような完璧な笑みを浮かべて現れた。 背後に控える三人の取り巻きは、瞳の光を失い、ゆらゆらと幽霊のように揺れている。王子の足元から伸びたドブ色の影が、彼女たちの首筋に触手のように絡みついているのが見えた。

「しかし、あのフィオナだったか? 君の友人にしては随分と地味で不潔だ。まるで君にへばりつく寄生虫じゃないか」

(さあ、怒れ。僕を睨みつけろ。そのまま10秒、目を逸らさずに僕を否定してみせろ。その視線こそが、僕の『魅了(チャーム)』を完成させる魔法陣になる……!)

カイルの碧眼が、毒蛇のように鈍く光る。

「聞くに堪えないが、彼女は陰湿な虐めを――」

「……ははっ」

その瞬間。 セレナの瞳から、宝石のような紫紺の輝きが消えた。 代わりに入り込んだのは、底知れない、ドロリと濁った「闇」

ガクン、と膝の力が抜けたセレナの体を、足元の影がヌルリと這い上がり、強引に直立不動へと固定する。

「おい、金ピカ野郎。フィオナを罵って俺……じゃなかった、私の注目を集めるなんて、随分とセコいマネしてんなぁ?」

「な、なんだって……?」

王子の笑みが凍りつく。5…………あれ今何秒だ? 王子の頭の中で刻まれていたカウントが、致命的に狂い始める。 セレナは、カイルの鼻先に、優雅な所作で「中指」を突き立てた。

「『大切な友人が侮辱されれば、セレナは怒りに震えて僕を睨みつける。その怒りの凝視こそが、術(チャーム)に嵌るための最短ルートだ』……だっけ?」

「なっ……なぜ、それを……!?」

「情報網は誰かな? その汚ねぇドブ色の影かな? ――悪いな。お前のその碧眼、10秒も見つめ合うには、あまりに濁りすぎてるぜ」

セレナ(俺)が一歩詰め寄る。そのプレッシャーに、王子の足元のドブ影が悲鳴を上げてのたうち回った。

「貴様、セレナではないな!? 何を……ぐあぁっ!?」

「動くな。……後何秒だっけ? まあ、もう意味ねーんだけど。さあ、教育の時間だぜ、王子様(笑)」

セレナ(俺)が握りしめた拳に、影がドロリと巻き付き、巨大な黒い【獣の腕】へと変貌する。

「……避けるなよ。10秒、目を逸らさないのがルールだろ?」

ドォォォォンッ!!

王子の顔面数センチ横。分厚い石造りの壁が、お嬢様の華奢な拳によって粉々に粉砕された。 衝撃波でカイルの耳から血が滴る。

「あ、が……ッ……!」

王子が腰を抜かして崩れ落ちると同時に、取り巻きを縛っていた触手が霧散した。少女たちが正気を取り戻し、「えっ、ここどこ!?」「何よこの破壊跡!?」とパニックを起こす。

だが、俺(セレナ)の猛攻は終わらない。 指先から、夜を凝縮したような黒く鋭い「影の爪」が突き出し、セレナの頭上では影が逆立ち、威嚇する獣の「耳」を成した。

「……あ? 逃げんのかよ。金ピカ」

王子が這いつくばって逃げようとした瞬間、セレナの足元で影が爆ぜた。 バネのようにしなった影の脚が、物理法則を無視した瞬発力で獲物を追い詰める。

にたり、と俺は不気味に笑う。

【同調率:53%→限界突破(リミットブレイク)】

 (意識が、混ざる……! 行っけえええええ!!)

視界が真っ赤に染まる。

「――ひっ、ぎゃあああああああ!!!」

影の爪が、王子の仕立ての良い特注衣装をズタズタに引き裂き、影によって筋力を数倍に跳ね上げた「公爵令嬢の鉄拳」が、王子の歪んだ美貌へと真っ向から叩き込まれた。

「【影装・獣化(シャドウ・ビースト)】――オフ」

ひゅん、と獣の片鱗が消える。 入れ替わりに意識を取り戻したセレナが、ぐらりと倒れ込むのを、背後に控えていたジークが音もなく支えた。

二人ともMPが完全に枯渇し、意識は深い闇へと沈んでいく。

「……やれやれ。お前、あの王子をあそこまでボコるとは聞いていないぞ。……後始末が大変だが、まあ、いい仕事だった。お疲れ」

ジークはそう呟くと、冷徹な手つきで王子の鼻血を拭うこともなく、ただ状況を記録するのみに留めた。

ふと、部屋の隅。 開いたままの扉の隙間から、小さなシャッター音が響いた。 身を隠していたのは、王室の腐敗を暴くことに執念を燃やす記者。……あるいは、別の派閥の密偵か。

自慢の衣装はボロ布となり、美形が台無しになるほどの鼻血と涙目で白目を剥いた第一王子の姿は、翌朝の新聞の一面を飾った。

【号外:第一王子カイル殿下、令嬢への不敬により『壁ドン(物理)』される】

王子の影は、あまりの屈辱に宿主を恥じ、それ以降、影の底に引きこもって二度と姿を見せなかった。 こうして学園の「碧眼の蛇」は、一晩にして「無様に狩られた獲物」へと成り下がったのである。


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