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サンタヤーナの警句(第八話)
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八
翌日、さっそく井坂の忠言に従って「実質金利」を検索してみた。
「実質金利とは物価上昇率を勘案して見た金利のこと」とあった。「ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)」とも呼ぶそうだ。その解説によれば、こういうことになる。
手許の100ドルを年5%で銀行へ預けると、1年後には105ドルを受け取れる。いまちょうど欲しい帽子があるのだが、値段が104ドルするため、手許の100ドルでは足りない。そこでこの100ドルを銀行へ預け、1年我慢してあらためて帽子を買いに行くことにした。ところが1年後、帽子の値段は108・5ドルへ上がっていた。インフレのためである。せっかく金利で5ドル稼いでもインフレがモノの価格を引き上げるから、結局、帽子は買えなかった。
そこで“お金”に敏感な人たちは、銀行の店頭に表示される金利よりも1年後に実際のお金の“価値”はどれくらい増えているか、減っているか、つまりどのくらいの買い物ができるのかを重視することにした。これを算式で表すとこうなる。
実質金利=名目金利-インフレ率
名目金利とはいま表示されている金利のこと。実質金利にも「短期実質金利」と「長期実質金利」があって、短期の場合はアメリカの政策金利のフェデラル・ファンド(FF)レートから毎月公表される消費者物価指数を差し引いた数値に当たる。しかし実際には、「5年」や「10年」といった少し期間の長いものが使われ、その場合の名目金利には国債の利回りが当てられる。そして算式もこのように変わる。
実質金利=名目金利-期待インフレ率
この場合の「期待インフレ率」とは、将来のインフレ率の予測という極めて曖昧な代物で、インンフレ連動債を基に算出されるそうだ。
さて、実質金利の概念は分かった。だが知りたいのは実際の数値である。そこでさらに検索を続けたが、どれもこれも“御託”ばかり並べおって……。結局、ネットも「自分でやれ」と言っているようだった。
名目金利は米国債の金利だから、すぐに調べが付いた。問題は「期待インフレ率」の方で、こちらはいささかハードルが高かった。いくつかのサイトを当たったが、折れ線グラフしか見当たらなかった。自分もこのグラフを作りたい。そのためにはグラフでなく実数が必要なのだ。
途方に暮れていて或るグラフを眺めていた隆三は、「あっ」と声を上げた。捨てる神あれば拾う神ありではないか! あきらめてサイトを閉じようとしたとき、偶然グラフにカーソルを這わせるかたちになった。すると、折れ線の右上に吹き出しのような枠が現れ、その日の「5年」と「10年」の期待インフレ率が数字で記された。これはありがたい! 何だかプレゼントをもらったような気分になった。
こうしてやっと作業に取り掛かることができた。グラフにカーソルを這わせ、毎日の数字を手書きで抜き出す。端から見れば何ともチマチマした作業だが、うまいやり方を考えているより動いた方が早い。今の自分が知る限り、こうするほかにないのだ。
右手でカーソルを動かし、右手でシャープペンシルを走らせる。微妙な力の入り加減で、ついついカーソルが隣の日へズレてしまう。写し取る際にも余計な力が入って、何度もシャープペンの芯を折った。何とはなしに学生時代を思い出した。
“円安”がささやかれはじめた2022年3月から直近までを、ようやく写し終えてエクセルへ手入力する。
果たしてどんなものができるだろうか? 昼食を取るのも忘れて作業に打ち込み、ようやく終えたら夕方になっていた。目がチカチカする。やはり中高年にはキツイ作業だ。
ズラリと並んだ数字を基にグラフを作成する。本来なら吉川に丸投げしたいところだが、それでは“自由人”の沽券にかかわる! 独りでシコシコ、ネットを参照しつつ、悪戦苦闘を繰り返した。
すでに社内には誰もいない。最後の手順を終えて、ここをクリックすれな完成だ。
「やっ!」
「うほっ……。へぇ~」
表示されたグラフに驚き、次いで椅子の背にもたれて感嘆を漏らした。井坂のいう通りの結果が出てきた。しかもそれを自分で作ったのだから、喜びもひとしおだった。
