余命数日の公爵令嬢の影に転生した俺、毒を喰らって最強の影の大精霊になる 〜お嬢を蝕む毒はすべて、俺のレベルアップの糧でした〜

もふもふ隊

文字の大きさ
13 / 18
ご機嫌よう、クソ……失礼。お清らかな学院の生徒諸君

第12.5話:幕間・令嬢の切実な悩みと、影のモフモフ捏造大作戦

しおりを挟む
公爵令嬢セレナ・フォルテスには、誰にも言えない悩みがあった。 それは、「この世の可愛い生き物すべてに、激しいアレルギーがある」ということだ。

「……ふわふわ……。あぁ、なんて素敵なの……」

学院の中庭で執事のジークが野良猫を(無愛想に)追い払おうとしているのを見て、セレナは窓に顔を押し付けて悶絶していた。だが、もし一歩近づけば、彼女の美しい紫紺の瞳は真っ赤に腫れ、喉は喘息でヒューヒューと鳴り始める。

(お嬢…そんなに悲しそうな顔すんなよ。ただの動く毛玉だろ?)

影の中で、俺は呆れていた。

「違うのよカゲレナちゃん。あの『ふわふわ』の中に顔を埋めるのが、私の、一生に一度でいいから叶えたい夢なの…」

(一生に一度が大げさなんだよ…ちっ、分かったよ。しょうがねーな)

その日の夜。 俺は【影の分身(パペット)】を総動員した。 さらには、セレナがいつも抱きしめているぬいぐるみの綿を少しだけ影の中に引きずり込み、【影操(ぬいぐるみ)】の技術を応用して「質感」を捏造(ねつぞう)する。

「…あれ? カゲレナちゃん、何してるの?」

ベッドの上。セレナの足元から、黒い霧のようなものがモコモコと盛り上がった。 それは次第に形を成し、ピンと立った耳、しなやかな尻尾、そして——。

「猫……? 影の、猫さん……?」

(……アレルギーは出ねーはずだ。毛じゃなくて俺の魔力だからな。ほら、触ってみろ)

セレナがおそるおそる指を伸ばす。 その指先が影に触れた瞬間。

「……っ! ふわふわ……じゃないけれど、とっても滑らかで……温かい」

俺は【魔力還流】を逆流させ、影の表面にセレナの体温と同じ「熱」を持たせた。 さらに影を細かく振動させ、猫が喉を鳴らす「ゴロゴロ」という音まで再現する。

「あぁ……幸せ……」

セレナは、俺が作った「影猫」を抱きしめ、頬ずりをした。 影だから、鼻がムズムズすることもない。涙が出ることもない。

(…へっ、チョロいもんだぜ)

調子に乗った俺は、次に窓の外を飛んでいた小鳥の形を模して、部屋の中に「影の鳥」を何羽も羽ばたかせた。 漆黒の翼が月光を遮り、部屋中を舞う。セレナは子供のようにそれらを追いかけ、笑った。

だが、この「遊び」が、俺にあるインスピレーションを与えた。

(…待てよ。影で動物を模倣して、動かせるってことは…これ、お嬢の体に直接「纏わせる」こともできるんじゃねーか?)

影を「抱きしめる」のではなく、影を「着る」もし、影で作った野獣の脚をセレナの脚に重ねれば? 影で作った猛禽の動体視力をセレナの瞳に上書きすれば?

「ねえ、カゲレナちゃん。今度は…もっと大きな、格好いい狼さんになって!」

セレナの無邪気なリクエストに応え、俺は彼女の体全体を覆うような、巨大な影の獣を形作った。その瞬間、セレナの華奢な体が、影の筋力と直結する。

(……これだ。これなら、お嬢でも、世界中を駆け回れる)

これが、後に王子を壁に叩き込み、戦場を蹂躙することになる禁忌のスキル——【影装・獣化(シャドウ・ビースト)】が誕生した瞬間だった。

「ふふ、私、なんだかすごく力が湧いてくるわ! どこまでも走れそう!」

(おうよ、お嬢。あんたが望むなら、猫にでも猛獣にでも化けさせてやる)

月明かりの下、令嬢と影の獣は、夜の部屋で静かにダンスを踊った。 翌朝、セレナは猛烈な筋肉痛で起き上がれなくなったが、その顔には満足げな笑みが浮かんでいたという。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...