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ご機嫌よう、クソ……失礼。お清らかな学院の生徒諸君
第13話:だいにおうじぃ?
しおりを挟む同調率50%超えの「獣化」を解いた代償は重かった。 セレナは数日間寝込み、俺のMPはマイナスへ。形を保つのが精一杯で、しばらく「カゲレナ」として話すことすらできなかった。
「カゲレナちゃん……死んじゃったの?」
ギュッと、幼い頃から肌身離さず持っているぬいぐるみを抱きしめ、顔を埋めるセレナ。溢れた涙がぬいぐるみの柔らかな毛を重く濡らしていく。
(…自分のことより、影の心配なんかすんな)
そう言いたくても声が出ない。だが、その温かさと重みが、意識の底に沈んでいた俺の輪郭をかろうじて繋ぎ止めていた。
そこへ、救世主(片眼鏡の毒使い)が現れた。ジークだ。 彼が持ち込んできたのは、最高級の毒。
「美食家(ソムリエ)」としての本能が、死にかけの俺を叩き起こす。MP不足で朦朧としていた意識が、その芳醇な死の香りを嗅いだ瞬間に跳ね起きた。
(……っ! なんだこの、鼻腔を突き抜けるような暴力的なまでの芳醇さは……!)
本能が、歓喜に震える。もし人間なら、涎が口中に溢れていただろう。
「溢すなよ……」
ジークが呆れたように呟く。セレナの影――つまり俺の口の中に、煮えたぎる紫色の劇薬が流し込まれた。
(ごっ、ごく……ッッ! おおおおおお!!)
飲みきれなかった分は小瓶ごと「影の貯蔵庫(シャドウ・ストレージ)」へ放り込んだ。これ、あとでチビチビやるのが楽しみだぜ。
毒を濾過した高純度の魔力がセレナへ還流し、青白かった彼女の頬に一気に赤みが差す。パチリ、と彼女の瞳が開いた。
「……あ、れ? 私、すごく元気……」
その足元で、以前よりさらに濃く、禍々しくうねる影が答える。
(げぷぅ……ふぅ、食った食った。お嬢、心配かけちまったな。……おいジーク、この『特選・毒サソリのエキス』ヴィンテージ物だろ? 喉越しが最高だったぜ)
「カゲレナちゃん! しゃべった!」
泣きながら喜ぶセレナ。一方、ジークは空になった瓶を回収しながら、いつも通り冷ややかに告げる。
「お元気そうで何よりだ。さて、回復したのなら新聞を読め。お前がしでかした『暴挙』の結果だ」
【第一王子、精神衰弱で引き籠もり? 継承権の行方は第二王子へ】
(だいにおうじぃ……?)
「なあに? カゲレナちゃん」
嫌な予感がして、俺はお嬢の顔を覗き込んだ。 思えば、ボコボコにして再起不能(リタイア)にした第一王子は、性格はドブカスだったが顔面だけは一級品だった。
(まずい。お嬢はコロッといきそうな『美形好き』の気があるからな。今度の王子がもし、兄貴以上のキラキラ天然美形だったら……)
想像するだけで影が真っ黒に濁る。 もしそんな奴が「兄を倒した勇敢な君に一目惚れした」なんて甘い言葉を巧みに使うやつだったら? 今度は青い薔薇の花束でも持ってきたら?
(絶対に、お嬢をたぶらかしに来る。間違いない。毒で中和できないタイプの『毒(イケメン)』だ……!)
「そんなにジロジロ見て、どうしたの?」
不安で影を波立たせる俺に、セレナは不思議そうに小首をかしげた。 直後、ジークが「顔など皮一枚剥げば皆同じだ」と吐き捨てた。
今回ばかりは、あの陰険眼鏡と心が完全にシンクロしたぜ。全くだ! その通りだ!
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