翌日、さっそく井坂の忠言に従って「実質金利」を検索してみた。
「実質金利とは物価上昇率を勘案して見た金利のこと」とあった。「ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)」とも呼ぶそうだ。その解説によれば、こういうことになる。
手許の100ドルを年5%で銀行へ預けると、1年後には105ドルを受け取れる。いまちょうど欲しい帽子があるのだが、値段が104ドルするため、手許の100ドルでは足りない。そこでこの100ドルを銀行へ預け、1年我慢してあらためて帽子を買いに行くことにした。ところが1年後、帽子の値段は108・5ドルへ上がっていた。インフレのためである。せっかく金利で5ドル稼いでもインフレがモノの価格を引き上げるから、結局、帽子は買えなかった。
そこで“お金”に敏感な人たちは、銀行の店頭に表示される金利よりも1年後に実際のお金の“価値”はどれくらい増えているか、減っているか、つまりどのくらいの買い物ができるのかを重視することにした。これを算式で表すとこうなる。
実質金利=名目金利-インフレ率
名目金利とはいま表示されている金利のこと。実質金利にも「短期実質金利」と「長期実質金利」があって、短期の場合はアメリカの政策金利のフェデラル・ファンド(FF)レートから毎月公表される消費者物価指数を差し引いた数値に当たる。しかし実際には、「5年」や「10年」といった少し期間の長いものが使われ、その場合の名目金利には国債の利回りが当てられる。そして算式もこのように変わる。
実質金利=名目金利-期待インフレ率
この場合の「期待インフレ率」とは、将来のインフレ率の予測という極めて曖昧な代物で、インンフレ連動債を基に算出されるそうだ。
さて、実質金利の概念は分かった。だが知りたいのは実際の数値である。そこでさらに検索を続けたが、どれもこれも“御託”ばかり並べおって……。結局、ネットも「自分でやれ」と言っているようだった。
名目金利は米国債の金利だから、すぐに調べが付いた。問題は「期待インフレ率」の方で、こちらはいささかハードルが高かった。いくつかのサイトを当たったが、折れ線グラフしか見当たらなかった。自分もこのグラフを作りたい。そのためにはグラフでなく実数が必要なのだ。
途方に暮れていて或るグラフを眺めていた隆三は、「あっ」と声を上げた。捨てる神あれば拾う神ありではないか! あきらめてサイトを閉じようとしたとき、偶然グラフにカーソルを這わせるかたちになった。すると、折れ線の右上に吹き出しのような枠が現れ、その日の「5年」と「10年」の期待インフレ率が数字で記された。これはありがたい! 何だかプレゼントをもらったような気分になった。
こうしてやっと作業に取り掛かることができた。グラフにカーソルを這わせ、毎日の数字を手書きで抜き出す。端から見れば何ともチマチマした作業だが、うまいやり方を考えているより動いた方が早い。今の自分が知る限り、こうするほかにないのだ。
右手でカーソルを動かし、右手でシャープペンシルを走らせる。微妙な力の入り加減で、ついついカーソルが隣の日へズレてしまう。写し取る際にも余計な力が入って、何度もシャープペンの芯を折った。何とはなしに学生時代を思い出した。
“円安”がささやかれはじめた2022年3月から直近までを、ようやく写し終えてエクセルへ手入力する。
果たしてどんなものができるだろうか? 昼食を取るのも忘れて作業に打ち込み、ようやく終えたら夕方になっていた。目がチカチカする。やはり中高年にはキツイ作業だ。
ズラリと並んだ数字を基にグラフを作成する。本来なら吉川に丸投げしたいところだが、それでは“自由人”の沽券にかかわる! 独りでシコシコ、ネットを参照しつつ、悪戦苦闘を繰り返した。
すでに社内には誰もいない。最後の手順を終えて、ここをクリックすれな完成だ。
「やっ!」
「うほっ……。へぇ~」
表示されたグラフに驚き、次いで椅子の背にもたれて感嘆を漏らした。井坂のいう通りの結果が出てきた。しかもそれを自分で作ったのだから、喜びもひとしおだった。
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